創作小説屋

創作小説連載中。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~翼を広げて・二年目-1

2017年09月15日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  翼を広げて

2004年夏


【早坂さん視点】


 ある入院患者が亡くなった。
 彼女は健気に戦い、そして穏やかな最期を迎えた。誰のせいでもない。そういう運命だった、と、皆が言った。彼女の両親でさえ、深い悲しみの中でその運命を受け入れようとしていた。

 でも、渋谷先生は………
 渋谷先生は、ひたすら自分を責め続けていた。一週間経っても、日常業務に支障をきたすほど、様子がおかしかった。


「あれだけ忠告したのに……」
 自動販売機のコーナーの前を通りかかった時に、峰先生が苦々しく言っているのが聞こえてきて、思わず立ち止まってしまった。

「お前、患者に近づきすぎなんだよ」
「……………すみません」

 小さな声。相手は渋谷先生だ……

「お前はやるべきことはすべてやった。充分、役目は果たした」
「…………でも」

 渋谷先生の消え入るような声……

「おれじゃなくて、峰先生が担当医だったら……」
「同じだ、バカ」

 バシッと叩かれたような音。

「医者が何でもできると思うなよ。だいたいなあ……」

 峰先生の愛のお説教はまだまだ続きそう……

 一緒に立ち聞きしていた同僚の1人が、その場を離れてから「あのー」と声をかけてきた。

「渋谷先生って、患者さん亡くなった経験、初めてなんですか?」

 聞いてきたのは、先月小児科に配属されたばかりの橋本さん。即座にベテランの大貫さんが首を振った。

「そんなことはないんだけど……、先生が自分一人で受け持った担当患者からは、初めて……なんだよね。付き合いも深かったし……」
「ああ………」

 みんなで胸に手を当てて、渋谷先生の気持ちを慮る。
 渋谷先生は、はたから見ていても、やりすぎじゃないか、というくらい、患者さんに寄り添おうとしていた。先輩医師の峰先生にそれを何度か注意されていたのもみんな知っている。

「渋谷先生はまだ若いから張り切ってるんだよね。いいじゃないのよねえ」

 なんて、看護師の間では峰先生の注意が笑い話になっていたけれど……、こうなってしまっては、峰先生の忠告こそが正しかった、と思えた。どこかで線を引かなければ、精神的にやられてしまう。それで仕事ができなくなるのでは本末転倒だ。

 でも……気持ちはわかる。

「あとで発表になるけど……、渋谷先生にはしばらく休みを取ってもらうって」

 大貫さんが「まだ内緒よ」と口に指をあてながらいった。

「ちょうど夏休み期間だしね……。頭切り換えてきてくれるといいんだけど……」
「でも………」

 思わず言葉が出てしまう。

「そのまま辞めちゃったり………」
「…………」
「…………」

 みんなで顔を見合わせ……首を振った。

 渋谷先生……カッコ良くて優しくて、みんなのアイドルだったのに……

 どうか乗り越えて帰ってきてくれますように…………



 そんなみんなの願いが通じたのか、渋谷先生は10日間の休みのあと、ちゃんと復帰してきた。

「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げた渋谷先生。

「今後ともよろしくお願いします」
「…………っ」

 その眼差しに、女性陣から「きゃあっ」みたいな声が上がった。きゅんとさせられるような瞳……

「なんかますますかっこよくなったね~」
「一皮むけていい感じ~」

 挨拶の後、みんなはそんな話をしていたけれど………

(…………違う)

 私は、違和感を感じていた。

(渋谷先生……人形みたい……)

 今までのオーラが情熱の赤、だったとしたら、今は……透明に近い青……

 もう大人なんだから、こう言うのは変なのかもしれないけど、「大人っぽくなった」という言葉が一番当てはまるかもしれない。

 少年のようにキラキラしていた瞳は、落ち着いた透明感のある光に変わっていて………完璧に整った容姿はそのままなのに、まるで雰囲気が違う……

(先生、大丈夫………?)

 儚げ……ともいえる雰囲気に心配が募る。

 先生はこの休みの間に、遠距離恋愛中の彼女に会いにいった、という噂だ。そこでも何か大きな変化があったのだろう。そうでなかったら、こんなに変わるわけがない。

 別れた……のかな……

(先生………)

 遠くにいる彼女より、近くにいる私の方が、先生を支えてあげられる……

(私が、支えます)

 勝手な決意を胸に、ぎゅっと両手を握りしめた。





【浩介視点】


 ケニアに来てから、夢を見る回数が減った。不眠症だったのが嘘のように、気がついたら寝ている、という毎日を過ごしていた。それだけ疲れているのだろう。

 それでも、数少ない夢の中に出てくるのは、当然慶の姿で………。日中も、ふとしたときに、すぐ近くに慶がいるような感覚に陥って、しめつけられるような愛しさと寂しさにとらわれていた。


 そんな中……、本当に、本物の慶が会いに来てくれた。

 1年4ヶ月ぶりに触れる慶の頬………

 あらためて思い知る。こんなにもいとおしい。こんなにも愛してる……


「急に夏休みが取れたから遊びに来た」

 慶はそう言ったけれど、何かあったことは明白だった。慶、やつれてる………

 シーナとアマラのいる母屋では、気丈に明るくふるまっていた慶。離れのおれの部屋に入った途端、ふうっと大きくため息をついた。

「お前はすごいな……」

 狭いおれの部屋の中に、慶の良く通る声が小さく響く。

「生徒だけじゃなくて、村の人にまで頼られて……」

 慶は自分の手のひらをジッと見つめてから、ポツリ、とつぶやいた。

「それに比べて…………おれは、無力だ」
「そんなこと……」

 何があったのかは分からない。でも、痛いほど、辛い、ということだけは伝わってくる……

 何を言えばいいんだろう……

「………おれがこの国に来る勇気を持てたのは慶のおかげだよ?」

 迷った末にそれだけ言うと、慶は目を伏せて……

「………浩介」

 ぎゅっと抱きついてきた。愛しい感触……

「慶……」

 そのまま、狭いベッドになだれ込み、1年4ヶ月分のキスをした。

**

 さすがになんの用意もなく最後まですることは躊躇われたので、初めての時のように、お互いを高めあ……………ったのは、いいんだけど……二人して、あっという間に達してしまって……

「ご、ごめん、久しぶりすぎて……」
「おれも……」

 あまりにも早すぎだし、半端ない量が出るしで、思わず、顔を見合わせ、笑いだしてしまった。

「あー……おかしい」
「だねー……久しぶりだとこんな風になるんだね」

 慶もおれと離れてからは、自分で抜くこともほとんどしていなかったそうだ。おれも同じだ。なんかそんな気分にならなくて……

 笑いながらまた唇を合わせる。

「慶、大好き」
「うん」
「大好きだよ」
「ん」

 ぎゅうっと抱きしめながら、何度も何度も囁いていたら、慶がすーっと眠りに落ちた気配がした。愛しい慶……

(慶……)

 何があったのかは分からないけれど…

『しばらくこちらにいます』

 シーナに『いつまでいるの?』と聞かれ、慶はそう答えていたので、まだ時間はあるということだ。そのうち教えてくれるかな……

 と、いうか、

(しばらく、じゃなくて、ずっとここにいればいい)

 そんな辛い顔をさせる日本なんかさっさと棄てて、ここにいればいい。おれと一緒にいればいい。

 もしかして、慶もそのつもりで来たのではないだろうか……

「慶……」

 そっとその額にキスをすると、おれも安心したからか急激な睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまった。

 そして、朝が来て………

 慶がいなくなっていることに気がついた。

 慶はおれには何も言わず、日本に帰ってしまったのだ。



----------------------------


お読みくださりありがとうございました!
峰先生の「患者に近づきすぎるな」。これから10年以上後のお話になる『たずさえて』でも、そう言って戸田先生に説教しておりました。あのセリフの下地には、上記の慶の一件もあったのでした……

次回は9月19日(火)更新予定です。よろしくお願いいたします。


クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございますっ!!
おかげで続きを書くことができております。暗い話が続きますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします…


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

小説(BL) ブログランキングへ

↑ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「翼を広げて」目次 → こちら
ジャンル:
小説
コメント (3)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« BL小説・風のゆくえには~翼... | トップ | BL小説・風のゆくえには~翼... »

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
面白いです (なおこ)
2017-09-15 17:17:44
こんにちわ

視点が変わるだけでこんなに作品がかわるなんて、作者さん、さすがの文章力です!
浩介、明るくなってる。あんなにマイナス思考だったのに、、、逆に慶は、患者さんの死もあるだろうけど、浩介が側にいないこともしんどいんだろうなあ。アフリカにいってもアフリカの女にきついこと言われるし、踏んだり蹴ったりだよね。
まあ、あれだけ仕事仕事で、浩介を放っておいてて、慶の知らないところで浩介は、真木先生に嫌みを言われて落ち込んでたことを考えると5分5分のような気もしないでもないのですが、、、慶はここでの辛さがあるから、愛情の形で、思いやりを持てたんですね

ところで、作者さん、夫婦で趣味を持ってるなんて、素敵ですね。お互いの趣味を尊重して、お互いの趣味のときは子供をみるって、羨ましいです!
あれから、はたと気付きました。私、趣味ってなんだろう、、、小説読むぐらいで、子供のために、キャンプとかいってるけどもともとキャンプがすきではないし。週1回の平日の仕事休みはひたすら友達と会ってランチしながらはなしまくってる感じで(>_<)それが気分転換になってるのかな~月曜日ランチした友達は、めちゃくちゃモテてる人生を歩んでて。もちろん美人なんですが、お話がめちゃくちゃ面白くて、家にプールがあって、何人もの医者にプロポーズされて、プロポーズの宝石の石がたくさんあるのよといってて。大阪人は美人で話も上手でも嫌みがないです!

また、火曜日楽しみにしてます
Re:面白いです (shou0530)
2017-09-16 09:01:34
わ~~コメントありがとうこざいます!
気がつくの遅くてすみません💦
それで、さらにすみません💦これから人と一緒なので、夜あらためます💦
嬉しいコメント本当に本当にありがとうこざいます😆💕✨
なおこ様! (尚)
2017-09-17 06:13:27
すみませんっ!!
化粧も落とさず洋服のまま床で寝てしまっていて、今、寒くて起きました…。
お返事遅くなり大変失礼いたしました。


>視点が変わるだけでこんなに作品がかわるなんて、作者さん、さすがの文章力です!

えええええ?!そ、そんな過分なお言葉……っ
び、ビビっております……。と、とんでもないです。あ、ありがとうございますっっ


>浩介、明るくなってる。あんなにマイナス思考だったのに、、、

そうそう!そうなんですよ!!
浩介さん、人生二度目の、前向き期間^^;
一度目は、就職してはじめの3年間でしたが……
まー、ようは、お母さんからの干渉がなかった期間、と言いましょうか……

>逆に慶は、患者さんの死もあるだろうけど、浩介が側にいないこともしんどいんだろうなあ。アフリカにいってもアフリカの女にきついこと言われるし、踏んだり蹴ったりだよね。

おおお!!なんと!なおこさん!!そんなことを覚えていてくださったとは!!感動です!!
そうそう。きついこと言われるんです。
ちょうど金曜の午前中に、そこらへんのセリフとか前の要約からコピペしてたので、タイムリー過ぎてビックリしましたっっ。

>まあ、あれだけ仕事仕事で、浩介を放っておいてて、慶の知らないところで浩介は、真木先生に嫌みを言われて落ち込んでたことを考えると5分5分のような気もしないでもないのですが、、、慶はここでの辛さがあるから、愛情の形で、思いやりを持てたんですね

5分5分(笑)(笑)!!言えてる!!
そうそう。そうですそうです。5分5分だと思います(笑)

>ところで、作者さん、夫婦で趣味を持ってるなんて、素敵ですね。お互いの趣味を尊重して、お互いの趣味のときは子供をみるって、羨ましいです!

えええっいやいやいや……てんでバラバラなので別行動が多くて……
今はいいけど、老後とかどうなんでしょうこれ^^;

>あれから、はたと気付きました。私、趣味ってなんだろう、、、小説読むぐらいで、子供のために、キャンプとかいってるけどもともとキャンプがすきではないし。

キャンプ好きじゃないのに、子供のためにいってるってところが、偉すぎます!!ほんと、うちも見習わないと……

>週1回の平日の仕事休みはひたすら友達と会ってランチしながらはなしまくってる感じで(>_<)それが気分転換になってるのかな~

それはいいですね~~^^
こないだもテレビで、女性のストレス解消は話すことが一番!って言ってましたもの!

>月曜日ランチした友達は、めちゃくちゃモテてる人生を歩んでて。もちろん美人なんですが、お話がめちゃくちゃ面白くて、家にプールがあって、何人もの医者にプロポーズされて、プロポーズの宝石の石がたくさんあるのよといってて。大阪人は美人で話も上手でも嫌みがないです!

おおおっ!それはまた素敵なお友達さんですね!!
いや~~ホント、世の中色々な人がいるんですねえ……
こういうお話を聞くと、勇気がわいてきます^^
教えてくださってありがとうございます!!

>また、火曜日楽しみにしてます

わ~~ありがとうございますっ!!
ご期待に添える出来になっているか、かなり不安なのですが…
どうぞよろしくお願いいたしますっ。

お返事遅くなりまして大変失礼いたしました。
嬉しいコメント本当にありがとうございました!!

コメントを投稿

BL小説・風のゆくえには~  翼を広げて」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL