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BL小説・風のゆくえには~翼を広げて・二年目-2

2017年09月19日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  翼を広げて

【慶視点】


 おれは、無力だ。

 その小さな命の火が消えた時、おれは自分の無力さを本当の意味で思い知った気がする。


「患者にも患者の家族にも寄り添える医者に」
「一緒に戦う戦友みたいな医者に」

 そんな医者になる、と高校2年生の時に決意して以来、ずっとこの道にかけてきたつもりだった。

「おれはおれのやるべきことをここで頑張る。だから、お前も頑張ってこい」

 最も愛しい人の手を離してまでも、おれはこの道を選んだ。


 浩介がケニアに行くと言ったあの日の朝。

「あたし、渋谷先生が一緒にいてくれるから頑張れるんだ」

 そう、病床のあの子が言ってくれた。

「渋谷先生みたいに一人一人の患者さんに寄り添うことなんて、他の人にはできません」

 そう、看護師の早坂さんが言ってくれた。

「ちゃんと背中押して来なよ。後悔するよ」

 そう、妹の南が言ってくれた。

 だからおれは、見送りにいけた。ちゃんと笑顔で背中を押してこられた。


 あれから一年四か月……
 おれは何も成せていない。ただ、自分の無力さを思い知っただけだ。


***


 役立たずになったおれは、強制的に10日間の休みを取らされた。
 日がな一日ボーっと過ごしている中で、思い出されるのは、あの温かい腕で、あの優しい眼差しで……


「………浩介」


 会いたい。


 一度そう思ってしまったら、もうダメだった。
 堰を切ったように流れ出したその思いは、おれの中を埋め尽くして、息もできなくなって……

 それから後のことは自分でもよく覚えていない。浩介の所属しているNPO法人に問い合わせをして、ケニア支部の住所を教えてもらって、必要最低限の荷物だけもって空港に向かい、それで……気が付いたら、ケニアの地を踏んでいた。

 現実味のないまま、浩介の勤め先である学校に向かって……

「あ………」

 生徒達に囲まれた浩介の姿が目に入った瞬間………果てしない後悔の念にかられた。


 おれは、ここに来てはいけなかったんだ。


**


 その日の夜、浩介のベッドで久しぶりにその温もりを味わった。

「慶……大好きだよ」

 何度も耳元で囁いてくれた。日本にいた時と同じように……
 せめてこの瞬間だけでも、と、すべてを忘れて、その愛に包まれて眠りに落ちた。けれども……

 一時間もたたないうちに目が覚めた。

(浩介……寝てる……)

 浩介は日本にいたころは、不眠症気味だったので、寝顔を見せてくれることがほとんどなかった。それが今はどうだ。こんなに幸せそうな顔をしてグッスリと眠っている……

(ケニアに来て、よかったな?)

 そっと、その柔らかい髪を撫でながら、どうしようもない愛しさと寂しさにとらわれる……



 昼間……浩介は、学校の校庭で、俺の姿を見つけた途端、ものすごい勢いで走ってきて、

「会いたかった! 会いたかったよ! 慶!」

 周りにいた生徒達の目も気にせず、泣きながらおれのことを抱きしめてくれた。
 冷やかすように子供達に何か言われると、照れ笑いをしながら、現地の言葉で何か言い返していて……

(ああ……お前は居場所を見つけたんだな)

 すーっと落ちていくような感覚……

 お前の先生してる姿を見るの、あんなに好きだったのに……

 今は、直視できない。

 思い知らされる。
 おれは、この場に必要のない人間だ……



 浩介の下宿先のシーナさんは、ケニア支部の代表というから、どんなやり手の人かと思ったら、感じの良い、そこら辺にいる普通のオバサンで安心した。
 反対に、その娘のアマラは、気の強そうなツンケンした女の子だった。なぜか知らないけれど、おれに対して当たりが強くて……

 でも、その理由は、浩介が大人向けに行われている夜の授業に行っている間、アマラと二人で話しているうちに気がついた。

(この子、浩介のこと好きなんだ……)

 恋愛感情としてかどうかは分からない。でも、浩介にここにいてほしいと思っていることは痛いほど伝わってきた。

『あなたが浩介の本当の恋人よね?』

 ズバリと言われ、詰まってしまうと、『やっぱりね』とアマラはうなずいた。

 前に来た〈恋人のあかね〉の時と、浩介の態度が全然違う、らしい。

『浩介を連れて帰ろうとしてるんでしょ?!』

 生徒達も村の人もみんな、彼のことを頼っている。みんなから彼を取り上げるなんて許さない。

 アマラから立ち上る怒りのオーラに圧倒される。

 ああ、浩介。お前はすごいな。こんなに求められて……

『そんなことはしないよ』

 アマラにゆっくりと首をふってみせる。

 おれにはそんな資格はない……



 空が白く染まり始めた頃、おれは静かにベッドから抜け出した。無邪気な笑みを浮かべたまま眠っている愛おしいその人の顔を見下ろす……

「……浩介」

 小さく一度だけ呼んでみる。そのすっかり肌も黒くなり、以前よりも少しやせた顔を、じっと見つめる……

 大好きな、大好きな、大好きな浩介。ずっと、ずっと、大好きだった。これからも変わらない。

 でも……

(一緒には、いられない……)

 お前の邪魔になりたくない。

 その愛しい額に口づけをし、音を立てないようにそっと部屋を出た。


 朝焼けのケニア。浩介が毎日通っているであろう道の風景。全部覚えておこう、と思った。広い空を見上げながら思った。

 お前はここで翼を広げたのか……


**


 日本に帰国してきてからの残りの休日は、ほとんど寝て過ごした。

『慶って大人ね』

 あの朝、アマラに言われた言葉が、頭から離れない。


 あの朝………母屋のシーナとアマラに別れの挨拶に行った際、アマラに言われたのだ。

 浩介には何も言わず帰国する、と言うと、

『後悔しない?』

 眉を寄せて尋ねられた。夜話した時は『一人でさっさと帰れ』みたいなことを言っていたのに……本当は優しい子なんだろう。

 後悔なら、ここに着いた時からずっとしてるよ。

 そんな本音も言えず黙っていると、アマラはますます眉を寄せた。

『浩介がさみしがるわ』
『………そんなことないよ』

 ゆっくりと首を振る。

『浩介には、君もシーナも、生徒達も、村の人もいる』
『…………』

 しばらくの沈黙のあと、アマラがふっと笑った。

『慶って大人ね』
「え?」

 大人? そりゃもう30だし………

『我慢することが大人になるってことなら、私は大人になんかなりたくないわ』
「…………」

 アマラの黒曜石のような瞳に見つめられ、いたたまれなくて視線をそらしてしまった。


 我慢することが大人……

 確かに、昔のおれだったら、ただただ「一緒にいたい」という思いだけを叶えようとしただろう。

 離れる前までは、どんな形でもいいから一緒にいたいと思っていた。一緒にいることが当然だと思っていた。

 でも……それはおれの押し付けでしかない、ということに気がついた。


 一年四ヶ月前……

「だから言いたくなかったんだよ! そうやって慶に言われたらおれ、何もできなくなる!」

 ケニア行きを反対したおれに言い返した時の、悲鳴のような浩介の声が今でも胸に刺さっている。

「おれ、自分の可能性を試したいんだよ」

 そう、真摯な瞳で言った浩介………

 だから、おれは、お前の背中を押して……

 だから、だから、だから………


「お前、もっと大人になれ」

 ふいに、先輩医師である峰先生の説教が頭の中に響き渡った。

「客観的に物事を見ろ」

 大人? 客観的……?


(おれは、どうすればいい……?)

 布団の中にもぐりこみながら、浩介の、アマラの、峰先生の、そして……いなくなってしまった小さな女の子の言葉を、何度も何度も思い返した。




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お読みくださりありがとうございました!

今回、高校時代に書いた文章をコピペしつつ付け足していったので、いつもより更にシツコイ……
あ、ちなみに、アマラと慶の会話は全部英語です。慶君、日常会話程度の英会話はできます。

これから10年ほど後の話、「あいじょうのかたち」の6で「医者の慶は冷たいくらい冷静」と浩介が言っていましたが、慶がそうなっていくのは、上記がきっかけなのでした。

次回、金曜日は2年目の続き……引き続き真面目な話……

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうこざいます!
真面目な話が続きますが、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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