なあむ

やどかり和尚の考えたこと

千代亀 5

2016年10月18日 05時00分18秒 | 千代亀
出家得度と改名
松林寺十六世義靜和尚はどんな人だったのか。写真の風貌、書き遺した書体や文章などからある程度推測される。檀家の印象、思い出話からもイメージは伝わってくる。
一言でいれば、その人柄は「厳格」という言葉が当たっているのではないかと思う。アキヱの口からも「恐かった」と聞いているし、檀家も「子どもの頃ずいぶん怒られた」と口を揃える。千代亀にとっても恐い存在であったに違いない。
それでも子どもの千代亀にとって、もうここ以外行く場所はなく、どんなに恐くてもその庇護の下で暮らすこと以外の選択肢はなかった。

昭和十八年二月、千代亀は義靜に就いて出家得度する。それに伴い改名届が出され、三月に二戸「義照」への改名が承認されている。それは、小学校高等科を卒業した次の年から、寺で修行しながら学ぶ曹洞宗の専門学校ともいうべき禅林中学へ入学させるための準備だったと思われる。
その後、本山での修行や僧侶としての段階を踏んで、昭和二十四年五月、義靜の養子となり姓を「三部」義照と改める。
出家得度して、名を僧名に改めるわけだが、そのことに対する父の抵抗はなかったのかとその心境を想像してみる。
本城のお寺の住職がつけてくれた名前、父親の一字をもらって更に幸せになれるようにとつけてくれた「千代亀」。その名に対する愛着やこだわりはなかったか。
姓まで変わり、二戸千代亀から三部義照になることで、父親や兄に対する惜別の情、罪悪感のようなものはなかっただろうか。
あるいはもしかして、と思う。もしかしたら、過去の辛い思い出を、名とともにこの世から消してしまいたいと思っていたことはなかったろうか。むしろ積極的に二戸の姓も千代亀の名も捨てたかったという思いはなかっただろうか。
もしそうだとするならば、「千代亀」の名はあまりにも悲しい。

義照は昭和十九年四月から二十四年三月までの五年間で、修行しながら学業を修める山形の曹洞宗禅林専攻科を修了した。その年の秋に大本山總持寺へ修行に行くのであるが、禅林を出てすぐの春に行かなかった理由は、義靜が病に罹っていたためらしい。どうも軽い脳梗塞があり、お経を読むのがおぼつかなくなったようだった。
当時の過去帳の字を見ると、昭和二十年八月に義靜から義照の字へと替わっている。ということは、筆が持てなかったということであり、この頃に病気に罹ったものと推測される。
禅林にいる間も修了してからも、義靜に代わって寺のお勤めをし、師匠の病状が落ち着くのを見て本山での本格的な修行に臨んだものと思われる。しかし、本山に上山して間もなく義靜が倒れてしまった。先の梗塞が更に強くきたらしい。義照は修行の途中で松林寺に呼び戻されることとなった。
気丈な義靜和尚も、病に倒れてからはめっきり気弱となり、いつも泣いている印象が檀家に残っている。

義靜の様子を見守っていた檀家の中から、松林寺の後継者問題が浮上してくる。
義靜には先妻の間に男子があった。邦義である。明治四十五年の生まれで、義靜とアキヱが再婚したときには二十七歳であった。勉強ができたために東京の大学を卒業して関東で働いていた。出家得度もし「仙邦」という僧名も授かってはいたが、親との関係もあったのか、僧侶の道を歩もうとはしなかった。
義照が得度をして、修行にも行き、倒れてからではあったが義靜の法も嗣いで住職の資格を備えてきている。後継者は義照と義靜も認めていたのだろう。
しかし、檀家衆からみれば、住職には実の息子がおり、得度もしたわけだから、何も後妻の子に跡目を継がせることはない、と思っても不思議ではない。
実際、義照が養子縁組をする頃には、どちらが住職になるのかということで意見が分かれ、檀家が二分するような状況になったと聞き及んでいる。
結局、邦義に住職になる意志はなく、反対していた側も後継者として義照を認めざるを得ないこととなった。

義靜は、昭和二十七年五月二十一日、七十歳にて遷化(他界)する。それを受けて、義照が松林寺の後任として認可され、同年七月に十七世の辞令が伝達され、晋山式を挙行している。
因みに、十六世の本葬はその年の八月二十八日に執り行われている。


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