伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

炎路を行く者 守り人作品集

2014-04-15 22:14:08 | 物語・ファンタジー・SF
 「精霊の守り人」に始まる「守り人シリーズ」の中で、もう1人の主人公になる皇子チャグムを「蒼路の旅人」で捕らえチャグムを政治家として成長させるキーパースンとなるタルシュ帝国の密偵アラユタン・ヒュウゴ(ここまで書いても、守り人シリーズの愛読者・ファン以外にはちんぷんかんぷんですよね)の少年時代を描いた「炎路の旅人」に、ジグロと用心棒流れ旅を続ける15歳の頃のバルサを描いた短編「十五の我には」をセットした守り人シリーズ番外編。
 タルシュ帝国の侵略時にタルシュ兵に母と妹を惨殺され自らも命からがら抜け出し追われる身で下町で働き生きる目的を見失った少年ヒュウゴが、タルシュ帝国内部の権力闘争と政略の中で立ち回る男の誘いを受け、タルシュ帝国の支配を受け入れてのし上がる商人や貴族らの姿を見て、王族の楯となる武人だった父の忠誠心や犠牲は何のためだったのかと疑い苦しむ様を描く「炎路の旅人」は守り人シリーズのメインストーリーからは外れていますが、作者の力の入りよう、分量、タイトルの付け方から見ても「旅人シリーズ」の1冊の風格です。武人生まれのヒュウゴが主人公ですが、庶民の中で命の恩人となった父娘への恩義と思いを持ちながら生きる様子が好ましく思えます。
 作者は、「蒼路の旅人」の前にこの「炎路の旅人」の構想を得たけれども、これを先に書いてしまうとヒュウゴの出自が予め知れてしまいまた読者がヒュウゴに親近感を覚えてしまうので「蒼路の旅人」でチャグムの気持ちで読めなくなるために、お蔵入りさせていた、それを中編に書き直すことで日の目を見させたと、作者があとがきで語っています。バルサ、チャグムの2人を主人公とする守り人シリーズ(「旅人」2作を含む)では脇役のヒュウゴだけで1冊にするわけには行かないけれど、守り人シリーズが完結したのちの番外編・外伝ならばよいだろうということでしょう。しかし、「炎路の旅人」を1冊の単行本にしないためにセットされた「十五の我には」は、既に充分な判断力のある大人のバルサにも未熟の時代があったという当たり前だけれども忘れられがちなことを示し守り人ファンの好奇心を満たす力はありますが、バルサの少女時代/ジグロとの流れ旅は既に「流れゆく者」でも書いていますし、取って付けた感が否めません。
 いずれも大人になった後のヒュウゴとバルサを知っているからこそ、読む気になる/好奇心を満足させられる、守り人シリーズ既読者/ファン向けの作品で、守り人シリーズを読んでいない人にとっては作品としての完結感がない(エピソードでしかない)のでお薦めしません。


上橋菜穂子 偕成社 2012年2月発行

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