伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

ルポ中年童貞

2017-05-16 23:54:23 | ノンフィクション
 現在はノンフィクションライターの著者が、高齢者デイサービスセンターの経営をしていた時代に雇用した労働者の勤務態度、仕事/介護/入所者や同僚に対する姿勢・言動が勘に障り、その労働者が中年童貞であったことから中年童貞を問題視し、ほかのタイプの中年童貞をも取材して出版した本。
 あとがきで著者が、第6章の「中年童貞の受け皿となる介護業界」を依頼を受けて翌日には書き上げて、その原稿がほぼそのまま「幻冬舎plus」に掲載され、直ちに炎上し「偏見、ヘイトスピーチ、中年童貞に親でも殺されたか?と批判を浴びたが」自分は正しいと強弁しています(224~226ページ)。率直に言って、この第6章は、読むに耐えません。私には、ネットでの批判のほうが正しい、少なくとも著者の言い分より圧倒的に共感できます。中小零細企業の経営者は、思うに任せない/気に入らない労働者がいると極端な言動に出がちです。この労働者の言動が、真実著者のいうとおりだったとしても、それはその労働者が置かれた労働環境や経営者側の処遇/仕打ちと相関することでありましょうし、そうでないとしてもその労働者の人柄や性格の問題で、それを「中年童貞」であることが原因だとみることには無理があると思います(少なくとも、この本に書かれている材料からそう判断することは「科学的態度」ではありません)。
 著者は、2次元オタク、AKBファン、新興宗教信者の研究職、ネトウヨ、ゲイで偽性同一性障害といった「中年童貞」の仮名のインタビューを掲載していますが、それらの人々は、著者が最初からそういう人に中年童貞がいるだろうと決めつけて、それで人選しています。取材対象の取捨選択に客観的な基準もなく、仮名の1人か2人くらいのインタビューで、類型別にでも「中年童貞」の一般的な傾向など把握できるはずもなく、これらのことからいえるのは、世の中にそういう人もいるのねというだけです。それを、何か中年童貞の実像だとか、ましてや問題点だなどというのは、取材、分析・検討、執筆のあらゆる段階で客観性を欠く恣意的なものといわざるを得ません。
 自分が雇用していた労働者以外の中年童貞に取材して様々な問題があることに気づいたという著者は、それでも「中年童貞」であることが問題であり、また取材を受けた人々が抱える問題が「中年童貞」であることに起因するということは疑いません。それぞれが抱える問題の様々な局面が見えたのであれば、そこでそれが「中年童貞」であることに起因するのか、また共通した問題といえるのか、自分の出発点自体を再検討するのが、「ノンフィクションライター」としての誠意だと思うのですが。


中村淳彦 幻冬舎新書 2015年1月30日発行
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