伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

リスの生態学

2011-10-23 08:15:04 | 自然科学・工学系
 多摩森林科学園でリスの研究を続けている著者が学生時代からの30年に及ぶ研究の成果をまとめた本。
 リスの起源、系統進化、分類といった教科書的記述に続き、交尾行動、音声信号、採食・貯食行動、えさとなる植物とリスの共進化、森林環境とリスの生息といった幅広い研究成果がまとめられています。
 学者の執筆した専門書にありがちな過去の論文の寄せ集めではなく、書き下ろしで、章の進展が著者の研究の進展の紹介と対応して書かれている(たぶん本当はきれいに対応していないのでしょうけど)ことなどから、専門書としてはかなり読みやすい部類に属すると思われます。たまたま著者が私と同い年ということも、何となく私に親近感を感じさせたのかもしれませんが。
 著者が研究の初期に主として対象としていた神奈川県で野生化した外来種のクリハラリスでは、他の研究で見られた乱婚よりも乱婚の度合いが激しく雌は生息域をテリトリーとするほぼ全部の雄と交尾し優勢な雄も雌の独占にエネルギーを注がず一定時間威嚇して他の雄を遠ざけると脱落していく様子が綴られています。その理由について、クリハラリスの原産地台湾での観察から子どもたちが生き延びるために天敵のワシ・タカやヘビから協力して身を守る必要があり全ての雄に自分の子どもかもしれないと思わせることが協力を得るのに有利であるという仮説が示され、天敵が少ない日本での行動は数十年では進化の過程では無意味な時間かもとしています。交尾後の雄が外敵を発見したときと同じ音声を発することについては、しばらく雌の動きを止め他の雄も近寄れないようにしてその間に交尾栓を固めて受精確率を上げるための「だまし」であるという仮説を提唱しています。そういうあたりも含め、興味深い話と、研究者の研究、仮説の定立、論証の過程が比較的読みやすく記載されていて、私には楽しく読めました。


田村典子 東京大学出版会 2011年9月5日発行

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