伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

汚染訴訟 上下

2017-04-23 20:47:02 | 小説
 リーマンショックのあおりを受けて企業側の巨大事務所からリストラされた弁護士経験3年のサマンサ・コーファーが、ヴァージニア州の田舎町の山地法律扶助協会で無給のボランティア(インターン)として、迫害された貧しい人々のための法律業務に、心ならずも従事する過程で、樹木を伐採して山を丸裸にし表土を剥ぎ取りそれらを谷へ投棄し岩盤を爆破して石炭の露天採掘を行い石炭を洗浄することで生じる重金属や有毒物質を含む汚泥を簡易な貯水池にためて地下水を汚染し時に貯水池が損壊して一帯を広く汚染すること、そして採掘労働者の塵肺を防止する対策を十分とらない上に塵肺の申告をした労働者に対して総がかりで異議手続を行い御用医師に塵肺ではないという診断をさせ労働者が死ぬまで手続を引き延ばすことに精力を注ぐ石炭会社とその手先の企業側弁護士と戦う弁護士ドノヴァン・グレイと出会い、ドノヴァンらの戦いに巻き込まれていくという、社会派サスペンス小説。
 都会での生活にいつまでも未練を持ち、決して志の高くない、基本的にはわがままでプライドの高いサマンサが、いやいやながら2歩進んで3歩下がるような逡巡を繰り返しつつ、自分の事件への関与と将来について決断して、成長を見せるというのがメインテーマとなっています。
 石炭会社の非道な行為とそれを支える企業側弁護士の悪辣さが、かなりストレートに描かれ非難され、それがサブテーマになっています。露天採掘による大規模な環境破壊とそれと戦うドノヴァンの姿は、日本人には/私には、足尾鉱毒事件と田中正造を思い起こさせますし、御用医師を使った公害もみ消しは水俣病問題を思い出させます。日本でも、決して他人事ではないと感じます。塵肺を申告した労働者に対する攻撃も、塵肺に関しては私はよく知りませんが、放射線被ばくによる健康被害をめぐって電力会社がやってきたことのように思えますし、今後さらに大掛かりに類似のことが行われると予測されます。
 グリシャムとしては、久しぶりに大企業の悪辣な行為を告発し、虐げられた庶民へのまなざしを感じさせる作品で、「原告側代理人」「路上の弁護士」の時代に戻ったような、悪者から悪行の証拠をコピーして持ち出す過程が焦点となる点では「法律事務所」のような、さまざまな点で初期のグリシャム感を満喫させるテイストの作品と言えるでしょう(ネタに困って古いネタでパッチワークをしているとも… (-_-;)


原題:GRAY MOUNTAIN
ジョン・グリシャム 訳:白石朗
新潮文庫 2017年2月1日発行 (原書は2014年)
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