伊東良徳の超乱読読書日記

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脳は、なぜあなたをだますのか 知覚心理学入門

2017-01-08 17:10:09 | 自然科学・工学系
 外界の刺激を脳がどのように情報処理して五感による知覚・認識につなげていくか、その過程での錯覚、特に知覚刺激の操作により現実には肉体の移動がないのに移動しているように錯覚する現象(ベクション)の研究を専門とする著者が、人間の心について解説した本。
 「はじめに」で人間には自由意思はない、人間の行動はすべて環境からの刺激によって必然的に導かれたものという主張が展開され(9~10ページ)、それがこの本のキャッチになっています(本論でも第2章でそれを展開しています)。近年脳科学や心理学の本でよく見るこの議論を聞いていつも思うのですが、よくその例として挙げられる商品を購入する際に無意識のうちに宣伝で繰り返し接触(露出)している商品を選ぶとか、人間に対する評価が第一印象、顔の好き嫌いで決まる、選挙の投票もそれに左右されるというレベルの議論では、理解できますけど、著者はそれならば、この本の執筆、構成、論の運びすべてが著者の自由意思によるものではなく環境による刺激の結果だと考えているのでしょうか。自由意思はないという主張を突き詰めればそういうところまでいかないとおかしいですし、そうでなければ、どのような場合が自由意思によるものではなく、どのような条件(複雑さ、時間の長さ?)の行動が自由意思(行為者の思惟・思索の結果)によるのかを論ずるべきでしょう。
 本人の主観(気持ち、感覚の「質感」)は言葉では置き換えられず、共有できないという「クオリア」論(52~68ページ)は興味深く読めました。「君の名は。」を見て、瀧が三葉の体に入ったときついおっぱいを触ってしまうのを、瀧はただ触ってみたかったということかもしれませんが、男には知りえない、おっぱいが「ある」ことはどのような感覚なのか、おっぱいを「触られる」のはどういう感覚なのか、「言葉」では分からない(聞いてもわからない)直接的な感覚を持つ機会として、自分が瀧の立場だったら絶対やるよねと思っていました。ついでにHのときに女がどう感じるかも…といったら、「男とHするのに耐えられるか」と突っ込まれ、確かにそれは気持ち悪いと思いましたが。
 アンカリング効果(判断に当たり示された数値に、その数値が全く無意味な数値であっても、判断が影響を受ける)について、法の専門家52名に対して一定の事例についての量刑判断をさせ、その際に判断前にサイコロを振らせたところ、専門家が答えた量刑判断が振ったサイコロの目の大小と相関した(サイコロの目の数値の影響を受けた、引きずられた)という実験結果(189~191ページ)は、興味深いというか、恐ろしい。
 心理学の本の多くが実験の条件等を説明せずに結果だけを独り歩きさせていると、著者は指摘し、有名なつり橋効果(つり橋の上のような不安定な条件下で心臓がドキドキしている状態で異性を見るとその異性の魅力でドキドキしていると錯覚してその異性を好きになる)の実験の条件が揺れるつり橋は揺れるだけでなくて高さも非常に高く(水面から69m)揺れないつり橋は高さが低く(水面から3m)、標本(被験者)数はそれぞれ23と22で、好きになるという効果は女性インタビュアーが電話番号を書いた紙を渡し被験者が電話をした数が9と2ということから結論付けられている、そしてあまり知られていないが男性インタビュアーの実験も行われそちらでは電話をした被験者は揺れる方で2、揺れない方で1だったと紹介しています(201~203ページ)。心理学関係の本を読むとき、よく注意すべきだというこの指摘は、たいへん参考になります。


妹尾武治 ちくま新書 2016年8月10日発行
 
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