詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

アルフレッド・ヒチコック監督「鳥」(★★★★★)

2011-08-14 09:39:59 | 午前十時の映画祭
監督アルフレッド・ヒチコック 出演鳥、ロッド・テイラー、ジェシカ・タンディ、ティッピー・ヘドレン

 何度見ても飽きることのない大傑作。なぜ鳥が人間を襲うか――なんてくだらない謎解きの答えなら、いくらでも考えだすことができる。女の嫉妬。それが引き寄せる「禍い」の象徴とか、ね。ラストでティッピー・ヘドレンがロッド・テイラーの母と手を取り合ったとき平和が訪れるのは、その暗示。あるいは、田舎町に突然あらわれた都会の金持ち娘とエリート(弁護士)の恋に対するやっかみが鳥となって襲う、とかね。主人公の二人だけではなく町中を襲うのはなぜかって? どいういうやっかみも、やっかんだひとにはねかえるもの。「理由」は、どのシーンにもつけられる。小学校の女性教師が鳥に襲われ死んだのは、結局、恋の戦いでティッピー・ヘドレンに負けたから、とかね。
 でも、そんなことはどうでもいいなあ。
 ヒチコックは美女が不安におののく顔が大好き。ティッピー・ヘドレンは私の基準では美人度が低いんだけれど。まあ、これは個人的な好みの問題だね。
 で、美女が不安におののくとき、そこに「サスペンス」が生まれる。サスペンスが先にあって、それから美女が不安におののくのではなく、美女が不安におののくとき、その不安を実現(?)するためにサスペンスが必要になる。必然としてサスペンスが生まれる。逆じゃないんです。女性をもっともっと怖がらせるために、次々にサスペンスが作り上げられていく。そして、このとき、観客は、怖がる美人(ティッピー・ヘドレン)そのものになる。
 この映画は、その典型。たとえば、スピルバーグの「激突!」もこの系統。タンクローリーに追いかけられる「理由」は「追い越したから」などというのは、付け足し。ただ、タンクローリーがどこまでも追いかけてくるという「恐怖」をリアルに描いて、観客をその恐怖に引き込むことだけが狙い。そういう頂点として輝く大傑作。
 理由なんていらない。ただティッピー・ヘドレンが怖がればいい。金持ちで、わがままで、気が強い女――まともな(?)ことじゃ、怖がらない女。男に関心を持つと一人で車で追いかけてゆく。気づかれないように車ではなくボートで家に近づく……なんでもやってしまう。車の運転はもちろん、ボートの運転だって楽々。なんでも、できてしまう。できないことは、相手が必要な「恋」を成就させることくらい。それを、やろうとしている。こういう女は「理不尽」なもの、「理由」がわからないものじゃないと、怖がらないよねえ。
 鳥が襲ってくるのは、ティッピー・ヘドレンに原因がある。おまえは魔女だ、と言われたって、平気。逆上して、批判した女をひっぱたくんだもんね。人間がやること(人間が言うこと)なんかで怖がらない。人間がやることは「理不尽」にみえて、ちゃんと理由がある。そんなものは、「理由」を解決すれば解決する。わけのわからないことを言う奴は、ぶん殴って怒りをみせてやれば、それですむ。自分の方が「上」と見せつけて、怖がらせれば、それですむ。
 鳥――自然がやることは「理由」がわからない。自然は怖がらない。だから、怖い。
 最後まで、「理由」を明かさない。あらゆること、鳥が世界で何種類、何羽いるとか、小学校の教師とロッド・テイラーの間に何があったか、その母親とどんな関係にあるとか、さらにはガソリンにマッチの火が引火しそうとか、うるさいくらいにあれこれ説明するのに、鳥が人間を襲う理由だけは決して明かさない。
 これは、いいなあ。
 いまならCGでもっと鳥の動きも正確(?)に映像化できるんだろうけれど、そうじゃないところが、またまたおもしろい。ファーストシーン(クレジット)を横切るのは鳥の影ばかりで、どんな鳥なのか全体がわからない。本編のなかでも、くちばしを変にアップにしたり、全体が写らないように翼で画面を邪魔したり。カラスや鴎といった誰にでもわかるような鳥だけはきちんと「顔」を見せるけれど、あとはよくわからないまま、つまり「鳥」のまま。
 それからジャングルジムや電線にとまった大量の鳥。足の踏み場もないくらい庭を覆った鳥。いやあ、すごい執念だねえ。あんなに鳥を集めちゃって。(その執念の方が、怖い?)いったいどこから集めたんだろう。(餌とか、糞の始末とか、どうしたんだろうねえ。)
 それから。
 この映画には、私の大好きな「お遊び」がある。ティッピー・ヘドレンがロッド・テイラーのいる町まで車を飛ばす。助手席に置いた鳥籠のなかに「愛の鳥」がいる。この鳥が、車が急カーブを曲がるたびに、人間の体みたいに左右に傾く。2羽、仲良く。笑ってしまうねえ。かわいいねえ。
 最後に、この2羽が一緒に救出される(脱出できる)のだけれど、いいねえ。
ヒチコック以外に、こんなおもしろいシーン、洒落た遊びのシーンを撮る監督はいないなあ。
              (「午前10時の映画祭」青シリーズ29本目、天神東宝)




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2 コメント

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主人公のお名前 (インストラクターK)
2011-08-16 17:35:39
ジェシカ・タンディはティッピ・ヘイレンの誤りかと。ロッド・テイラーの母がジェシカ・タンディです。『ドライビング・ミス・デイジー』のあのお婆ちゃん。
それはさておき、ボデガベイの位置関係も絶妙ですね。ボートで湾を横切るのと、自家用車で湾の淵を回るのにかかる時間が同じとは。
ご指摘ありがとうございました。 (谷内)
2011-08-18 08:42:28
なおしました。
また、間違いが会ったら教えてください。

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