詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

フィリップ・ガレル監督「パリ、恋人たちの影」(★★★★)

2017-06-15 09:02:30 | 映画
監督 フィリップ・ガレル 出演 クロチルド・クロ、スタニスラス・メラール、レナ・ポーガム 

 一組の男女。夫婦である。互いに浮気をする。男の方がわがままである。男は浮気をしてもいいが、女が浮気をするのは許せない。それで女を追いつめる。妻だけを追いつめるのではなく、浮気相手の女をも追いつめる。妻に浮気されたことがしゃくに障り、浮気相手の女に「意地悪」をする。女にセックスを迫られると「頭の中には、それしかないのか」なんて言う。自分の頭の中にはセックスしかないのに、である。
 この、わがままで、なんとも手のつけようない、いわばくだらない「恋愛」を「映画(芸術)」にまで高めているのは何か。母親にスタニスラス・メラールのことを聞かれたクロチルド・クロが、こんなことを言う。「聞き上手なの。黙って相手の話を聞く。相手がたまらずに自分から語りかける」。ひとは黙っていることができない。どうしても何かを語ってしまう。その、どうしても語ってしまうこと、聞かれていないのに語ることの中に真実がある。
 それは、たとえば浮気した男が妻に贈る花束。花を贈ることで、自分が犯した罪を隠そうとする。「男は浮気したあと、妻に花を贈る」というようなことを言われて男はうろたえ、うろたえたことを懸命になって隠す。このとき妻は浮気にはまだ気づいていないのだが、花を贈る「嘘」のなかに、大事が「本当」がある。
 まあ、愛人が男の家を隠れて観察したり、妻を追いかけて浮気の現場を目撃したり、男の方も妻の尾行をしたりと、なんとも「めんどうくさい」恋愛を描いているのだが。フランス人(パリッ子)は「しつこい」という感じの、楽しい映画ではないのだが、この「めんどうくささ」を面倒がらずにていねいにていねいに描いているのが見どころである。
 で。
 私がいちばん感心したのが、冒頭に書いた男の「意地悪」の部分。セックスをするとき、女はネックレスを外す。それを男は寝そべって隠す。セックスが終わって身繕いをする女がネックレスを探す。見つからない。「何を探している?」「ネックレス」。男は隠しているのだから知っているのだが、答えない。しばらくして身を起こす。そこにネックレスが出てくる。女はそれを拾い上げ、身につける。このときの「意地悪」が、何とも陰湿。こんな「意地悪」をする? うーん、フランスの男はすごいなあ、と私は感心してしまったのである。
 このあと、ネックレスをみつけた女は安心して、こころがゆるみ、「余韻」を味わうように男にもたれかかれるのだが、そこに「頭の中は、それしかないのか」という「厭味」なことばが発せられる。これは、すごくないか?
 フランス人はだいたい「わがまま」だけれど、こんなにわがままになれるのかと思うとびっくりしてしまう。フランス人を見るときの「目」が違ってきそう。
 これに通じるかもしれないが、この映画に描かれている人間は、「ストーリー」よりも「細部」がおもしろい。「細部」が「詩」のようにストーリーを無視して立ち上がってくるところがある。男の「意地悪」は「詩」がもういちどストーリーに乱入して、時間を動かすという感じだけれど。
 「細部」のおもしろさでは、たとえばクロチルド・クロとスタニスラス・メラールがレジスタンスだった老人をインタビューするシーン。老いた妻が隣に座っている。することがないので缶入りのクッキーを持ってくる。「食べない?」と誘い、インタビューに答えている夫のノートの上に一個置いたりする。このあたりの「日常」の間合いが、なんともいえずに「詩」になっている。
 女の妻が母と会話している。母がカフェを出る前に、手鏡を取り出し口紅を塗る。そのとき手鏡を娘に持たせる。「もう少し上」と注文をつける。
 みんな、自分のことしか考えていない。
 それを「わがまま」というほどではないけれど、という感じでちらりと出す。その瞬間の「詩」がおもしろい。
 パリの町中を歩いているのだが、エッフェル塔もセーヌもシャンゼリゼも出て来ない。パリに詳しい人なら、ここはどこ、とわかるだろうけれど、知らない人にはパリかどうかもわからない。具体的すぎて、困ってしまう。
 と、ここまで書いてきて、そうか、この映画は「具体的」すぎるのか、と気づく。男と女の関係、そのあいだで動く「感情」が「具体的」すぎる。「意地悪」にしろ、「いいわけ」にしろ、「けんか」にしろ、「抽象」として「整理」されない。「具体的」なまま投げつけられ、受け止めろと迫られる。
 浮気している人は、見るのを避けた方がいい。どうすればごまかせるか考え始め、きっと足を出してしまうぞ。恋愛真っ最中の人は、どうかなあ。「予行演習」(未来予測)のために見ておいた方がいいのか、こんなことは知らないままに愛を生きた方がいいのか。恋愛を卒業した人は、そういえばこういうことがあったかも、と思い出してしまうかな?
                      (KBCシネマ1、2017年06月14日)

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