詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

八重洋一郎「手紙」、高橋秀明「死に場所」

2017-06-17 09:44:59 | 詩(雑誌・同人誌)
八重洋一郎「手紙」、高橋秀明「死に場所」(「イリプスⅡ」22、2017年06月10日発行)

 八重洋一郎「手紙」は「花筏」のなかの一篇。(老婦人からの)という注釈がついている。

さびしいわ
友だちがどんどんいってしまって
一日一日がなんだかスカスカ

-それもあるけど
ほんの少しだけ小さなエゴイズム
あの人の記憶の中にいたあの頃の自分
もう一人の
あの人の記憶の中にいた
もう一人のあの頃の自分 それが

あの人とともに もう一人の
あの人とともにひとりづつひとりづついなくなり
そしておしまいに
わたし自身もいなくなってしまうのだわ

 「理屈」っぽい詩。「論理」で「さびしさ」を説明している。
 でも、理屈っぽくない。
 なぜだろう。
 「理屈」が整理されていないからだ。
 二連目の「あの人の記憶の中にいたあの頃の自分」以下は、同じことが繰り返されている。繰り返し、確かめ、少しずつ動いている。
 ある意味で「スカスカ」ともいえるのだが、そこに「さびしさ」の確かさがある。
 一気に凝縮させない、結晶化させない。
 一回読めば「わかる」。「意味」を間違えることはない。しかし、私は繰り返して読んでしまう。同じことばの繰り返しを、繰り返して読む。わかっていることを「確かめたい」。
 ことばは、「かわる」ために読むというよりも、「確かめる」ために読むものなのかもしれない。



 高橋秀明「死に場所」は、認知症(?)の父と母のことを書いている。母が古い(?)ものを父に食べさせ、食中毒で父が病院へ。それから家に帰ってきて、父は母に高橋と高橋の弟に「饗応せよ」と命じる。言い出したら聞かないので、しかたなく高橋が寿司屋に電話して出前を取る。寝ていた父が起き出して「これは何か」と母に質問する。
 で、

母はにべもなくいやだねあんたが何か出せと言うけど私は動くのが大儀だから秀明に外へ注文してもらったではないかと責めた。責められるのはいつものことでありそうであったかとばつ悪そうに俯く父に私が食べるかと尋ねると顔を起こして食べると言う。それはよかったと言って箸を渡すと少し赤みがかったウニの寿司一巻を取り上げ入歯のない歯茎で嘔吐も何もなかったかのように咀嚼しそれを飲み込むやアワビにも手を出そうとし母からそれは固くて噛めないからこっちにしたらといい中トロを示されそれももぐもぐと食べやがて嘔吐後の父の食欲に呆れた私はスマートフォンで食事風景を撮り十五分後には弟に宛て信じられないが父母ともにバクバクと食べていると註した写メを送ったのだった。

 うーん。
 これも一回読めば何が書いてあるか、「わかる」。情景がみえる。それなのに何度も読んでしまう。読むだけではなく、私は「転写」までしている。
 なぜ?
 なんともいえず、おもしろいのである。
 父と母がいて、どうも父親は母親の尻に敷かれている。ときどき「責められ(叱られ)」、言われるまま。アワビを食べるか、中トロにするか。そういうことも指示されて、それに従っている。こういうことはどこの家庭でもあることだろう。だから「誤読」のしようがないのだが。
 この「誤読」のしようがない、というのが「誤読」かもしれない。
 言い換えると、勝手に自分の知っていること(覚えていること)を、高橋の書いたことばをとおして思い出しているだけなのだ。
 で、この知っていること、わかっていることを「思い出す」というのが、不思議なことに楽しい。「肉体」がむずむずしてくる。「いまここ」にいる(ある)肉体が、書かれている「時間/場所」に入っていく。その「時間/場所」で直接、そこで起きていることを直接体験する感じ。いや、新しく体験しなおす感じ。どうなるかわかっているから、心配せずに、もっと「感情」を味わい尽くすという感じ。

 これって、ひいきのチームが快勝した翌日、その活躍を新聞で読み返すのに似ているかな? 知っている、わかっている。でも、それを確かめてみる。いや、あの「現場」に戻っていく。ことばを読みながら、「あ、みんなが同じ気持ちが動いている(私と同じ気持ちの人がいる)」と「確かめる」。確かめるなくても、「事実」や「感情」は「ある」のだけれどね。でも、「確かめたい」。「確かめたい」ではなく、「味わいたい」かな?
 詩には(ことばには、文学には)、こういう「要素」もある。


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