詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ラウル・ルイス監督「クリムト」

2006-12-01 22:02:40 | 映画
監督 ラウル・ルイス 出演 ジョン・マルコビッチ、ベロニカ・フェレ、サフラン・バロウズ

 冒頭のタイトルバックにクリムトの絵。それをとらえるカメラが回る。絵が回転する。そしてその回転、円の軸が、何か微妙にずれる。このずれが非常に気持ちが悪い。車酔いをしたような感じなのである。--そして、この酔いの気持ち悪さとは、実は、私自身の中にある何かしっかりした「軸」を求める気持ちの裏返しの生理である。
 私は、クリムトの絵は、そんなに好きではない。そしてその好きではない理由が、どうも、この映画の冒頭の酔いのようなものとぴったり重なっている。「軸」がない。「軸」が溶けてしまっている。立体(遠近感)が無視されて平面の中に融合し、装飾になってしまっていることに私は不安を覚える。その不安になじめない。クリムトの絵に対する私の不機嫌の原因はそこにある。
 映画を見ながら、あらためてそのことを確認した。
 私が気持ち悪くなったのは、たとえば冒頭の絵の回転のように、レストランでの人物を中心にカメラが回るシーンもそうだが、それにもましてクリムトが誰かと椅子に座って話していて、立ち上がり、また座るシーンでカメラが上下するシーンだ。まるでクリムトの視線の位置にあわせてカメラが動いている感じがするのである。
 言い換えれば、この映画は、監督がいてカメラマンがいて、クリムトという人物を撮っているというよりも、クリムト自身の視線(内面の動き)をそのまま特殊な方法で再現したもののように感じられるのだ。客観というもの、第三者の目(具体的にいえば監督、カメラマンの目)は存在せず、主観としての目、クリムトの目だけがあるのだ。
 その象徴のような存在が文部省(?)の次官のような男。彼は実在の人物なのか、それともクリムトだけに見える幻なのか。映画を見ているだけではわからない。(医師が「だれと話している?」と質問するシーンでは、クリムトの向こうに帽子があるだけだ。)マジックミラーの部屋、偽物と本物のレア--その虚実を判断できるものが何一つ提供されていない。
 クリムトの絵のなかにあるのが(クリムトの絵のなかで実現されているものが)クリムトの目であり感性であるのと同様に、この映画でもクリムトの目だけが実現されている。その目とうまく同調できないと、そこから始まるずれのために、私の感覚は狂い始め、その結果「酔い」が始まる。私自身の目の「軸」が外され、クリムトの目の「軸」が肉体のなかに入ってくる感じだ。そしてそのまま、クリムトという装飾の迷宮に迷い込み、その迷路が、迷路のまがりくねりが、いっそう酔いを誘う。
 こんなふうに私は映画を見ていて一種の吐き気を覚えるような肉体的気持ち悪さを感じたことはない。そういう意味では、これはとてつもない映画だ。「軸」を次々にずらしながら、それでいて存在感の確かさだけは失わないジョン・マルコビッチもまた大変すばらしい。彼がいなかったら、この映画は成り立たなかっただろうと思う。また彼でなかったら、私の感じた薄気味悪い酔いもなかったような気がする。すごい役者だ。

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こんばんわ。 (michi)
2006-12-10 21:24:06
こんばんわ。TBありがとうございました。
アメブロで「★試写会中毒★」を書いてますmichiと申します。
只今、gooサンへ一切のTBができなくなってしまい、
更に、URLを載せてもエラーとなってしまうため(コメント覧へのURL表示もエラーになってしまいます 泣)、URLナシでこちらへコメントさせていただきました。
申し訳ありません。。。。

>冒頭のタイトルバック・・・それをとらえるカメラが回る・・・
>まるでクリムトの視線の位置にあわせて・・・

私も、同じような事を思いながら観てました。
そして、スクリーンを観ながら少し酔ったような気分になりましたね 笑
でも、shokeimoji2005サンの感想を拝見し、
幻なのか、現実なのか掴み所の無いところは、
まさにクリムトの何ともいえない感性そのものを描いていたのかも。。。
と思いました。
私には、少し難しかったです。。。汗

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