畑倉山の忘備録

日々気ままに

プーチンを強め、米国を弱めるウクライナ騒動

2014年03月16日 | 国際情勢
 今回、BRICSの中でロシアが、米国が誘発したウクライナ危機によって、米国との敵対に追い込まれた。米国がロシアを経済制裁するほど、プーチンは中国など他のBRICSを誘ってドルを崩壊させる政治戦略をやりたいと思うだろう。他のBRICSが米国から親切にされているなら、プーチンがドルを崩壊させたくても中印などが乗ってこない。しかし実際は、中国もインドもブラジルも最近、米国から敵視や嫌がらせを受けている。

 米国は、2011年から中国包囲網策を開始し、南沙諸島紛争でフィリピンやベトナムをけしかけ、尖閣諸島紛争では日本を中国敵視に誘導(米国のヘリテージ財団が石原慎太郎に入れ知恵)し、中国を怒らせている。米国は、今回のロシアとの対決の延長として、いずれ中国との対決をせねばならなくなると、FTが示唆している。米中は協調でなく、対決に向かっている。中国の上層部で、いずれ米国に潰されるぐらいなら、先にプーチンと組んで米国(ドルや米国債)を金融面から潰した方が良いという考えが強まっていても不思議はない。

 ブラジルの近傍では、ベネズエラのマドゥロ政権が、米国に潰されそうになっている。マドゥロ大統領は、国際的な反米運動の急先鋒だった先代のチャベス大統領が選んだ後継者だが、チャベスより穏健で米国との関係改善をめざし、選挙にも勝って民主的な正統性を持っている。しかし米国はマドゥロの関係改善の希望を無視し、チャベス時代から米国が支援してきた野党勢力を動かして、経済難に不満を持つ市民を巻き込み、マドゥロ政権を倒すための大衆的な反政府運動をやらせている。

 マドゥロ政権を非難する米国と対照的に、ブラジルなど南米諸国で構成するメルコスールは、民主的に選ばれたマドゥロ政権を非民主的な政治運動で倒そうとするベネズエラ野党を非難する決議を採択している。中南米諸国と米国カナダで作る米州機構(OAS)も、ベネズエラの内紛が対話によって解決することを望む決議を行ったが、このとき米国と、米傀儡であるカナダとパナマだけがマドゥロ非難の意味で反対した。

 米国が敵視する国の反政府市民運動を支援し、政権転覆までもっていこうとするやり方は、ベネズエラとウクライナで共通している。政権転覆によってより良い国ができればまだ良いが、転覆後は米欧の大企業がその国の利権を吸い取る「民営化」が強要されるか、ひどい場合はイラクやリビアのように恒久的な内戦に陥らされる。隣国として、ベネズエラが政権転覆されると悪影響が大きいブラジルにとって、ウクライナ問題でロシアが直面している事態は、他人事でない。ブラジル政府のIMF代表は、ウクライナ新政権に、通常より甘い条件で支援融資が行われることに反対するなど、ブラジルは米国のやり方に懸念を表明している。

 国務省など米政府が、各地の反米的、あるいは地政学的に米国にとって邪魔な政権を、地元の野党系の反政府運動を支援することによって次々と政権転覆していく策は、前ブッシュ政権の後期に始まったもので、当時のライス国務長官が、今後の国務省の任務としてそれを宣言した。ベネズエラやウクライナでの政権転覆の誘発は、米国にとって気まぐれでなく、長期的な戦略に基づいている。米国のこの姿勢は、ブラジルやロシアや中国にとって脅威である。

 今後、ベネズエラが政権転覆に近づいた場合、ブラジルの上層部も中国と同様に、米国が政権転覆によって中南米に混乱を拡大する前に、ドルや米国債を崩壊させ、世界に対する米国の影響力を縮小させた方が良いと考え始めるかもしれない。ブラジルのルセフ政権はすでに、米国の諜報機関NSAが自国を含む世界の官民の機密情報をスパイしていることに関して米国を非難し、米国を経由しない国際インターネット網の構築を推進するなど「米国抜き」の世界を構想している。

 インドも、以前は親米の傾向が強かったが、最近は米国に対する怒りがあちこちで起きている。昨年末には、米国駐在の女性外交官が米当局から微罪で逮捕されて全裸捜査を受けた件で、国民的な反米感情が高まった。米政府は最終的にこの問題で譲歩したが、その前はことさら強硬な姿勢をとってみせ、ほとんど意図的(隠れ多極主義的)にインドの世論を反米に傾かせた。

(田中宇)http://tanakanews.com/140315russia.php