限りなき知の探訪

40年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

想溢筆翔:(第277回目)『資治通鑑に見られる現代用語(その120)』

2016-10-13 20:35:44 | 日記
前回

【219.民間 】P.1561、AD105年

『民間』は現代でも使われるのと全く同じ意味で「人々のなか」という意味である。この単語は、既に韓非子や墨子にも見えるので相当古い単語だ。二十四史(+資治通鑑+続資治通鑑)で検索すると、合計、1000件以上見つかる。ただ、漢文ではいつも問題なは異字体も検索しないといけないことである。日本で通常使う、「間」は、門構えの中が「日」(Sun)であるが、これが「月」(Moon)となる異字体「閒」がある。諸橋の大漢和によると、「間」は俗字ということなので、思惑とは逆に「閒」が正字ということになる。

ついでに言うと、この「間・閒」と同じ問題が「唇・脣」にも見られる。「くちびる」の「辰」の下が「口」 のものと「月(にく)」のものと二つある。この場合も「口」(Mouth)ではなく「月」(Moon ではなく Flesh の意味)が正字のようだ。

本題の『民間』と『民閒』の2つの字の検索結果は以下の通り。



この表で明らかなように、ウェブにアップロードされているデータには「間」と「閒」を混用しているものもあれば、どちらかに統一されているものもある。(出版されている本では多分、どちらかに統一されているのではないかと思われる。)

さて、資治通鑑で『民間』が使われている場面を見てみよう。時は、後漢の4代皇帝の和帝が崩御した直後、後継者を見つけるところだ。

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冬の十二月に和帝が章徳前殿にて崩御された。以前、和帝には皇子が生まれたが夭逝した。その前後に生まれた皇子たちは、いづれも秘かに民間で養育されたので、臣下たちは誰も知らずにいた。帝の崩御のあと、鄧皇后は民間にいた皇子たちを引き取った。長男の勝は難病を患っていた(あるいは身体障碍者?)ので候補から外れた。末っ子の隆はまだ生れて百日ばかりの赤ん坊であったが、皇太子に立てた。宮中に迎え入れた晩に早速即位させた。皇后を皇太后と尊称した。太后は摂政となって政務をみた。

冬、十二月、辛未、帝崩于章徳前殿。初、帝失皇子、前後十数、後生者輒隠秘養於民間、群臣無知者。及帝崩、鄧皇后乃収皇子於民間。長子勝、有痼疾;少子隆、生始百余日、迎立以為皇太子、是夜、即皇帝位。尊皇后曰皇太后、太后臨朝。
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「民間」の意味が2000年前から全く変わっていないことがお分かり頂けよう。



実は、この個所を選んだのは「民間」の使われ方ではなく、この部分に続く、次の文章を説明したいためであった。

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この時は、和帝の崩御で宮廷中が慌ただしく、警備体制がまだ整っていなかった。宮中から大粒の真珠の入った箱が一つ盗まれた。皇太后は、事を荒立てると必ず無罪の人が濡れ衣を着せるられることを知っていたので、秘かに宮中の女官たちの顔色や仕草を観察した。犯人はすぐに見つかった。

是時新遭大憂、法禁未設、宮中亡大珠一篋;太后念欲考問、必有不辜(*)、乃親閲宮人、観察顔色、即時首服。
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この(*)の部分に、胡三省が次のような注釈をつけている。
『考問とは投獄することである。そうなると、自白から必ず無実の者が逮捕されることになる』(考問則下之獄、辞所連及、必有無辜而被逮者)

この注から分かるように、中国では何か事があって調査するとなると、証拠不十分でもともかくも誰かを捕まえて、拷問にかける。死ぬよりも苦しい拷問のあまりの痛さに、官人のシナリオ通りの自白をすると、一件落着となる、ということだ。人の命が「鳥の羽より軽い」(軽於鴻毛)中国にあっては、どれほど多くの人が冤罪で無念のうちに死んでいったことだろう!

続く。。。
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