限りなき知の探訪

40年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

想溢筆翔:(第296回目)『資治通鑑に見られる現代用語(その139)』

2017-02-23 17:14:49 | 日記
前回

【238.裁量 】P.3906、AD444年

『裁量』とは現代の日本語では「自分の考えで物事をとりはからって処理すること」という意味だ。辞源(2015年版)によると「裁」には「刪減」(削り減らす)や「節制」の意味があると説明する。
類似の単語としては、「裁度」があるというが、両者を二十四史(+資治通鑑+続資治通鑑)で検索すると次のようになる。『裁量』の初出は後漢書、「裁度」は晋書であるので比較的新しい単語であることが分かる。



『裁量』を「刪減」(削り減らす)の意味に使われている個所を紹介しよう。
登場人物は前回取り上げた古弼

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八月、魏主(北魏の太武帝)が河西に狩りに出た。尚書令(秘書官)の古弼が宮廷に残り留守番をした。太武帝が古弼に狩猟の為に肥えた馬を送るように命じた。古弼はやせて弱弱しい馬だけを選んで送った。太武帝はかんかんに怒り「あのとんがり頭め、よくもワシの命令を勝手に削ったな(裁量)!帰ったら、真っ先に斬ってやるぞ! 」古弼の頭がとんがっているので、太武帝はいつも古弼を「筆頭」とからかっていた。古弼の下役たちは、一緒に殺されるのではないかと恐れ真っ青になった。古弼は落ち着いて言うには「臣下として君主の狩猟の楽しみを損なうのは罪としては小さいものだ。しかし、敵からの不意の襲撃に備えを怠る罪は大きい。現在の状況を見るに、蠕蠕の軍隊は強く、また南方の敵もまだ勢力を温存している。それで、国の為にと考えて敢えて、肥えて強い馬は軍に送り、やせて弱い馬を帝の狩猟に回した。処刑されることになっても後悔はしない!またこれはワシの一存で決めたことで、諸君に迷惑はかからないから安心しろ。」太武帝はこれをきいて、感心して「こういった臣下こそ、国の宝だ。」と言って、衣一揃いと、馬二匹、鹿十頭を古弼に贈った。

八月、乙丑、魏主畋于河西、尚書令古弼留守。詔以肥馬給猟騎、弼悉以弱者給之。帝大怒曰:「筆頭奴敢裁量朕!朕還台、先斬此奴!」弼頭鋭、故帝常以筆目之。弼官属惶怖、恐幷坐誅、弼曰:「吾為人臣、不使人主盤于遊畋、其罪小;不備不虞、乏軍国之用、其罪大。今蠕蠕方強、南寇未滅、吾以肥馬供軍、弱馬供猟、為国遠慮、雖死何傷!且吾自為之、非諸君之憂也。」帝聞之、歎曰:「有臣如此、国之宝也。」賜衣一襲、馬二匹、鹿十頭。
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自分の命より、国家防衛のことを重視したこの古弼の判断は、流石に太武帝から「社稷の臣」と言われただけの事はある。太武帝も腹の底ではもとから、古弼の正々堂々たる信念には反論できないと考えていたように思える。



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別の日、太武帝がまた山の北側で狩りをした。鹿を数千頭捕まえたので、荷車を 500台、至急に寄こすよう、使者を宮殿に差し向けた。ところが使者が去ってから太武帝は周りの者たちに「あのとんがり頭はきっと荷車を寄こさないだろうからお前たちの馬で運んでしまえ。」こうして、鹿を運んで行ったところ、40Kmほど行くと使者が古弼からの返事を持って戻ってきた。その文面には「今は秋の収穫の時節のまっさかりで穀物が平原一杯に稔っています。しかし、猪や鹿が喰い、鳥がついばみ、雨風が吹くと地面に落ちるので、朝に刈り取るのと夕方に刈り取るのとでは収穫量が3倍も違います。そこで、穀物の収穫を最優先したいと思いますので、悪しからず。」と書いてあった。太武帝は「やっぱり、ワシの言った通りだろう。とんがり頭(筆公)こそ、社稷の臣というべき人だ!」

他日、魏主復畋於山北、獲麋鹿数千頭。詔尚書発車五百乗以運之。詔使已去、魏主謂左右曰:「筆公必不与我、汝輩不如以馬運之。」遂還。行百余里、得弼表曰:「今秋穀懸黄、麻菽布野、豬鹿窃食、鳥鴈侵費、風雨所耗、朝夕三倍。乞賜矜緩、使得収載。」帝曰:「果如吾言、筆公可謂社稷之臣矣!」
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自分の命令が無視されても、平然と古弼を誉めた太武帝の太っ腹にも敬意を表すことにしよう!

続く。。。
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