限りなき知の探訪

40年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

想溢筆翔:(第312回目)『資治通鑑に見られる現代用語(その155)』

2017-06-15 20:09:12 | 日記
前回

【254.不逞 】P.1777、AD165年

『不逞』とは「規則を守らず勝手な振る舞いをすること」という意味で、通常は「不逞の輩(やから)」と用いられる。「逞」とは「たくましい」という意味であるから、「不逞」とは文字通りだと「たくましくない」というのだが、「逞」には元来「意に満つ」という意味があるので、『不逞』とは「意に満たない」つまり不満を持つという意味なのだ。

『不逞』という語は春秋左氏伝・襄公10年の次の文が初出であるようだ。
 「故五族聚群不逞之人、因公子之徒以作乱」
 (この故に五つの氏族が力を合わせて「不逞の人」を集め、公子の仲間を引き入れて乱を起こした。)


この左伝の文に対して、次のような注記がみられる。
【左伝注】不逞之人即不得快意之人、失意之人。
(不逞の人とはすなわち、不満を持った人、あるいは失意の人をいう)


【辞海】世称犯法為非者為不逞之徒、本此。」
(世間で、法を破り罪を犯す者を不逞の徒というのはこの文に基づく)


ところで、二十四史(+資治通鑑+続資治通鑑)で『不逞』を検索すると次の表のようになる。これから「不逞」は古くは左伝に見えたが、その後暫くは一般的には通用しなかったようだ。しかし、晋書以降はかなり頻繁に使われるようになっている。



さて、資治通鑑で「不逞」が使われている場面を見てみよう。
時は後漢の末期、桓帝の弟の勃海王・劉悝の不品行が告げ口され、帝から叱責された。

 +++++++++++++++++++++++++++
勃海王の劉悝はもともと素行が悪く、たびたび法を犯していた。北軍中候で陳留出身の史弼がこの点について上書した「臣(わたし)は、帝王というのは親戚に対して、愛情深くとも必ず威厳をもって接し、身分が高くとも必ず法を遵守させると聞いております。そうすることで、親戚一同が和みあい、骨肉の恩愛が一層深まるというものです。

しかるに、仄聞するところでは勃海王の劉悝は、家の外では尻軽なヤクザ者(剽軽不逞之徒)を集め、家の中では、酒宴にうつつをぬかし、夜昼となく出入りしています。居ついている者は、どいつもこいつも家から勘当されたドラ息子や、役所から追い出された不良役人であったりです。放っておけば、必ずや、かつての羊勝や伍被のような変事が起きることでしょう。

勃海王悝、素行険僻、多僭傲不法。北軍中候陳留史弼上封事曰:「臣聞帝王之於親戚、愛雖隆必示之以威、体雖貴必禁之以度、如是、和睦之道興、骨肉之恩遂矣。

竊聞勃海王悝、外聚剽軽不逞之徒、内荒酒楽、出入無常、所与群居、皆家之棄子、朝之斥臣、必有羊勝、伍被之変。
 +++++++++++++++++++++++++++

胡三省は「不逞」という語に対して次のような説明をする。
 余謂不逞、謂包蔵禍心而不得逞者。
 (私が考えるに、「不逞」とは、禍心(まがまがしい思い)を隠し持ちつつ、それをまだ実現できずにいる者をいう。)


さて、ここで叱責されている勃海王の劉悝というのは、皇族、それも時の皇帝・桓帝の弟である。しかし、不品行を弾劾されて渤海王から癭陶王にランクを落とされ、サラリーも削られた。何とか元の地位に戻ろうと画策して、宦官の王甫に成功報酬として5000万銭(推定で、25億円)を与えると約束して復帰工作を依頼した。そうしているうちにたまたま桓帝が崩御したが、桓帝は弟の劉悝を元通りのランクに戻すよう遺言した。それを知った劉悝は王甫に金を渡す必要なしと判断した。

このことに怒った王甫は劉悝の隠事を暴いて霊帝に告げ口したので、劉悝はその責任を問われ自殺に追い込まれた。可哀そうなことに、道連れに家族100人余り(妃11人、子供70人、侍女24人)も殺されてしまった(妃妾十一人、子女七十人、伎女二十四人皆死獄中)。

そういえば、南北朝の宋の皇子の劉子鸞は、父帝亡き後、兄の劉子業から自殺を命じられた(賜死)時、まだ十歳であったが「もう二度と王家などに生まれてきませんように」(願後身不復生王家)と言い残して逝った。(『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』P.64)

いつもながら、中国の王室では、権力闘争に敗れると、待っているのは決まって悲惨な結末だ。我々のように平民に生まれついた身分は、中国の皇族から見ればむしろ羨ましい存在だったのだ。

続く。。。
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