豪壮な邸宅を構え、贅の限りを尽くしていた梁冀の一族は単に金に飽かして贅沢するというだけのものでなく、極悪非道の悪行を積み重ねていたのだった。例えば、梁冀の妹の梁皇后は、自分に子供が生まれなかったものだから、他の妃が妊娠すれば、必ずと言っていいほど、事故にみせかけて暗殺した。資治通鑑には、『毎宮人孕育,鮮得全者』(宮人の孕育あるたび、全しを得るものすくなし)と書かれている。
その全盛期と言えば、帝室を凌ぐ勢力があったという。
***************************
資治通鑑(中華書局):巻54・漢紀43(P.1743)
梁冀の一門では、トータルで七人が侯となり、三人が皇后、六人が貴人、二人が大将軍となった。夫人で女食邑を得て『君』と称する者七人、公主(帝娘)を娶った者三人、その他貴族(卿、将、尹、校)に列せられた者が合計57人いた。梁冀は、権力を独占し、行いが日増しに横暴になった。それに役人は皆、自分達の子飼いの者を配置したので、宮廷内の情報は細大漏らさず知る所となった。地方からの納税や貢物の一行は、帝室に向かうのではなく、必ず先ずは梁冀の邸に伺候するようになった。その後にようやく帝に挨拶に行った。官職を得ようとして賄賂を贈るものや、罪を軽減してもらおうと訴える者などが、梁冀の家の前の道に溢れた。叙任の知らせを受け取ったものは、先ず、梁冀にお礼に伺いその後尚書省に出向くありさまであった。
梁冀一門,前後七侯,三皇后,六貴人,二大將軍,夫人、女食邑稱君者七人,尚公主者三人,其餘卿、將、尹、校五十七人。冀專擅威柄,凶恣日積,宮衛近侍,並樹所親,禁省起居,纖微必知。其四方調發,歳時貢獻,皆先輸上第於冀,乘輿乃其次焉。吏民繼貨求官、請罪者,道路相望。百官遷召,皆先到冀門箋檄謝恩,然後敢詣尚書。
梁冀の一門,前後、七侯,三皇后,六貴人,二大将軍,夫人、女食邑で君を称する者七人,公主を尚せし者三人,其余、卿、将、尹、校五十七人。冀、威柄を専擅し、凶恣、日に積もる。宮衛の近侍、並びに親しむところを樹つ。禁省の起居、繊微なるも必ず知る。其の四方の調発、歳時の貢献、皆、先ず輸して冀に上第す。乗輿、乃ちその次なり。吏民、貨を継ぎて官を求め、罪を請う者,道路に相い望む。百官の遷召するもの,皆、先ず冀門に居たりて、箋に謝恩を檄し、然るのち、敢えて尚書に詣ず。
***************************
当然のことながら、こういった横暴は良識ある人々の批判を受けるが、梁冀はあたかも虫けらのごとく、踏み潰していく。例えば、呉樹は、梁冀の権力をかさに着て乱暴を働いていた者数十人を一挙に捕らえて殺したが、その直後に毒殺(鴆)された。遼東太守の侯猛は、単に梁冀にお辞儀をしなかったというだけで、あらぬ罪をでっちあげられて公開処刑(腰斬)された。 19歳の若者、袁著が勇気をもって、梁冀を告発した後、姓名を変じて逃走した。病死したと偽って葬式まで出したが、見破られて捕らえられ、ムチ打たれ殺された(笞殺)。

桓帝も含め、だれもが内心梁冀を殺したいと思っていたのだが、一体誰が味方になってくれるか疑心暗鬼であったが、ある時桓帝の和皇后の親戚が、梁冀の刺客に狙われたことで、一挙に事態が動いた。
***************************
資治通鑑(中華書局):巻54・漢紀46(P.1745)
暗殺未遂を知った桓帝は宦官(中常侍)の単超と左官を密室に呼びこういった。「梁冀の兄弟が宮廷を我が物顔に振る舞い、今では公卿以下、皆彼らの言いなりだ。どうかしたいと思うが、意見はないか?」単超が答えて言うには、「まことに奴らは国の奸賊です。前々からどうにかしたいと思っていますが、臣らは力がなく帝のご意向も分からず困っています。」帝は「分かった、お前達、密かに計画せよ。」単超が言うには、「計画することはやぶさかではありませんが、帝の心底の気持ちが揺らがないかだけが心配です。」それに対し帝は「国賊が国を危うくしているのだ。処罰するのに迷いなどあるものか!」この言葉を聞いて、さらに徐横、具援、唐衡を呼びいれた。桓帝と中常侍の五人が一致団結して事に当たる旨、誓いあった。単超が、念を押した。「陛下、この計画はこれで、決まりですが、絶対他言は無用にお願いします。」
於是帝呼超、心官入室,謂曰:「梁將軍兄弟專朝,迫脅内外,公卿以下,從其風旨,今欲誅之,於常侍意如何?」超等對曰:「誠國奸賊,當誅日久;臣等弱劣,未知聖意如何耳。」帝曰:「審然者,常侍密圖之。」對曰:「圖之不難,但恐陛下腹中狐疑。」帝曰:「奸臣脅國,當伏其罪,何疑乎!」於是更召横、援等,五人共定其議,帝齧超臂出血爲盟。超等曰:「陛下今計已決,勿復更言,恐爲人所疑。」
ここに於いて、帝、超、官を呼び室に入る。謂いて曰く:「梁将軍の兄弟、朝をもっぱらにし,内外を迫脅す。公卿以下,その風旨に従う。今、これを誅せんと欲す。常侍においては、いかん?」超等、こたえて曰く:「誠に国の奸賊、まさに誅せんとせしこと日、久し。臣ら弱劣にして、いまだ聖意のいかんを知るなきのみ。」帝曰く:「審然なり、常侍、ひそかにこれを計れ。」対えて曰く:「これを図るは難しからず。但だ、恐らくは陛下の腹中の狐疑のみ。」帝、曰く:「奸臣、国をおびやかす、まさに其罪に伏すべし、何ぞ疑がわんや!」ここに於いて更に横、援等,を呼び、五人ともに其議を定む。帝、超のひじを齧み、血を出して盟をなす。超等、曰く:「陛下、今、計すでに決す。また更に言うなかれ、恐らくは人の疑う所とならん。」
***************************
桓帝と中常侍の五人が血の結束を固め、Xデーが設定された。梁冀一門に破滅の時がつい目前に迫っていたのだった。










