限りなき知の探訪

三十年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

百論簇出:(第29回目)『多彩な参加者による議論の習慣』

2009-11-24 10:52:43 | 日記
先日、『日本の起業家育成の本質的欠陥』を書いた。そこで『diversity(多様性)』を強調した。要は、多くの文化背景を持った人が英語で、積極的に議論しなければいけない、ということであるが、更にもう一つの要素が必要だ。それは、いろいろな専門家を集めて議論するということである。

簡単なことだ、と思われるかもしれない。しかし、これが意外と難しいのだ。その理由を説明する前に、私のある経験を述べたい。

私は1982年にアメリカ・ピッツバーグ市にあるカーネギーメロン大学(通称、CMU)の大学院に留学した。その時に、電気工学科の大学院に応募した。京大時代は、工学部でも機械工学科に在籍していたので、電気・電子のことはあまり知らなかったが、もう一度機械を勉強する気にはなれなかったのである。当時の日本では、専門分野を変更するのは、なんとなくためらわれる雰囲気にあった。しかし、CMUでいろいろな学生と話をしていると、専門分野を変えることに抵抗を感じていないことを知った。その上、職種さえも変えている人も多いことを知った。はじめは、アメリカ人は『飽き性』なのかな、と思ったが、よくよく話をして見ると、そういった表層的な理由ではなく、実は文化的背景の産物であることがわかった。

アメリカ人は他人が話をしている時に非常に熱心に聴いていて、話の内容に対して何がしかの意見を自分の中で形成している。つまり、人の話に食いつく、という積極的な姿勢をもっている。この姿勢があるので、専門分野以外の話にでも興味を示し、それが嵩ずれば、その分野に転身することも可能性の一つということになる。



こういった文化背景を知らないと次の話は理解できないであろう。今回、シリコンバレーで訪問した最後の会社は、SRIコンサルティング・ビジネスインテリジェンス、(2009年11月1日からは、ストラテジック・ビジネス・インサイツ Inc.に社名変更)だった。(以下SBI社と略す)

SBI社では、月に一回、社員が雑誌、新聞などで読んだ記事のなかから自分が感銘を受けた話の摘要とそれが将来、社会にどういう影響を与えるかということ(implication)を書いたものを皆が持ち寄り、議論する SCAN という会がある。

当然自分の専門外の話も入るが、皆が話される種々雑多なテーマを真剣に議論するのだ、という。冒頭『diversity(多様性)』の重要性を述べたが、このような知的刺激の雰囲気がまさに『diversity』そのものである、といえる。しかし、この雰囲気を形成できるのも人それぞれが専門性をもちながらも、専門以外のことがらにも同じような知的興味をもたないと議論自体が成り立たない。

ちなみにSBI社では、この SCAN・ミーティングをなんと30年も続けているという。『継続は力なり』、全く凄いことだ。

ところで、私はいろいろなパーティの席で欧米人と会うと、故意にいろいろな国の文化・語学・歴史・芸術の話を振ってみる。その中にはヨーロッパの歴史や文化などのテーマもあれば、日本、中国、韓国など、彼らにとってあまり知らないテーマもある。ところが、彼ら -- IT関係やバイオ関係者であることが多いのだが -- は一様に何らかの反応を示す。意見の是非はともかく、食いついてくるのである。これに反し、日本人の出席者は、総じて自分の専門や仕事の話以外には、あまり興味を示さない。このことから、SBI社のような制度を日本社会に持ち込んでも、機能しないことは明白であろう。

この『diversity(多様性)』の問題のみならず、文化背景を理解せず、やたらうわべの仕組みだけを真似て失敗するケースが残念ながら、後を絶たない。この意味で、前回の議論は英語で議論できる人づくりからはじめないといけないと感じたわけだ。
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