限りなき知の探訪

40年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

想溢筆翔:(第320回目)『資治通鑑に見られる現代用語(その163)』

2017-08-10 16:00:09 | 日記
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【262.君臨 】P.3155、AD356年

「君臨」とは「君主として臨む。君主として国をおさめ人民を従える」と言う意味。英語の reign(君臨する) も同じく、元来はラテン語の regnum(君主制)に由来する。ここで、「臨」とは「のぞむ」と訓ずるが、この場合の「臨」は辞源(1987年版)をチェックすると次の2つの意味が該当する。
 1.居上視下、2.統管・治理

どちらの場合も、権力の上位者が下位者を治めるという意味を含む。

二十四史(+資治通鑑+続資治通鑑)で「君臨」を検索すると次の表のようにかなり出現頻度が多い。しかし、驚くことに、宋以降はほとんど使われていない。また旧唐書には23回も見えるのに対して、新唐書には全く見えない。



(注:毎回のことであるが、この表は検索プログラムの出力そのままを表示しているので、必ずしも、検索語の正確な出現数ではない。例えば、隋書の「君臨」でヒットする箇所には、「大君、赤県に臨む」(大君臨赤縣)のように、必ずしも、本来の「君臨」ではない箇所である。)

さて、資治通鑑で「君臨」の使われている場所を見てみよう。私の『本当に残酷な中国史』(P.49 - 55)にも紹介した前秦の暴君、苻生の話だ。

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秦の苻生が詔を下した。「朕、皇天の命を受け、万邦に君臨す。統を嗣いで以来、何か不善でもあったのか、朕を誹謗する声が天下に満ちている!わずか千人しか殺していないのに、それを残虐というのか!死刑に処す者が肩を押し合うぐらい多くいても、それでもまだ少ない位だ。これ以上刑罰を厳しくしたら、世間は朕のことをなんと謗ることだろう!」

昨年の春以降、潼関の西から長安に至るまで、野獣(虎や狼)が暴れまわったので、昼は道を行く人が絶え、夜は人家が野獣に襲われた。家畜ではなく、専ら人間が餌食となり、700人近くが犠牲となった。人々は恐がって田畑に行かず、村中に集まって住んだ。それでも野獣の害がやまなかった。それで、七月になって群臣たちが、厄祓いをしてくれるよう奏上した。

苻生は「野獣が飢えれば人を食らい、食いあきれば止めるものだ。何でお祓いをする必要があろうか!それに、天というのは民を慈しむものだが、野獣に食われるというのは、まさに犯罪者が多いせいだ。朕がころさなくとも天が私の代わりに殺してくれているのだ!」

秦主生下詔曰:「朕受皇天之命、君臨万邦;嗣統以来、有何不善、而謗讟之音、扇満天下!殺不過千、而謂之残虐!行者比肩、未足為希。方当峻刑極罰、復如朕何!」

自去春以来、潼関之西、至于長安、虎狼為暴、昼則断道、夜則発屋、不食六畜、専務食人、凡殺七百余人。民廃耕桑、相聚邑居、而為害不息。秋、七月、秦群臣奏請禳災、生曰:「野獣飢則食人、飽当自止、何禳之有!且天豈不愛民哉、正以犯罪者多、故助朕殺之耳!」
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この時代、戦乱続きで、数えきれない人々が野原や山中で死んだ。虎や狼などの野獣は、食べきれないほどの死骸を食べ、人肉の味を覚えた。それで、牛馬や豚鶏などの家畜より、人間を襲って食べたのだ。苻生は、天が自分に代わって人民を殺してくれるので、手間が省ける、と却って喜んだ。

ところで、苻生の詔の中に出てきた「君臨万邦」の句だが、すでに『文選』巻20の曹植の《責躬詩》に見える。文選の名高い李善注によると:
『周書』《顧命》に「君臨周邦」の句があり、又、『虞書』《堯典》に「協和万邦」の句がある

つまり、ここで言う「君臨万邦」はその2つの句を合わせたものということになる。苻生は暴君であるにも拘わらず、自分自身は聖皇の積りでいたのだ。「知らぬは亭主ばかりなり」という諺を地で行った、誠にめでたい人だ。
(注:「李善注」では「君臨周邦」となっているが、『尚書』を調べてみると逆の順で「臨君周邦」と書かれている。)

続く。。。
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