限りなき知の探訪

40年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

想溢筆翔:(第316回目)『資治通鑑に見られる現代用語(その159)』

2017-07-13 09:43:19 | 日記
前回

【258.忖度 】P.2162、AD219年

『忖度』とは最近(2017年春)によくニュースに登場する単語となった。「他人の心のなかを推し量る」という意味で中国では詩経にも見えるほどの非常に古い単語である。(多分紀元前数世紀にはあった単語)もっともこの「忖度」は「忖」「度」もどちらも英語でいうところの「measure、speculate」(測定する、推量する)という意味がある。しかし「度」は人の心以外にも使うが、「忖」は対象がもっぱら人の心に限られるようだ。

二十四史(+資治通鑑+続資治通鑑)で「忖度」を検索すると次のようになる。この表を見ても分かるように、古い単語の割にはあまり使われることのない単語である。史書だけでなく、一般の書でもあまり使われず、まれに使われていると思えば、詩経の『他人有心、予忖度之』(他人、心あり、予、これを忖度す)の引用文として見えるだけである。これからすると、今後「忖度」の出典に平成29年の日本の新聞が挙げられることも十分可能性がある。(頑張れ~!)



さて、資治通鑑で「忖度」が見られる場所を見てみよう。

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ずっと前、丞相の主簿であった楊脩は丁儀の兄弟と共に曹植を魏の次の王にしようと画策していた。五官将の曹丕(曹植の兄)は困って、こっそりと車に壊れかけた竹籠を載せ、その中に朝歌の長官である呉質を入れて、宮中に参内させて、対策を練った。それに気づいた楊脩は曹操に呉質がこっそりと宮中に参内したことを密告した。曹操は調査せずに放っておいたが、曹丕はばれることを恐れて呉質に相談すると、呉質は「なあに、心配いりませんよ」と言って、翌日は竹籠の中に絹を入れて搬入させた。またもや目ざとくこれを見つけた楊脩は早速曹操に報告した。曹操は今度は人をやって竹籠を調べさせたが、人は入っていなかった。それで、曹操は、楊脩が曹丕の不利になるようなことを言っているのではないかと疑い始めた。

こういうことがあってから暫くして、曹植がいろいろと驕慢で放縦な振る舞いがあって曹操から疎まれるようになったが、曹植はそれでも楊脩を頼りにして、次期王位を狙い、楊脩もその賭けに乗っていた。それで、曹植が曹操の問いに対して、へたな回答をすることを避けるために、曹操の気持ちを忖度して、想定問答集の回答を10数件作って、曹植の部下に渡して「もし、曹操から質問があれば、この中から適当な返事を選んで回答するように」と伝えておいた。これ以降、曹操が曹植に質問を出すやいなや、答えが瞬時に戻ってきた。曹操は、回答のあまりの早さにびっくりして、調査して、このからくりが明らかとなった。曹操は、以前から楊脩が袁術の甥であるので、嫌なやつだと腹の中では思っていたが、この件や曹植との密接すぎる関係、などを口実に、収監して殺してしまった。

初、丞相主簿楊脩与丁儀兄弟謀立曹植為魏嗣、五官将丕患之、以車載廃簏内朝歌長呉質、与之謀。脩以白魏王操、操未及推験。丕懼、告質、質曰:「無害也。」明日、復以簏載絹以入、脩復白之、推験、無人;操由是疑焉。

其後植以驕縦見疏、而植故連綴脩不止、脩亦不敢自絶。毎当就植慮事有闕、忖度操意、予作答教十余条、敕門下、「教出、随所問答之」、於是教裁出、答已入;操怪其捷、推問、始泄。操亦以脩袁術之甥、悪之、乃発脩前後漏泄言教、交関諸侯、収殺之。
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楊脩はあまりにも知恵が回りすぎて、曹操の考えが手にとるように分かった(忖度)ので、曹操が「ぞーっと」して危険分子として処刑したということだ。

曹操は太っ腹のように見えて、実は文才のある人間に関してだけは非常に嫉妬深かった(この点では毛沢東もそうだった)。特に、楊脩とは「黄絹幼婦、外孫齏臼」の解釈において「ワシの才能は君より30里劣る」と脱帽させられたように文才においては歴然とした差があった。それ故、大したことでない事を口実にして命を奪った。

権力者の気持ちを「忖度」するのは日本では昼のワイドショーの恰好のネタになり、おもしろおかしく笑っていられるが、どっこい、中国では命がかかり、目がひきつる重大事件になりかねないということだ。

【参照ブログ】
 沂風詠録:(第270回目)『中・欧の印刷産業発展のきっかけ』

続く。。。
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