白猫夜話

フィギュアスケートっていいな

技術と感性~四大陸エキシビションを見て~

2011-03-19 12:51:07 | 2010-11四大陸

数日前に、四大陸エキシビションがJスポーツで放送された。

東日本大震災で、そんなことなどすっかり忘れていたが、録音を示すランプの点滅で気がついた。今朝、その映像を見たので、ちょっと書いてみたいと思う。

BSフジが2月中に放送していたので映像そのものは見ていたが、Jスポの方がカットの少ない放送だった。

オープニングの選手紹介。得意技披露ではスピンが多い中、高橋はステップから軽~く3Fを跳んだ…助走がほとんどない3F…充実した練習を積んできたことがうかがえる身体のキレだった。

最近では時々、最終順位無視構成のエキシビもあるが、今回は慣例通り。最初の方で地元の選手たちが数名登場し(さすがに技術的には高くない)、その後5位から演技していく。当然上位選手たちはシングルでもペアでもダンスでも演技の質が高い。

けれど、4大陸金メダリスト演技に入り、いきなり次元が違う演技となる(女子銀の浅田選手も含めてだが)。

まずペアのホウ清&トウ健。本当に別格。スケーティングの美しさ、同調性、スロージャンプやリフトの技術力とスケール…なによりも二人が動かしていく空間の大きさに圧倒される。さすが現世界チャンピオン。

続いて登場したのが、高橋大輔(GPFや全日本の頃と肌のツヤが違う!)。ここにきて、『アメリ』は完全に高橋大輔の世界になったなぁ…。激しい動きよりも、プログラムはじめのゆっくりと切れ目のない動きに、スケーティングスキルと身体表現の見事さを感じさせられる。俳優訓練では口からではなく、口の十数センチ先から声がひろがるようなイメージを持てというが、高橋の演技は指先や足先、眼差しの少し先から空間が広がっているようだ…他の選手にはあまり感じない不思議な感覚。

例によって、あっという間にアメリが終わり(滅茶苦茶短い・・・短く感じるせいもあるが)、アンコールは会場全体が待ってました!と盛り上がるマンボのストレートラインステップ。いままででいちばんキレっキレだったんじゃないかな。こんなにメリハリがあって、アップテンポなのに、手先やステップのカーブは滑らかだ。氷を削るほどの激しい足さばきなのにその後のターンは柔らかいというような…気持ちだけでは絶対にできない確かな技術力を感じる。台湾の解説を務めたデイビッド・リュウが、FS後「自由に動ける能力で彼は自分のやりたいことをやっている」と言っていたが、この圧倒的表現の根底には、圧倒的な基礎能力(技術力)がある。

彼の演技を見ていて、思う。

技術と、感性。

どちらが重要なのだろうか、いや、どちらから鍛えるべきなのだろうか。もちろん同時に鍛えることが最も良いのはわかるが、技術習得には反復練習が必要だ。反復練習は感性を磨くことに直結するとは言い難い。むしろ相反することだと思う。

おそらく、指導者たちはいろいろと考えこみながら指導するのだろう。本来ひとりひとりが持っている豊かな感性をいかに殺さずに、地道な反復練習で基礎技術をあげていくか。

結局のところ、どんなに感性豊かでも、表現するためには技術がいる。

そして、どんなに技術力があっても、表現したいという選手の内面からのほとばしりがなければ観客をひきつけることはできない。

難しいのは、フィギュアスケートがスポーツ競技だということだ。

ジャッジは公正公平に審査しなければならない。各技には基礎点があり、加点基準もある。加点基準をある程度統一するための講習も、演技構成点採点の為の講習もある(その是非はともかくとして)。

つまりジャッジは、ひとつひとつの技を分断して評価しつつ、同時に繋がりを見、全体を評価しなければならない。これだけたくさんのことをするためには、論理的でなければならない。つまり左脳を使うわけだ。一方、選手の個性や表現を感じて評価するためには感覚が重要だ…ということは右脳を使うわけだ。

ほとんどの選手は、まず左脳に訴える技術要素を充実させることを試みる。それは正しいと思う。得点を出すためには必要だ。

けれど観客は、右脳に訴えるものにより強く反応する。高橋が観客に愛される所以もそこにあると思う。

高橋と小塚を見ていると面白い。

感性から入り、技術の充実とともに感性の豊かさを評価されてきた高橋。

技術から入り、感性の充実を目指している小塚。そういえば、チャンもこちらのタイプだろう。

延期になった世界フィギュア。今後、別の国で開催されるか、秋に日本開催となるのか、今季は中止となるのか、まだ流動的だ。被災地と日本を勇気づけるためにも、世界フィギュアに焦点を絞って練習を重ねてきた選手の為にも、中止はしないでほしい。

どんな形になってもいいから、開催されることを、願っている。


四大陸つれづれ ⑦BS放送を見て感じたいろいろ

2011-02-27 19:15:40 | 2010-11四大陸

昨日と本日、四大陸男子SP&FSが、BSフジで放送された。

当然、地上波とは異なり、番組内容はタイトル通り男子の演技のみ。細かな煽りはなく、未放送だった他選手の演技もかなり放送された(もちろん第3グループからだけどね)。放送を見ていたら「あれ?」と思うことや、「おおっ!」と思うことがいろいろあったので、ちらっと書いてみる。

★BS放送に高島彩さんと国分太一さんがいない

おっどろいたぞ…いや、声カットしてあるんだもん。よくこんな面倒くさいことしたもんだと思う。でも、ま、切りやすいようなタイミングで聞いてたよね、西岡アナ。演技終了後すぐ高島&国分に感想を求め、その後本田&荒川へと移る。もともと予定していたカットなのかどうか不明だけど、最初から本田&荒川だけでいいんじゃないか、とも思う(苦笑)。

★高橋と長光コーチの握手はなんだか、いい!

地上波では放送されなかったFS前の高橋と長光コーチの握手。普通に握手してその手を離さないまま少しずらして高橋がぐっと包み込むように握るんだけど…なんてことないシーンの中に彼のコーチへの信頼と愛情が感じられて、なんかいいね。そういえば、身体を触られるのは苦手という高橋が、キス&クライで毎回コーチに背中をとんとんされてるのも微笑ましい。世界チャンプにまで上り詰めるようなスケーターが本当に初期のジュニア時代から同じコーチって珍しいことだし、恋愛と同じで最初に本当の相手と出会ってしまうこともあるんだろうな。

★羽生は頭をたれる & 表彰台知らなかったのね

FS後、幕で仕切られたインタビュー場所へ入ってくるとき、一度立ち止まってリンクの方を振り返り深々と一礼。こんなところ別段いつも放送されるわけじゃないから、羽生の自然な動きなんだと思う。演技を終えたリンクと声援をくれた観客へ一礼する…なんだか16歳の子がそれをすっとやっちゃう姿に感動してしまった。

インタビューで表彰台確定と言われて驚いていたけど、インタビュー後タオルに顔をつけて「ウーッ」と唸った後「表彰台なんだぁー」とつぶやいた。選手は細かな最終結果をその時点ではちゃんと把握してるわけじゃないんだね、やっぱり。

★小塚はもっと語っていた

地上波ではかなりカットされていたと判明した小塚のFS後インタビュー。それも結構重要なこと言ってるとこが(苦笑)。カットされてた部分をちょっと書き出してみる。

Q)やるべきこと、評価できる部分はどこですか?

崇)そうですね、今回この試合へ来る前に振付をしてもらって、身体を大きく十分に使うということを基本に練習をしてたので、今日は、もう、自分でこれ以上できないくらい大きく身体使えたから良かったかなっていうふうに思ってます。

Q)キス&クライで得点が出た瞬間はどんな心境でした?

崇)そうですね、やっぱりジャンプの失敗があったっていうのが大きな原因だと思うんですけど、技術点の方が伸び切らなかったっていうのがあったので、世界選手権では、この演技内容でジャンプも跳べるようなスケーターになって世界選手権に臨むということを目標にしたいなと思います。

書き出すとすごく理路整然としているようだけど、実は「あのー」「まぁ」などが半端なく多かったので省いて書き出したのだ。その上タオルで顔を何度もふくし、眉とか鼻とか何度もさわるし、本当に落ち着きがない(笑)。高橋、羽生に比べると、演技後の小塚は何故かこころここにあらずという感じがある。これは今回に限らずなんだが…意外なくらいマイペースなヤツなのかもしれない。それにしても、カット部分って、結構重要なこと言ってると思いませんか?

ちなみに、見ていてふと思った素朴な疑問。

6分間練習で選手がリンクに散った後、各コーチがリンクサイドにいるけれど…あれって場所取りみたいなのあるのかなぁ?今回は最も出口近くに高橋陣営がいたんだが…選手の序列みたいなもので漠然と決まるのだろうか。


四大陸つれづれ ⑥それでもアボットが好き

2011-02-25 06:10:41 | 2010-11四大陸

あー…結局最後まで完成形を見られなかった、アボットのFS。

演技者の個性と楽曲のイメージが一致した見事な作品だっただけに、ものすごく残念。

ジェレミー・アボット。

元全米王者。GPFを制したこともある。しっかりした実力に見合う安定性を、まだ手にしていないだけ。…でも、気がつけば25歳(高橋よりも上だ)。今季のプログラムが素晴らしかっただけに、是非とも結果を残してほしかった。

彼は、常に第一音から場を変えてしまうような魔力を持っているとは思わない。けれど、今季のアボットはSPでもFSでも、一瞬にして空気を作り上げてしまう魔法を持っていた…もちろん、それはプログラムが持つ力によってではあったが。

SPはいまでも、それほど好きになれない。作り方として正解だと思うし、うまいとも思う。冒頭の手のマイムなど印象強い。いままでにない強いアボットも見せている。それでも、わたしの中では何かもう一枚パズルが足りない気がする。

FSは、もう、ハマり中のハマり。大好き。このプログラムの良さをこれほど引き出せるのは彼だけだと思う。これは高橋でもないし、ランビエールでもない…男性的なしっかりした体格なのにいまひとつ詰めが甘い愛すべきアボットだからこそ可能な空気感だ。この空気感は、高橋の「道」に似ているところもあるが…高橋だと観客を惚れさせてしまうが、アボットだとあたたかい笑顔を浮かべさせることができる。なんか、ご家族みんなでお楽しみください…と言えるような穏やかさがある。時に弱点ともなるおくゆかしさ(アメリカ人なのにねぇ)は、この作品では根底を流れる魅力に繋がっている。

来年、もう一度、このプログラム、滑ってくれないかなぁ…。年とともに熟成するような作品だと思うんだけど…。


四大陸つれづれ ⑤小塚崇彦の進化

2011-02-22 13:46:02 | 2010-11四大陸

SP6位、FS2位、総合4位。

全日本チャンピオン小塚崇彦にとって、四大陸は結果を残した大会とは言えないかもしれない。特に全てのジャンプに-評価がついたSPは、今季最低の出来だった…数字上は。そして、FSだけでは2位と面目を保ったものの、4回転転倒、3Lo着氷、2S、最後のスピンのポジションなど…優勝候補と目されていた彼にとっては不満足な内容だっただろう。

彼の演技はいままで感情移入して見たことがなかった。別に無理矢理冷静に見ていたというのではなく、感情をゆさぶられることがなかったのだ。

けれど、今回…「あれっ?」と思ったのだ。SPではまだ小さな「…ん?」だった。途中の手の動きをつけたあたりで「なんでこんなに楽しくなさそうなんだろ」とも思った。でも、何かが違う…得点とは反比例して、私の中の印象は「↑」かも…?

その小さなつぶやきは、FSでは大きな「あれっ?!」に変わった(笑)。

なんで長く感じないのかな?以前より短く感じるし、惹きつけられる…不思議な気分で何度もリーピートした。

結論は、出ない。出ないが、ちょっと感じたことがある。

感情移入、と一口に言うが、強い感動をおぼえたり、恐怖感を感じたりすると、涙が出てきたり心臓がドキドキしたりする。そして、そうやって生理的な部分を支配されると、後にまで強い印象を残す。

生理的な支配…その中のひとつに「呼吸のコントロール」というものがある。

たとえば、お化け屋敷(笑)。お化け屋敷のことなんて考えてもいない時と、入ってからとでは呼吸の速さが違う。「なにか出てくるかもしれない」という緊張とそれに対処しなければならないという本能が呼吸を速めるのだ。

逆に、ふかふかのベッドに寝そべって穏やかな午後の光の中で目を閉じれば、お化け屋敷の中とはまったく違うゆったりとした呼吸になる。

人は、外から受ける刺激で呼吸の速さや深さが変わってくる。それをうまくコントロールされると、刺激と呼吸の両面からのアプローチにより、大きな印象を受けるのだ。

前置きが長くなったが…

小塚のFSを見ていて、いままでにない、呼吸を引っ張られる感覚を感じたのだ。全日本までの彼から感じていたのは、滑らかな、でも同じ波がずっと続いているような印象だった。

でも、四大陸の小塚の動きには、「力ある緩急」が見える。ゆったりとみせておいて、すっと力を入れ、ふっと緩める…というような。

この拍で腕を前に伸ばして、このタイミングで振り向いて、ここは少し早く回転して…なんていう段取りではない。そういった「単なる緩急」ではなく、「力ある緩急」…見る側の意識をコントロールできる緩急というものの片鱗が、見えたように感じた(ちなみに、こういう部分に稀有な才能があるのが高橋大輔だと思う)。

今季、パトリック・チャンにも感じたこの進化は、小塚の方がより明確だ。

さて、おもしろくなってきた。小塚のワールド…意外にチャンと伍して戦えるかもしれない。


四大陸つれづれ ④羽生結弦という怪物

2011-02-22 12:40:56 | 2010-11四大陸

「あ~、しんどかったぁ…」

最後のポーズを終えると思わずしゃがみこんでしまった羽生は、リンクサイドで迎えたコーチの腕に飛び込んだ。

確かに終盤は明らかな疲労が見て取れたし、表情もなくなっていた。けれど、強豪ひしめく四大陸で「未来の世界王者」を予感させるに十分な演技だった。

羽生結弦、16歳。

もしかすると、数年後、パトリック・チャンの最大のライバルになるのは彼かもしれない。

柔軟性と強さをあわせ持つ少年は、あどけなさの残る笑顔と裏腹に、猛々しい獰猛さを持っている。これは、現日本トップ3が持っていない資質だ。

自分へのストイックな追い込みは得意でも、外へ向かって睥睨することのできる選手はあまり見たことがない。羽生にはそのどちらも持っているのではないかと思わせる空気がある。

見事なビールマンスピンを可能にする柔軟性、ジャンプの高さ、この一年で格段に進歩したように見える基礎技術、誰でもが感じるであろう「華」。

けれどなによりも、彼を特別な存在にまで押し上げそうなのは、「強さ」だ。

来季、羽生は日本のトップを狙いにくるだろう。そしてそれは、世界のトップを狙うということだ。

ジュニア選手の誰もが通る身体の変化という関門をうまく潜り抜けられるならば、ソチで表彰台のいちばんてっぺんに立つ彼を見られるかもしれないと、本気で思う。