数日前に、四大陸エキシビションがJスポーツで放送された。
東日本大震災で、そんなことなどすっかり忘れていたが、録音を示すランプの点滅で気がついた。今朝、その映像を見たので、ちょっと書いてみたいと思う。
BSフジが2月中に放送していたので映像そのものは見ていたが、Jスポの方がカットの少ない放送だった。
オープニングの選手紹介。得意技披露ではスピンが多い中、高橋はステップから軽~く3Fを跳んだ…助走がほとんどない3F…充実した練習を積んできたことがうかがえる身体のキレだった。
最近では時々、最終順位無視構成のエキシビもあるが、今回は慣例通り。最初の方で地元の選手たちが数名登場し(さすがに技術的には高くない)、その後5位から演技していく。当然上位選手たちはシングルでもペアでもダンスでも演技の質が高い。
けれど、4大陸金メダリスト演技に入り、いきなり次元が違う演技となる(女子銀の浅田選手も含めてだが)。
まずペアのホウ清&トウ健。本当に別格。スケーティングの美しさ、同調性、スロージャンプやリフトの技術力とスケール…なによりも二人が動かしていく空間の大きさに圧倒される。さすが現世界チャンピオン。
続いて登場したのが、高橋大輔(GPFや全日本の頃と肌のツヤが違う!)。ここにきて、『アメリ』は完全に高橋大輔の世界になったなぁ…。激しい動きよりも、プログラムはじめのゆっくりと切れ目のない動きに、スケーティングスキルと身体表現の見事さを感じさせられる。俳優訓練では口からではなく、口の十数センチ先から声がひろがるようなイメージを持てというが、高橋の演技は指先や足先、眼差しの少し先から空間が広がっているようだ…他の選手にはあまり感じない不思議な感覚。
例によって、あっという間にアメリが終わり(滅茶苦茶短い・・・短く感じるせいもあるが)、アンコールは会場全体が待ってました!と盛り上がるマンボのストレートラインステップ。いままででいちばんキレっキレだったんじゃないかな。こんなにメリハリがあって、アップテンポなのに、手先やステップのカーブは滑らかだ。氷を削るほどの激しい足さばきなのにその後のターンは柔らかいというような…気持ちだけでは絶対にできない確かな技術力を感じる。台湾の解説を務めたデイビッド・リュウが、FS後「自由に動ける能力で彼は自分のやりたいことをやっている」と言っていたが、この圧倒的表現の根底には、圧倒的な基礎能力(技術力)がある。
彼の演技を見ていて、思う。
技術と、感性。
どちらが重要なのだろうか、いや、どちらから鍛えるべきなのだろうか。もちろん同時に鍛えることが最も良いのはわかるが、技術習得には反復練習が必要だ。反復練習は感性を磨くことに直結するとは言い難い。むしろ相反することだと思う。
おそらく、指導者たちはいろいろと考えこみながら指導するのだろう。本来ひとりひとりが持っている豊かな感性をいかに殺さずに、地道な反復練習で基礎技術をあげていくか。
結局のところ、どんなに感性豊かでも、表現するためには技術がいる。
そして、どんなに技術力があっても、表現したいという選手の内面からのほとばしりがなければ観客をひきつけることはできない。
難しいのは、フィギュアスケートがスポーツ競技だということだ。
ジャッジは公正公平に審査しなければならない。各技には基礎点があり、加点基準もある。加点基準をある程度統一するための講習も、演技構成点採点の為の講習もある(その是非はともかくとして)。
つまりジャッジは、ひとつひとつの技を分断して評価しつつ、同時に繋がりを見、全体を評価しなければならない。これだけたくさんのことをするためには、論理的でなければならない。つまり左脳を使うわけだ。一方、選手の個性や表現を感じて評価するためには感覚が重要だ…ということは右脳を使うわけだ。
ほとんどの選手は、まず左脳に訴える技術要素を充実させることを試みる。それは正しいと思う。得点を出すためには必要だ。
けれど観客は、右脳に訴えるものにより強く反応する。高橋が観客に愛される所以もそこにあると思う。
高橋と小塚を見ていると面白い。
感性から入り、技術の充実とともに感性の豊かさを評価されてきた高橋。
技術から入り、感性の充実を目指している小塚。そういえば、チャンもこちらのタイプだろう。
延期になった世界フィギュア。今後、別の国で開催されるか、秋に日本開催となるのか、今季は中止となるのか、まだ流動的だ。被災地と日本を勇気づけるためにも、世界フィギュアに焦点を絞って練習を重ねてきた選手の為にも、中止はしないでほしい。
どんな形になってもいいから、開催されることを、願っている。