くまだから人外日記

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【偽書】『四つのクロノス・その1(高山三奈帆のKYOUJI)』 74

2015-09-11 02:09:06 | 【偽書】シリーズ
「え…!何のことかな~?(目逸らし)私、コンコン(キツネの真似)なオムライスとか頼んでないし~」
「ハーイ。オムライスは私でース!ケチャップでね、名前書いてくれるのよ、あの店の吊り目のメイドさん」
ピクピクと、吊り目の目尻が更に高くなるユカ。
「まあまあ、ドンマイ」
如月密子がふた周り細いユカを慰める。
「何よ。みんな知ってるって事じゃない」
「そうなるかな~」
いつもとは立場逆転のサカエはユカに涼しい顔で笑う。

「アッ。ユカちゃんの話題で暇潰ししてたら、まもなく開場みたいだよ~」
ハジメが会場へと流れて行く人の列を指差す。

「宮司と巫女さんの家系の方が、ギャップ萌えなバイトをしてくれたおかげで時間潰しの話題が振れてラッキーよね」
メイ皐月明がサングラスの向こう側の瞳を綺羅つかせてニヤニヤ笑う。
「…人のバイトを何だと…ブツブツ」
神有月夕佳は声にならないくらい小さな声で呟く。
まあ何にせよ、人目を引くのは主演舞台女優の宿命かもね。
私には出来ないわ。きっと。



楽屋にあてがわれた部屋の片隅で、少女が古いエレキギターに新しい弦を張る。
「おや、そのギター」
オヤジギターが少女の側に歩み寄ると、少女が手にしているギターを見て声を掛ける。

「えへへ。事務所にあったのを借りて来ちゃった。てか、勝手に持って来ちゃったんだけど。いいよね」
「事務所にほったらかしてあった奴だ。別に持ち主も怒りゃしないさ」
「自分のギターより何だかしっくり来るんだよ。初ライブに古いギターとかおかしいかな?」
「新しい古いじゃないさ。ご機嫌かそうじゃないか、だろ。ギグは」
「そうだよね」
少女は少しだけ緊張を解いたように笑う。
「じゃあ先にステージ脇に行ってるぜ。チビらない様に先にトイレ行っとけよ」
「おっさん達こそな」
「そうするよ」

…このギターを持ち出すとは。やはりあのシャチョー様の眼力は凄えな。アイツが今から三十年以上前に初ライブで緊張で抱えていたギターを持ち出したか。こりゃあ楽しい夜になりそうだ。久し振りにな…
少女に背を向けたオヤジギターは呟くように小声で反芻する。
…俺達のハートビートを引き替えに…か。この姉ちゃんもまたハートビートをさしだしちまったな。音楽の神様によ。

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