江代充さんの詩と、ポスト近代と

2017-06-14 02:36:01 | 映画、本
わたしは教養とかないですし、和洋の古典もほとんど読んだことありません。
何を教養と呼ぶのかも、よくわかんないですし。

詩とかもぜんぜん読まないのですが。
江代充さんという方の詩だけ、ちょっとしたことから、ときどき思い出します。

ずうーっとまえ、大学生のころ、四谷近辺に住んでまして。
四谷三丁目にある区立図書館が近かったんですよね。
図書館の入っているビルの一階に、障がい者の方が、作業所?というのでしょうか。
そういうところで作ったお菓子とか、雑貨を売ってました。

そこに、「ご自由にどうぞ」と書かれたダンボール箱がひとつ、置いてあり、本が入っていました。
たぶん、作業所に寄付された本か、何かなんだろうと思いますが、ダンボールは、床に置きさらしになってました。

わたしはなんとなくダンボールをのぞいて、二冊、本をもらいました。両方とも、表紙が破れていて汚れた本でした。
それが、高橋悠治さんの「カフカ 夜の学校」と、江代充さんの「白V字 セルの小径」でした。
わたしは著者の二人とも、まるで知りませんでしたが、二冊とも、わりとマニアックな本だったみたいですね。
今思っても、なぜそんな本が、あんなところにあったのか。すこし不思議です。


高橋悠治さんの「カフカ 夜の学校」は、フランツ・カフカの断片的な走り書きを訳したものでした。

鳥かごが
鳥を探しに出かけていった

ひとことでいい。もとめるだけ。空気の動きだけ。
きみがまだ生きている、待っているというかしるしだけ。
いや、もとめなくていい。一息だけ。一息もいらない。かまえだけ。かまえもいらない。おもうだけで。おもうこともない。しずかな眠りだけでいい。

こんなフレーズは、印象に残りました。
カフカの本はどれもそうですが、ことばの意味はまるでわからないのに、ブラックホールみたいな引力があって、異空間ですよね。

でもこんなこと書いてる奴がとなりにいたら、コイツマジやべえ、って思うと思う。

高橋悠治さんは現代音楽、実験音楽と呼ばれる、前衛的なスタイルで知られるピアニストで。
この本を読んで、高橋悠治さんのピアノ・リサイタルに、一度だけ行ったことがあります。

音楽も、絵や演劇と同じく、古い価値観をぶち壊す、前衛的なものが求められた時代が、1960-70年代にあって。
ジョン・ケージの「4分33秒」のように、ピアニストが全く演奏せず、ただピアノの前にじっと座って、去る、のようなものが生まれたわけですよね。
高橋悠治さんは、完全にその文脈の方ですが。

わたしは、現代芸術がそうせずにいられなかった、ことはよくわかるのですが。

盗んだバイクで走りまわり、学校のガラスを割りまくる尾崎豊みたいに、前時代的な価値観を壊し、その欺瞞や無意味さを糾弾するだけで良かった。
それが、ポスト近代であったのだと思います。
でもそんなの虚しいし。
そして、そんなことをしても生きていける、社会的に許される時代だった。つまりは社会が、経済的にも心理的にもゆとりがあり、豊かだったのだと思います。

2017年の現在は、ポスト近代は遠く去り、ポストトゥルース、何が本当なのかもわからない時代です。
ここでは、社会の規範、価値観は、壊して回らなくても、どんどん自壊していく。
古き良き規範、価値観を留めておきたくても、できないのです。
生命と財産を守ってくれる国、社会が壊れていくことを感じて、先進国に住む人が、命の危険に怯える時代です。

そんな時代からみれば、ポスト近代は、絶対に揺るがない社会や大人たちがいて、その手のひらの上で、守られながら暴れている、甘えた子どものように見えます。

年を取るにつれ、わたしはそんなふうに思うようになって、「カフカ 夜の時間」は、ずいぶん前に手放してしまいました。

でも江代充さんの詩は、ポスト近代のように、ことばや概念を、ただ机上の空論のようにもてあそんだものでなく。
手触りのある、深い内実のようなものがあって、いまもときおり、思い出します。

江代さんの言葉は、明確な理由のない切迫さに駆られていて、そこはやはり、現代詩らしいと思うのですが。
でも、言葉遊びの空虚さに陥ることはない。それは、江代さんが聾学校出身であることも、関係があるのだろうと思います。


「初めのエルに打たれて」

初めのエルに打たれて
まだ見ぬわたしの国へかえろうと
わたしは生きる
あらゆる壁は
人がそのむこうへ立ち入ったすえ
そこにいる当のわたしが
地続きのこちらがわへと
まず最初に立ち退いてこなければならない
そんな所だから
却ってわたしこそ
ひみつを持つのだろう









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