9 近代酒造技術・もと
<速醸もと>
乳酸馴養 最新清酒連醸法 江田鎌治郎 明治45年2月15日発行
乳酸使用量(原書は尺貫法で書かれている。)
90kgもと(総量180リットル)に150~300ミリリットルを少量とし、300~500ミリリットルを中量、500~800ミリリットルを多量とする。酵母添加加酸速醸(現在の中温速醸)もとには多いほど効果があるとし、汲み水108リットルに480~650ミリリットルを推奨している。仕込み温度20度の速醸もとでは熟練すれば400ミリリットルでよいとしている。現在の乳酸使用量は多量ということになる。
注:筆者は焼酎もろみが腐造した蔵で蔵内を清掃し、1次もろみに汲み水100リットルあたり乳酸200ml添加し発酵させたところ健全な1次もろみ ができ、腐造は完全に収まった。2次もろみには乳酸は添加しない。汲み水100リットルあたり乳酸200ml添加でも乳酸の腐敗防止有効性が認 められた。
汲み水歩合120%、麹歩合28.5%
注:乳酸(比重1.21)の値段360ミリリットル1円50銭(明治44年米価60kg6円強)
生もと(普通もと)、山廃もとにも乳酸の使用を薦めている。少量もしくは多量がよいとし少量で効果ありとしている。(注:野生酵母汚染の可能性あり。)
<山卸廃止もと>
山卸廃止もとは醸造試験所で明治40年から試験(試験に使用された米は精米歩合89%)され、半切り桶を使用せず壷台で仕込む。手もとからもと寄せまでの操作を省略。代わりに水麹、荒櫂で済ます。
<水もと>(菩提もと)
製造は温暖な時期に適する。
製法
① 酒母蒸し米の10%の白米を洗い飯又は粥をつくる。
② 酒母蒸し白米の残りを洗い、①の飯をザル又は布袋に入れ一緒に酒母仕込水に浸漬する。
③ 1日2~3回飯ザルを振り、糊分を溶かし出す。浸漬は数日続ける。
④ 酸味と渋みが出てきたら白米を分離し、よく洗い蒸す。水は仕込水とする。
⑤ 蒸し米、麹及び仕込水を併せる。数時間で醗酵が始まる。
⑥ 仕込水には乳酸菌及び酵母が存在する。欠点は優良酵母が生じるとは限らず品質が良くない清酒になる。
(注:仕込み配合は記されていない。他の書でも優良な酒になるという記述はない。桿菌の乳酸菌および家付きの野生酵母が生じる。)
水もと(菩提もと)は関東、東北、中国、四国地方で行われている。
<普通もと>(生もと)
仕込み配合 蒸し米75kg(5斗)、麹 30kg(2斗)、水108ℓ(6斗)
麹は4割麹(28.5%)汲み水は8.57水(歩合102.8%)水は蒸し米の硬さ、気温で適宜増減する。
① もと立て:半切り桶6~10枚に蒸し米、麹及を等分に取り水を加えながら木片(爪という。)でよく混ぜる。このとき加える水は半切り1個当たり5合~1升(0.9~1.8リットル)を残しておく。もと立温度は5~8℃とする。
② 手もと:もと立後3~8時間後半切り桶の水分が米に吸水された時期に行う攪拌作業である。冬期で2、3時間ごとに行う。気温が高いときはもっと頻繁にする。
③ 山卸:蕪(かぶら)櫂で半切り桶の米を擦り下ろす。3人一組で行い、1人は箆(へら)櫂を持ち、巴状に櫂を桶に入れ作業する。一番櫂を5分入れ、数時間後毎2番櫂、3番櫂を入れる。各10~15分行う。最後に残しておいた水を加え均一にする。エキス分は17,8%が適当である。エキス分は水で加減する。
④ もと掻き:山卸後もと寄せまで2時間毎に箆櫂で攪拌する。
⑤ もと寄せ(折込):半切りを合併する。山卸後3~4日で行うが1日で行うところもあるが寒冷地では2~3週間かけるところもある。
⑥ 打瀬(休ませ):暖気操作するまでの期間。無しのところから2週間まであるが、通例1~3日である。この期間は2~4時間毎に櫂入れを行う。6~8℃が適温で10℃以上は避ける。
⑦ 暖気操作:糖化及び成酸を促す。暖気の湯温は50~60、70~80、80~90℃、熱湯と逐次上げていく。地方により行火も行われている。品温の上昇は1日2℃とする。暖気操作は一様の形式でなく状態により経験を踏まえ適宜行う。甘味が不足する場合は温度を高め、甘味が過剰の場合は品温上昇を緩やかにし櫂入れは軽くする。湧き遅れとなり、液面が鏡面となったときはぬるま湯を差し薄め、他の良いできのもとがあれば加える。
⑧ 膨れ、湧き付き:酵母の増殖とともに酒母が膨らみ醗酵が盛になる。温度は18~20℃である。ボーメは14、5である。暖気操作後膨れまでは5~6日(本)である。
⑨ 暖気(湧き付き)休み:酵母の増殖を促進する。品温は21~25℃である。1~2日。高泡をなす。
⑩ 温み取り:落ち泡となり甘味が乏しくなったら熱湯暖気をいれ、品温を32~33℃まで急昇させる。バクテリアの絶滅と糖分の食いきりが目的である。
⑪ ギリ:灘では温み取りの前に冷水から熱湯暖気を使い分け品温をゆっくり上昇させる。櫂入れで代用することもある。櫂は激しく入れる。
⑫ もと分け:もとを半切り桶に分け品温を落とす。温み取り後15、6時間がよい。適当な状貌は櫂に米粒が付かない、玉泡がある。甘味がなく、僅か苦味がある。
⑬ もと戻し、枯らし:もと戻し後7日で熟成とし使用する。枯らし中は1日数回櫂入れをする。
灘もと製造経過
1日目 もと立て 午後7時30分 品温7℃
手もと 午後9時
2日目 山卸一番摺 午前3時
二番摺 午前5時40分
三番摺 午前10時
合せ 午後2時 7℃
3日目 打ち明け 午前2時 7℃ 半切り8枚を壷台に入れ菰を巻く。
2時間毎に櫂入れ
4日目 暖気(76℃) 午前5時入れ、午後0時抜き 7 10℃
暖気(91℃) 0時半入れ、午後5時半抜き 15℃
5日 暖気(91℃) 午前3時入れ、午後1時50分抜き 17℃
暖気(?℃) 午後2時入れ、午後7時40分抜き 19.5℃
6日 暖気(85℃) 午前3時半入れ、正午抜き 20.5℃
暖気(91℃) 正午入れ、午後8時抜き 25.5℃
7日 暖気(92℃) 午前3時入れ、午前10時半抜き 26.8℃
8日 高泡 25℃
暖気(63℃) 午後6時入れ、 25.5℃
9日 暖気(?℃) 午前7時半抜き、同時入れ、午後2時半抜き25℃
暖気(91℃) 午後2時半抜入れ、温み取り
午後7時抜き、同時入れ 27.5℃
10日 暖気(90℃) 午前1時抜き 33℃
分け 午後8時 正午34.5℃、分け32.5℃
11日 戻し 午前9時 20℃
12日 14℃
13日 10℃
14日 熟成
(参考)
早湧きと思われる。硝酸イオンの重要性が判明したのは大正6、7年になってからである。
以下「続灘酒」(灘酒研究会・灘五郷酒造組合)からの抜粋
① もと立て:仕込み100キログラムに対し半切り桶6枚を用意し、均等に蒸し米、麹を配分する。仕込み温度は8~10℃を守る。温度が低すぎると糊気が出る。また、硝酸還元菌、乳酸菌の生育が抑えられる。結果として早湧きとなる。汲み水は100リットルとするが、半切り1枚につき2リットルの水を残しておく。
埋け飯:蒸し米は柔らかい場合を除き行う。蒸し米を25~30℃まで冷まし、半切り桶に取り、上から布を掛け数時間放置し、仕込み時に所要温度まで布上に広げて冷却する。
② 手もと:元たてから5~6時間後蒸し米、麹が水を吸い切った状態になったとき爪で攪拌する。糊気を出さないように行う。高精米(注:70%精米程度か)の場合は1度でよい。
③ 山卸:元立てから15~20時間後の深夜行う。一番櫂は半切り1枚につき3人で10~15分間蕪櫂で擦る。二番櫂は数時間後2人で7~10分、三番櫂は二番櫂の数時間後に同様に行う。作業後桶に付いた物量は掃除し、布で清潔に拭く。4,5番櫂は1人で行う。高精白米は糊になり易いので加減しながら擦る。品温は5、6度が良い。
④ 折込、もと寄せ:2、3日かけて半切り桶2枚を1枚に、合併し、最終的に全量壷代に寄せる。温度は5、6度、ボーメ12~12.5、PHは中性。2~3時間毎に箆櫂で攪拌する(もと掻き)。
⑤ 打瀬:3~4時間毎に3~40本の櫂を軽く入れる。品温5、6度、高すぎると亜硝酸の生成が早く消失も早い。低ければ遅れるボーメ12~3。
⑥ 暖気:亜硝酸生成、乳酸生成
山廃もと
① 壷代に麹と水をいれ、水麹とする。蒸し米投入前2時間。壷代は保温しない。
② 蒸し米を入れ、品温を13~15℃とする。
③ 5、6時間後荒櫂を入れる。
④ 暖気入れは仕込み後6~7日目からする。気温が高い場合は3~5日目にする。品温は暖気入れ前には5~6℃になっている。暖気の湯温は6、70℃とし、日々5~10℃上げる。
⑤ 8日目膨れ、品温20℃
⑥ 9日目湧き付き、高泡 22℃
⑦ 10日目ギリ 25℃
⑧ 11日目温み取り 33℃
⑨ 12日目もと分け、戻し 20℃
⑩ 17日目熟成
注:現代の山廃と異なる。生もと、山廃もとともに亜硝酸生成について述べていない。同時代に生もとにおける早湧き現象における硝酸イオンの役割が解明されている。菊正宗の生もと期間は短いことから宮水を使用していなかった可能性がある。
参考
「続灘酒」(1988年)記載例では汲み掛けを行っている。初暖気は5日目。
赤もと
生もとや山廃もとが赤くなる現象。赤色酵母(ロドトルラ)が繁殖して赤くなる説が唱えられているが、経験上、仕込み温度が高く蔵や仕込み桶道具が不潔で雑菌(シュードモナス属)が過剰繁殖したことが原因と思う。熱湯暖気を入れると樽肌付近のもとが赤く発色する。何度も暖気を入れし櫂入れすると徐々にもと全体が赤蒸し(シュードモナスが原因原因)のように赤みを帯びるようになる。赤くなる点だけが通常の生もとと異なるだけでアルコール発酵はする。シュードモナスの腐敗臭は強く感じ糠みそ臭、甚だしい場合はどぶ臭、腐敗臭といわれる。
その他もと
高温糖化もと、あま酒もと等その他諸々の酒母の造り方(研究データ)が紹介されている。
近年の酒造技術
日本各地に酒造技術者の勉強会、研究会が作られ、技術情報の持ち寄り、開放的で活発な意見交換、研究成果の発表があり各地の酒造技術の向上に資していた。残念なことに平成時代になると技術を各社が囲い込むようになり活動が低下している。
平成時代に入るといよいよ杜氏が衰退し経営者技術者従業員による独自品質清酒の躍進が見られる。21世紀に入るとますますこの傾向は顕著となった。
<速醸もと>
乳酸馴養 最新清酒連醸法 江田鎌治郎 明治45年2月15日発行
乳酸使用量(原書は尺貫法で書かれている。)
90kgもと(総量180リットル)に150~300ミリリットルを少量とし、300~500ミリリットルを中量、500~800ミリリットルを多量とする。酵母添加加酸速醸(現在の中温速醸)もとには多いほど効果があるとし、汲み水108リットルに480~650ミリリットルを推奨している。仕込み温度20度の速醸もとでは熟練すれば400ミリリットルでよいとしている。現在の乳酸使用量は多量ということになる。
注:筆者は焼酎もろみが腐造した蔵で蔵内を清掃し、1次もろみに汲み水100リットルあたり乳酸200ml添加し発酵させたところ健全な1次もろみ ができ、腐造は完全に収まった。2次もろみには乳酸は添加しない。汲み水100リットルあたり乳酸200ml添加でも乳酸の腐敗防止有効性が認 められた。
汲み水歩合120%、麹歩合28.5%
注:乳酸(比重1.21)の値段360ミリリットル1円50銭(明治44年米価60kg6円強)
生もと(普通もと)、山廃もとにも乳酸の使用を薦めている。少量もしくは多量がよいとし少量で効果ありとしている。(注:野生酵母汚染の可能性あり。)
<山卸廃止もと>
山卸廃止もとは醸造試験所で明治40年から試験(試験に使用された米は精米歩合89%)され、半切り桶を使用せず壷台で仕込む。手もとからもと寄せまでの操作を省略。代わりに水麹、荒櫂で済ます。
<水もと>(菩提もと)
製造は温暖な時期に適する。
製法
① 酒母蒸し米の10%の白米を洗い飯又は粥をつくる。
② 酒母蒸し白米の残りを洗い、①の飯をザル又は布袋に入れ一緒に酒母仕込水に浸漬する。
③ 1日2~3回飯ザルを振り、糊分を溶かし出す。浸漬は数日続ける。
④ 酸味と渋みが出てきたら白米を分離し、よく洗い蒸す。水は仕込水とする。
⑤ 蒸し米、麹及び仕込水を併せる。数時間で醗酵が始まる。
⑥ 仕込水には乳酸菌及び酵母が存在する。欠点は優良酵母が生じるとは限らず品質が良くない清酒になる。
(注:仕込み配合は記されていない。他の書でも優良な酒になるという記述はない。桿菌の乳酸菌および家付きの野生酵母が生じる。)
水もと(菩提もと)は関東、東北、中国、四国地方で行われている。
<普通もと>(生もと)
仕込み配合 蒸し米75kg(5斗)、麹 30kg(2斗)、水108ℓ(6斗)
麹は4割麹(28.5%)汲み水は8.57水(歩合102.8%)水は蒸し米の硬さ、気温で適宜増減する。
① もと立て:半切り桶6~10枚に蒸し米、麹及を等分に取り水を加えながら木片(爪という。)でよく混ぜる。このとき加える水は半切り1個当たり5合~1升(0.9~1.8リットル)を残しておく。もと立温度は5~8℃とする。
② 手もと:もと立後3~8時間後半切り桶の水分が米に吸水された時期に行う攪拌作業である。冬期で2、3時間ごとに行う。気温が高いときはもっと頻繁にする。
③ 山卸:蕪(かぶら)櫂で半切り桶の米を擦り下ろす。3人一組で行い、1人は箆(へら)櫂を持ち、巴状に櫂を桶に入れ作業する。一番櫂を5分入れ、数時間後毎2番櫂、3番櫂を入れる。各10~15分行う。最後に残しておいた水を加え均一にする。エキス分は17,8%が適当である。エキス分は水で加減する。
④ もと掻き:山卸後もと寄せまで2時間毎に箆櫂で攪拌する。
⑤ もと寄せ(折込):半切りを合併する。山卸後3~4日で行うが1日で行うところもあるが寒冷地では2~3週間かけるところもある。
⑥ 打瀬(休ませ):暖気操作するまでの期間。無しのところから2週間まであるが、通例1~3日である。この期間は2~4時間毎に櫂入れを行う。6~8℃が適温で10℃以上は避ける。
⑦ 暖気操作:糖化及び成酸を促す。暖気の湯温は50~60、70~80、80~90℃、熱湯と逐次上げていく。地方により行火も行われている。品温の上昇は1日2℃とする。暖気操作は一様の形式でなく状態により経験を踏まえ適宜行う。甘味が不足する場合は温度を高め、甘味が過剰の場合は品温上昇を緩やかにし櫂入れは軽くする。湧き遅れとなり、液面が鏡面となったときはぬるま湯を差し薄め、他の良いできのもとがあれば加える。
⑧ 膨れ、湧き付き:酵母の増殖とともに酒母が膨らみ醗酵が盛になる。温度は18~20℃である。ボーメは14、5である。暖気操作後膨れまでは5~6日(本)である。
⑨ 暖気(湧き付き)休み:酵母の増殖を促進する。品温は21~25℃である。1~2日。高泡をなす。
⑩ 温み取り:落ち泡となり甘味が乏しくなったら熱湯暖気をいれ、品温を32~33℃まで急昇させる。バクテリアの絶滅と糖分の食いきりが目的である。
⑪ ギリ:灘では温み取りの前に冷水から熱湯暖気を使い分け品温をゆっくり上昇させる。櫂入れで代用することもある。櫂は激しく入れる。
⑫ もと分け:もとを半切り桶に分け品温を落とす。温み取り後15、6時間がよい。適当な状貌は櫂に米粒が付かない、玉泡がある。甘味がなく、僅か苦味がある。
⑬ もと戻し、枯らし:もと戻し後7日で熟成とし使用する。枯らし中は1日数回櫂入れをする。
灘もと製造経過
1日目 もと立て 午後7時30分 品温7℃
手もと 午後9時
2日目 山卸一番摺 午前3時
二番摺 午前5時40分
三番摺 午前10時
合せ 午後2時 7℃
3日目 打ち明け 午前2時 7℃ 半切り8枚を壷台に入れ菰を巻く。
2時間毎に櫂入れ
4日目 暖気(76℃) 午前5時入れ、午後0時抜き 7 10℃
暖気(91℃) 0時半入れ、午後5時半抜き 15℃
5日 暖気(91℃) 午前3時入れ、午後1時50分抜き 17℃
暖気(?℃) 午後2時入れ、午後7時40分抜き 19.5℃
6日 暖気(85℃) 午前3時半入れ、正午抜き 20.5℃
暖気(91℃) 正午入れ、午後8時抜き 25.5℃
7日 暖気(92℃) 午前3時入れ、午前10時半抜き 26.8℃
8日 高泡 25℃
暖気(63℃) 午後6時入れ、 25.5℃
9日 暖気(?℃) 午前7時半抜き、同時入れ、午後2時半抜き25℃
暖気(91℃) 午後2時半抜入れ、温み取り
午後7時抜き、同時入れ 27.5℃
10日 暖気(90℃) 午前1時抜き 33℃
分け 午後8時 正午34.5℃、分け32.5℃
11日 戻し 午前9時 20℃
12日 14℃
13日 10℃
14日 熟成
(参考)
早湧きと思われる。硝酸イオンの重要性が判明したのは大正6、7年になってからである。
以下「続灘酒」(灘酒研究会・灘五郷酒造組合)からの抜粋
① もと立て:仕込み100キログラムに対し半切り桶6枚を用意し、均等に蒸し米、麹を配分する。仕込み温度は8~10℃を守る。温度が低すぎると糊気が出る。また、硝酸還元菌、乳酸菌の生育が抑えられる。結果として早湧きとなる。汲み水は100リットルとするが、半切り1枚につき2リットルの水を残しておく。
埋け飯:蒸し米は柔らかい場合を除き行う。蒸し米を25~30℃まで冷まし、半切り桶に取り、上から布を掛け数時間放置し、仕込み時に所要温度まで布上に広げて冷却する。
② 手もと:元たてから5~6時間後蒸し米、麹が水を吸い切った状態になったとき爪で攪拌する。糊気を出さないように行う。高精米(注:70%精米程度か)の場合は1度でよい。
③ 山卸:元立てから15~20時間後の深夜行う。一番櫂は半切り1枚につき3人で10~15分間蕪櫂で擦る。二番櫂は数時間後2人で7~10分、三番櫂は二番櫂の数時間後に同様に行う。作業後桶に付いた物量は掃除し、布で清潔に拭く。4,5番櫂は1人で行う。高精白米は糊になり易いので加減しながら擦る。品温は5、6度が良い。
④ 折込、もと寄せ:2、3日かけて半切り桶2枚を1枚に、合併し、最終的に全量壷代に寄せる。温度は5、6度、ボーメ12~12.5、PHは中性。2~3時間毎に箆櫂で攪拌する(もと掻き)。
⑤ 打瀬:3~4時間毎に3~40本の櫂を軽く入れる。品温5、6度、高すぎると亜硝酸の生成が早く消失も早い。低ければ遅れるボーメ12~3。
⑥ 暖気:亜硝酸生成、乳酸生成
山廃もと
① 壷代に麹と水をいれ、水麹とする。蒸し米投入前2時間。壷代は保温しない。
② 蒸し米を入れ、品温を13~15℃とする。
③ 5、6時間後荒櫂を入れる。
④ 暖気入れは仕込み後6~7日目からする。気温が高い場合は3~5日目にする。品温は暖気入れ前には5~6℃になっている。暖気の湯温は6、70℃とし、日々5~10℃上げる。
⑤ 8日目膨れ、品温20℃
⑥ 9日目湧き付き、高泡 22℃
⑦ 10日目ギリ 25℃
⑧ 11日目温み取り 33℃
⑨ 12日目もと分け、戻し 20℃
⑩ 17日目熟成
注:現代の山廃と異なる。生もと、山廃もとともに亜硝酸生成について述べていない。同時代に生もとにおける早湧き現象における硝酸イオンの役割が解明されている。菊正宗の生もと期間は短いことから宮水を使用していなかった可能性がある。
参考
「続灘酒」(1988年)記載例では汲み掛けを行っている。初暖気は5日目。
赤もと
生もとや山廃もとが赤くなる現象。赤色酵母(ロドトルラ)が繁殖して赤くなる説が唱えられているが、経験上、仕込み温度が高く蔵や仕込み桶道具が不潔で雑菌(シュードモナス属)が過剰繁殖したことが原因と思う。熱湯暖気を入れると樽肌付近のもとが赤く発色する。何度も暖気を入れし櫂入れすると徐々にもと全体が赤蒸し(シュードモナスが原因原因)のように赤みを帯びるようになる。赤くなる点だけが通常の生もとと異なるだけでアルコール発酵はする。シュードモナスの腐敗臭は強く感じ糠みそ臭、甚だしい場合はどぶ臭、腐敗臭といわれる。
その他もと
高温糖化もと、あま酒もと等その他諸々の酒母の造り方(研究データ)が紹介されている。
近年の酒造技術
日本各地に酒造技術者の勉強会、研究会が作られ、技術情報の持ち寄り、開放的で活発な意見交換、研究成果の発表があり各地の酒造技術の向上に資していた。残念なことに平成時代になると技術を各社が囲い込むようになり活動が低下している。
平成時代に入るといよいよ杜氏が衰退し経営者技術者従業員による独自品質清酒の躍進が見られる。21世紀に入るとますますこの傾向は顕著となった。