サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、7回目:湖南市の再生可能エネルギーと地域づくり(2)

2017年01月18日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

 滋賀県湖南市の市民共同発電は、1990年代に設置され、さらに2012年以降に再開された。今回は、2012年以降の市民共同発電における障がい者福祉との接合の仕方や、売電収益の地域商品券による還元へのこだわりを紹介する。

 

●条例制定と市民共同発電所プロジェクトの始動

 2012年以降、湖南市では、「湖南市地域自然エネルギー基本条例」の制定と「コナン市民共同発電所プロジェクト」が動きだした。条例の経緯は本連載の2回目に示したが、あまり例がない前文方式で理念を重視している。第1条では、「地域の自然エネルギーは地域固有の資源」であると宣言し、地域経済活性化につながる取組みを推進し、地域が主体となった地域社会の持続的な発展に寄与することという目的を示した。また、公共施設の屋根貸しのルールも要綱で定められた。

 コナン市民共同発電所プロジェクトは、「緑の分権改革」事業におけるプロジェクトの1つである。初号機を社会福祉法人グロー(以下、グロー)が運営する障害者通所施設「バンバン」の屋根上(20.88kW 、2013年2月売電開始)、弐号機を市内の運送会社である甲西陸運株式会社(以下、甲西陸運)の倉庫の屋根上(105.5kW 、2013年9月売電開始)に設置された。

 

●障がい者の作業場の屋根に設置された壱号機

 グロー副理事長の牛谷正人氏は、もともと、バンバンの建築の際に、太陽光パネルをつけたいと考えていた。しかし、当時の経済産業省の補助金では自己負担が高額になり、施設消費電力を補っても償還に時間が掛かりすぎるために設置を見送っていた。そして、2010年以降、湖南市で緑の分権プロジェクトがはじまり、市役所からの初壱号機の設置依頼を受け入れることになった。

 施設はもともと太陽光発電の設置を想定して設計されていたので、構造上の問題はなかった。福祉施設に市民出資による太陽光発電を設置すること、その電力を売電することには財産管理上の課題や社会福祉事業を目的とする法人会計上の懸念があったが、県庁に問い合わせると管理責任が明確に分けられ、売電収入を法人に入れないのであれば届出だけでよいことになった。

 「限られた人への資源=障害者施設の屋根」が「市民の共有財産」になった。

 

●運送会社の倉庫上に設置された大規模な弐号機

 弐号機を受けいれた甲西陸運は、自社の倉庫等の屋根上に、再生可能エネルギー事業を実施していたが、市役所の依頼を受けて、屋根貸しで市民共同発電事業を実施することになった。設備容量105.5kWは、市民共同発電事業としては日本一の規模である。これは50kWを超えると電気主任技術者が必要となるが、同社ではそれが確保できていたためである。

 同社では、市民共同発電事業を実施する前から、取引先のコンサルタントからの提案があり、メガソーラー事業を実施することとしていた。そこに、湖南市の市民共同発電所の設置の依頼があり、「地域でトラック1台から始めた会社として、地域貢献としてやっている。自社で発電した場合の売電収入の方が、屋根貸しの利益より大きいが、引き受けることにした」という。こうした取組の結果、同社は、2014年に「エネルギーの地産地消によれる地域貢献」、滋賀県知事より「滋賀CSR経営 準大賞」を受賞した。

 

●市民共同発電の出資への配当は地域通貨で

 湖南市における市民共同発電の特徴は、出資者への元本償還・配当を地域商品券で行っていることである。地域商品券にすることで、発電による利益が地域に還流し、地域経済の活性化を図ろうという狙いである。

 実際には、市民共同発電の配当だけでは少額であるため、商工会では配当分以外にも独自事業で商品券を出すことにした。その後、国の支援によるプレミアム商品券事業が開始され、それと配当の地域商品券は統合された。

   商品券の換金先は6割が大型店という状況であり、地域特産品の流通等の効果は十分とはいえない結果であった。ただし、配当の地域商品券の使い方次第で、その価値がかわる。例えば、甲西運輸は弐号機に自ら出資しているが、商品券でもらった配当は従業員の福利厚生で行っている会社のボーリング大会や納涼祭等での賞品としている。限定された金額での配当であるために、使い方に工夫をしている。

 

●障がい者が参加できるイモ発電

 障がい者福祉と再生可能エネルギーが接合して始まった湖南市の市民共同発電であるが、障がい者との直接的なつながりは十分とはいえない。障がい者施設の屋根上に太陽光発電が設置され、売電収入の一部が施設運営に使われるとしても限定的である。また、地域商品券が障がい者による生産物・サービスの消費に使われることはほとんどない。このため、「イモ発電」が熱心に取り組まれている。イモ発電は、遊休農地を利用して、土を入れた袋を積んだ空中栽培でサツマイモを栽培し、食べるイモ以外の部分をガス発電に利用する。

 「こにゃん支え合いプロジェクト推進協議会」会長の溝口弘氏は、「イモ発電は、夜間・雨天でも発電でき、障がい者・高齢者・子供の関わりが可能、農業・福祉・エネルギーをつなぐまちづくりができることが魅力である。障がいのあるスタッフと高齢スタッフによる土づくりをしている。」という。2014年度に近畿大学と「イモ発電」に関するアドバイザー契約を結んでいる。

 

 次回は、湖南市において、2016年度になって設置された新たな市民共同発電所や地域電力会社の設立の動きを紹介する。

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