shinyakomatsu2016

超短編小説を掲載しているブログです。実力は全くないですが読んで頂けると幸いです。よろしくお願い致します

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「cut」 ver2016

2016-12-20 20:28:37 | 小説

彼女は何時も手首を切っていた。僕と出会う前からずっと。

彼女は手首を切る度に、髪を一本ずつ青い色に染める事にした。その話を聞いて僕は彼女の孤独を知った。僕と出会う前、彼女は他人を愛せなかった。

16歳の春、彼女は一人で生きて行く事を決めた。彼女は中途半端な病み方が嫌だった。彼女は孤独だけど、知り合いが何人かいた。だから僕は彼女が完全な孤独ではない気がした。

17歳の春、彼女は学校を辞めてから精神病院に通院するようになった。

彼女は退学してから、色んな仕事をしたけど、結局今は仕事が出来ない状態になった。今の彼女は頭の思考回路も鈍くてぼんやりしているし、集中力もない。何時も彼女は眠たそうな状態で毎日過ごしている。きっと彼女はこんな状態なのは治療薬の副作用かなと思った。

しかし、僕は彼女の苦しみが分からない。ただ、僕は何時までも彼女の「友人」だと言うのは変わらない気がした。彼女もただの「友人」だと思っているのか分からないけど、僕達は互いに大切な「他人」だという事だけは確実だと思った。

今日も彼女は苦痛と不安、全ての負の感情を抱いて生きている。

彼女は幾つから手首を切っていたのかと僕は思ったけど、それは言いたくないかもしれないと思って尋ねなかった。何時も彼女は血を見て笑顔を見せる。僕の前でも手首を切る回数が多くなった。僕といる時が一番、彼女が心を開けるのか分からないけど、彼女はとにかく僕と一緒にいる時間が多くなった。

何時も彼女は精神病院の診察が終わると、彼女はまっすぐ自宅に帰る。そして、彼女は帰宅してから自宅でロールケーキを食べながら市販の紅茶を飲んでいる。夏は冷たい紅茶で、冬は熱い紅茶を飲む。春と秋は常温の紅茶を飲んでいる。

彼女はずっと不安な気分に耐えながら、ずっと彼女は僕の帰りを待っている。彼女は手首を切りながら待っている。

でも、僕は、いずれ彼女と離れる事を決めていた。僕は夢を追いかける為に。だから、僕は彼女も「その時」が来たら、出来るだけ冷静に現実を受け入れて欲しいと思った。しかし、彼女が僕と一緒にいたいと思えば、しばらく僕は彼女と一緒に生きて行こうと思った。

彼女は今日も髪を数本青く染めた。傷跡の数と同じ数、彼女は髪を青く染めて行く。

彼女は生涯、手首を切り続ける。彼女の魂が消えるまでは。

彼女は恋愛を知らない訳でないし、僕も恋愛を知らない訳では無いけど、今は互いに恋人を作らずいたいと僕達は思っている。

そして、青い髪を何時ものように数本染めた冬の日。彼女はさっきまで切っていた自分の手首を見ていた。寒い為か知らないけど、何時もより鋭利に痛んでいた気がした彼女。そして、今日も彼女は「今夜も一緒に生きて行けて良かった」と言ってくれた。辛いけど、自分勝手な僕は彼女に初めて上京する事を伝えた。もう同じ空間で生きて行けないと伝えた。彼女はその僕の別れの言葉の方が、ある意味手首の傷よりも鋭利な痛みだと感じだようだ。だから、彼女は引き止めた。「ずっと傍にいて」と泣きながら言った。今、彼女は僕といる時に初めて涙を流した。僕も何故か彼女の辛そうな表情を見ると、彼女を見捨てて上京する事が辛くなった。僕は彼女の泣いている姿を見て、自然と涙が出そうだった。「鬱になるかもしれないから」と彼女は更に引き止めた。彼女はずっと僕の手を握っていた。その時、僕は昔、もし彼女が僕と一緒にいたいと思えば、しばらく一緒に生きて行こうと思った事を思い出した。

僕は「分かった。じゃあ、一緒に上京しようか」と彼女に尋ねた。彼女は直ぐに「一緒に上京したい」と言った。その日から、改めて僕達は貴重な「他人」だと互いに思った。それでも、また僕は彼女を見捨ててしまうかもしれないけど。

彼女も新しい場所で生きる事を決めて手続きをしていた。上京したら新しい病院で受診できるように用意をした。

そして、19歳の春に僕達は上京する事にした。僕達が「終わる」日までずっと一緒にいる事を決めた。今、僕達は新幹線に乗り一緒に此処を去る。新幹線が進みだした。新幹線が僕達を東京に運んでくれた。ただ都会で生きたいと思っている僕の夢を叶える為に。「一緒に上京したい」と言ってくれた彼女と共に上京する。また彼女は全部の髪を黒く染めた。上京後にまた手首を切り、手首の傷跡の数と同じ数だけ髪は青く染める。そう彼女は決めていた。いずれは別れる時が来る事を今度は覚悟していた。これからは、また僕から別れを告げられる日が来ても彼女は取り乱されないように別れを覚悟して生きて行くようだ。

僕と彼女は別れても互いに「恋人」を見つける事が幸いにも可能だと思う。しかし、しばらくは僕と彼女は二人で暮らそうと思っている。彼女は青白い顔で新幹線の窓の空間を見ていた。そして、新幹線がもう直ぐ東京駅に辿り着く。僕達は幸せになれるのか全く予測できない。それでも、僕達の上京後の生活も今までと同じような感じで過ごす気がした。

彼女は新しい街でも自宅で僕を待っているだろう。彼女は手首を切りながら、精神科で処方された治療薬を飲んで僕を待つ。彼女はそれでも不安な時が来れば頓服の治療薬も飲んで、少しだけでも心を落ち着かせて、僕の帰りを待っているだろう。きっと彼女が手首を切らなくなるまでは。彼女の魂が消えるまでは。

ジャンル:
小説
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