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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

「悲しきスーパーマン」

2017-07-09 10:51:25 | ショートショート
 遥かかなたの銀河。滅亡しかかった惑星・ムリプトンから一つのカプセルが宇宙空間に向けて発射された。中に入っているのはムリプトン星の赤ん坊、そして向かう先は地球。その地球の救世主になるべくして…。

 高度に発達した科学技術の粋を集めたカプセル、地球までの何十光年もの距離さえも、さほど時間を要さずに移動することができる。詳しい理屈は、筆者にもわからない。
 それでも長い移動時間の間、中の赤ん坊には地球上の〈すべての〉言語を含む生態・文化をはじめ、全宇宙の知識と知恵とが授けられた。
 やがてカプセルは地上に無事到着し、見つけた者たちによって大事に大事に育てられた。赤ん坊はすくすくと育ち、その知恵と力で周りの数々の問題を解決して行くのであった。
 手の付けられない山火事を消し止め、高い所から落ちそうになった仲間を助け、落下してきた岩に挟まった者を助け…。もちろん彼に歯向かう相手もあったが、そこは超人的な力を持つ彼のこと、指先で弾くだけで打ち負かすことができた。
 物足りないこともあったが、平和な毎日であった。

 成長につれて活動範囲を広げていったある日のこと、かなり離れた見知らぬ土地で大災害が発生したことを超聴力で知った。青いスーツに赤いマントを翻し颯爽と飛んで行き、見慣れぬ大きな建物の火災を消し止め、その中の〈人間〉を次々と救出していく。
 助け出された人々は、飛んできた正義のヒーローが珍しいのか、口々に驚嘆の声を上げては安全な場所へ走って行く。ただ、皆どういうわけか服を着ており、いつも見ている生き物とは明らかに違っている。
 いいことをした、といつものように充実感に浸っていたが、どうも様子がおかしい。

 なぜか。それはきっと、彼の顔がゴリラのようで、頭には2本の触角が生えていたからであり、また手も左右に2本ずつあったからだろう。
 多くの命を救ったという満足感はありながらも、彼は一人寂しく、元のジャングルへ、親兄弟であるゴリラたちの元へ戻っていくのであった。来る時とは違って、やや元気なく。

 …その後も動物界/人間界を問わず彼の大活躍は続くのであるが、本家本元のスーパーマンほど持てはやされなかったのは、何とも気の毒。


  Copyright(c) shinob_2005




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