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座談会『ISOから見た日本のものづくり支援の課題』

2011-12-30 09:06:20 | 座談会
診断ひろしま 第63号 特集 座談会


座談会『ISOから見た日本のものづくり支援の課題』

          
(出席者)
 診断協会広島県支部 支部長 藤田武志   同 理事 千早格郎 
 同 理事 ISO研究会会長 栗山琢次   同 会員 宮前美方子
 同 会員 砂口たくし           同 広報委員長(司会進行) 岸本実

司会 本日は、「ISOからみた日本のものづくり支援の課題と診断士の役割」と題して、ISO導入企業の現状、研究会の活動の狙い、ISO導入企業の問題と課題、診断士としてどのように関っていくのか、研究会継続の秘訣と課題などについて伺っていきます。ご出席の方々は、全員がISO研究会の会員であり、ISO審査やコンサルなどの実務で活躍をされている方もおられます。

 ものづくりの品質MSとして、1987年にISO9000シリーズが制定され、日本の中小企業にも導入が始まってから20年を超えます。しかし、導入企業の運用上の問題も数多く指摘されています。まず、ISO9001の主任審査員でもあります支部長に伺いますが、ISO導入企業の現状は如何でしょうか。
 
藤田 ISO9001は、品質管理を推進する一つの考え方、手法ですが、品質管理そのものの理解が不十分なままに、親会社から指示されたり、知り合いの会社が導入したからと言って安易に、形だけ導入した企業が以外に多いように見受けられます。そのため、従来の業務システムとは別にISOシステムを構築し、運用上2つのシステムが同時に動く煩雑さに悩んでいるところが多いと言えます。

 環境MS(以後MS)のISO14001の場合も同様です。私が指導した企業は産業廃棄物の収集運搬と中間処理をしている企業が多く、どうしても経営的に必要な企業であるため運用についてはまじめに取り組んでいる感じがします。

司会 そのISO導入企業の現状に対して、ISO9001の審査員で初代のISO研究会の会長に伺いますが、ISO研究会の活動の狙いはどのようなものでしょうか。
千早 ISO研究会は、支部長の話されたようなISOシステムを有効に活用できていないISO導入企業を有効なシステムに変革し、企業業績の向上に資することを指導できる診断士を育成し、効果的で適切な指導方法を研究することを目的として、平成19年7月に立ち上げました。この研究は、新規にISOを取得する企業をコンサルする場合にも役立ちます。

司会 研究会では、ISOを導入した企業の問題点をどのようにして洗い出し、どのように整理したのでしょうか。

栗山 最初は、アンケートを作成して、広島県のISO導入企業の製造業約50社に送ったのですが、回答はほとんど得ることができませんでした。原因は後で分かったのですが、各企業とも色々な機関からアンケートの依頼が多発しており、時間的にとても応じることができないので、ほとんどのアンケートはゴミ箱入りとのことでした。

 そのため、研究会会員がISO指導の経験から気づいた点の抽出や、企業を絞って訪問ヒアリング実施などから、問題を洗い出しました。

司会 洗い出した問題点をどのように整理したのでしょうか。
砂口 問題を「ISOを経営に役立てる上での問題点」として、その要因を、「6Mなぜなぜ分析、あるいは6M特性要因図」と呼ばれている手法で整理しました。

 これは、品質管理で使われる特性要因図を6つの切り口(人、機械、方法、計測、材料、環境、 6Mは英文の頭文字)で整理するもので、主に製造業の要因分析に使われます。
司会 その問題分析から、絞りこまれた主要な問題点と課題とは、どのようなものでしょうか。

宮前 問題は大きく分けて2つあります。1つは、「通常業務面の問題」で、課題は、①目標の設定と改善計画、②フォロー教育・訓練計画とフォロー、③不具合への再発防止(是正処置)を如何に行うかです。

 2つ目の問題は、「ISOのしくみと通常業務との一体化面の問題」で、課題は、①内部監査、②マネジメントレビュー、③審査への対応、を如何に行うかです。
司会 そのような、ISO導入企業の持つ課題に対して、診断士としての対応と提案を伺いたいと思います。

栗山 課題と対応は、1対1の関係ではありませんが、診断士としての対応を説明すると、次の2点が重要と考えています。
①人材育成でのコンサルティングの方法の改善についてですが、目標管理、組織づくり、管理監督者の役割、組織活性化など一般的な課題を個別的な問題と対応策として考えをすすめていくと、相互に絡み合いうまくいかない。そのため、「人材育成・目標管理・やる気を起こさせる」の3つを一体的に指導することが重要です。
②管理者、リーダーのレベルアップの考え方についてですが、中小企業では、自力でレベルアップできる人、意欲のある人が入ることは少なく、レベルが上がれば辞めていく、プレッシャーをかければ辞める社員が多い。そのため、経営者が気を遣いながら気長に育てているのが実情です。そのため、レベルアップの過程に適切なコンサルティング活動が求められます。ヒューマンエラーの防止の考え方、QC手法、なぜなぜ分析などは社外講習会でもやっていますが、規模の小さい企業での参加は少ない。このような個別的、技術的な支援は受け入れやすいので、支援の導入のメニューを示すことが必要です。

司会 ISO審査員、診断士として活躍されている千早先生の意見を伺いたいと思います。

千早 ISO審査の面から、企業の持つ課題と対応策の例として次の3点が上げられます。

①内部監査から本当に社長が知りたい情報が報告されているかが問題です。もし知りたい情報がなければこの点について監査せよと指示を出す必要があります。そのためには社長を教育しなければなりません。
内部監査の方法については、管理責任者やISO委員会が作った全社共通の監査リストによって表面的な監査、即ち記録がないとか承認印がないという表面的な監査しかしていないから社長が必要とするような監査情報(システムに関する指摘事項)が出て来ない。それは内部監査員が、通常業務に追加的な役割しか与えられていない、監査予定日の前になって段取りを始めるか段取りそのものをしない、知識が不十分、時間が不足、監査員同志、上司とのコミュニケーションが取りにくいなどで有効な監査ができていない。監査回数を増やして、監査員は3年間くらいは変えず経験を積むことが重要であると言えます。

②マネジメントレビューについても、経営者や管理者が社長の身になって、社長が求める情報を報告しない、特に悪い情報は報告しない。(クレーム処置、対策などの重要問題は通常業務で記録が残されていなければならないが、通常業務のPDCAが回っていないところにマネジメントレビューをおこなっても内容が伴わないことになりますので、通常業務のPDCAを回せるように指導することが先決です。ISO導入の効果があるかどうかはマネジメントレビューと内部監査が有効に実施されているかどうかにかかっているので、大変重要です。

③審査への対応については、平素の業務でPDCAが回っていないから、審査直前になって確認フォローアップをするので、間に合わせ的になり、つじつまを合わせになっているのが実情です。その原因は、通常業務における上司の確認、指導が適切になされていないからです。平素から継続的に改善をして、是正していくことが必要で、そのために監査員のみならず管理職全員の力量を高めること、つまり現象面からしくみの問題点、運用上の問題点を探れる事が必要になります。つまりPDは実施しているがCAが回っていない。コンサルタントとして、現象面の指摘からその奥にある問題点とその原因を明らかにして、提示していく事が求められている。経営者、管理職を育成する教育ツールの作成が必要になります。

司会 ISO研究会は平成19年7月に立ち上げられ、診断協会広島県支部でも最も古い研究会でありながら、4年余りを経て、今なお活発な活動を継続されております。研究会会長に伺いますが、その秘訣、また今後の課題はどのようなものでしょうか。
栗山 会員の集まりやすい日程としました。また、企業内診断士が参加し易くするためISO9001とISO4001の2部制にしたり、時間帯も17時から始めたりしました。初めの2年間くらいは、規格要求事項の勉強会で会員が取り組みやすい内容で始めました。会員の専門分野が異なることで審査やコンサルでの事例が役立ちました。また、審査機関の勉強会での規格の解釈などを織り込み、初歩から、深掘りまで、やってきました。

 外部に対する働きかけを含んだ活動が納期や目標、活動計画に対する真剣さを生むことになりますが、厳しすぎると続き難い、内部的な活動とのバランスが重要だと思います。
司会 ISO研究会やISOに関する企業支援などの抱負について、一言ずつお願いします。

藤田 ISOのしくみ自体は企業経営を行う上で必要な項目を体系的にカバーしていると思います。しかし、すべての業種をカバーするという点で無理な点があるし、効率的でないと感じることが多い。この点を改善していかないと企業からの評価は下がってしまう可能性が高いです。中小企業施策の活用などについても大企業出身者が審査員に多いため不十分であると感じています。

 もう一つの大きな問題は、財務・組織運営面で9001、14001ともにカバーしていないことです。経営基盤の強化と経営の効率化の物差しとしては、やはり財務面からの成果を結び付けていかないといけません。このままでは、お話に出てくるように、経営とISOを別建てで運用することが出てきます。将来は、ISOを採用する企業は費用対効果という観点からどんどん減っていくものと推測しています。

 ISO研究会は、ISOの経営面での支援の体系をどう経営支援に生かしていくかということを研究する会にしてもらえればよいと考えます。我々中小企業診断士としてISOを活用していくことが審査機関に所属して審査員として活動している方々との差別化につながりますし、企業からも評価をされる方向であると思います。

千早 ISOは品質なり環境だけのMSではなく、経営管理全般のMSであると思います。それを品質だけ、環境だけのシステムと考えるからMSとして不十分なものになっています。導入の時、アドバイスをしたコンサルタントにもよると思いますが、その会社の実状を見ず、規格からシステムを作った会社に多く、そんな会社のマニュアルは殆どどこも同じで、規格そのままのようなマニュアルが沢山あります。そのことに社長やその他の経営者、それを補佐する管理職が誰も気付いていない。だから不満に思いながらも改善しようとしないのです。我々コンサルタントとしては経営者たちにそのことを気付かせてあげることが先決と思います。そのために対面方式で話し合ったり、講演会を開いて啓蒙することが必要と思います。そんな中から改革を目指す企業が現れて、そこからコンサルが始まると思います。

栗山 ISOに関する中小企業の抱えている問題、診断士に期待されている成果は、具体的な問題に対する、効果的なアプローチの仕方で体質改善につながる個別的な支援だと言えます。

 今までの活動の延長線として、個別に応用、展開できるテキスト、研修会、演習、など教育カリキュラムの作成をベースにして、実践で使いながら、幅を広げていく、この様な活動が考えられると思います。

 審査機関などで行われている一般的な「内部監査員に対する研修会」は基礎的な一般論ですので、管理のレベルを押し上げ続ける事は難しいと言えます。具体的な提案として、例えば「不適合現象から業務システムを是正する方法」のような、プロセスの悪さに遡って、しくみを改善できることが求められていると思います。

宮前 ISO研究会に参加させていただき、規格の要求事項から経験豊富な諸先輩にお教えいただき大変勉強になりました。また、実際にISOを導入されている中小企業で働く従業員の生の声を聞く機会を持つことができ、机上で思い描くシステムと実際の現場の捉え方の差異を知ることができました。マニュアルを作り、記録を残すだけに終わらず、現場に改善の足跡を残し続けるしくみづくりをしなければ、ISOを取得し継続していくメリットを中小企業は見出すことはできないと思います。そのための有効な支援を考える必要があると思います。

砂口 ISOの中にある継続的改善の仕組みやそのフレームワークは本来、経営の中に構築されているべきものですが実際には本業の仕組みが不完全なままで、ISOとの二重構造に苦しむところが多いようです。診断士はこうした二重構造から負荷の少ない役に立つISOとするため、ISOと本業の枠組みを一体化し再構築する支援の分野で活躍できるのではないかと思います。
診断士には、ISO分野に限定した入り方ではなく、経営支援の立場で広くISOを経営に活かす視点が求められると思います。

司会 本日は貴重なご意見を頂戴することができました。有難うございました。

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