司法試験刑法論文答案

山口説で作成するものです。

平成17年刑法第一問

2005-07-20 18:55:46 | Weblog
 甲は,自己の取引先であるA会社の倉庫には何も保管さ
れていないことを知っていたにもかかわらず,乙の度胸を
試そうと思い,何も知らない乙に対し,「夜中に,A会社
の倉庫に入って,中を探して金目の物を盗み出してこい。」
と唆した。乙は,甲に唆されたとおり,深夜,その倉庫の
中に侵入し,倉庫内を探したところ,A会社がたまたま当
夜に限って保管していた同社所有の絵画を見付けたので,
これを手に持って倉庫を出たところで警備員Bに発見され
た。Bが「泥棒」と叫びながら乙の身体をつかんできたの
で,乙は,逃げるため,Bに対し,その腹部を強く蹴り上
げる暴行を加えた。ちょうど,そのとき,その場を通りか
かった乙の友人丙は,その事情をすべて認識し,乙の逃走
を助けようと思って,乙と意思を通じた上で,丙自身が,
Bに対し,その腹部を強く殴り付け蹴り上げる暴行を加え
た。乙は,その間にその絵画を持って逃走した。Bは間も
なく臓器破裂に基づく出血性ショックにより死亡したが,
その臓器破裂が乙と丙のいずれの暴行によって生じたかは
不明であった。
 甲,乙及び丙の罪責を論ぜよ(ただし,特別法違反の点
は除く。)。


1 乙の罪責について
 (1) まず、乙がA会社の倉庫に侵入した行為について
   建造物侵入罪(130条前段)が成立する。
 (2) 次に、当該倉庫内からA会社所有の絵画を倉庫外
   に持ち出した行為について窃盗罪(235条)が成立し
   うる。
 (3) では、その後、Bに対し丙と共に暴行を加えた行
   為について、事後強盗致死罪の共同正犯(60条、23
   8条、240条後段)が成立するか。共同正犯の成立要
   件として故意の共同を要するとすると、加重結果に
   ついて故意がない以上結果的加重犯の共同正犯は認
   められないように思われるため問題となる。
   ア そもそも、共犯の処罰根拠は、共犯が正犯の
    行為を介して、あるいは正犯と共に構成要件該当
    事実を間接惹起、あるいは共同惹起した点にある
    と解される(因果共犯論)。そうだとすれば、共同
    正犯の構造は各人が行為を共同することによって
    各人の犯罪を実現するもの(行為共同説)と解する
    のが自然であり、故意の共同は不要である。
     よって、結果的加重犯の共同正犯も認められる。
   イ よって、乙の当該行為について事後強盗罪の共
    同正犯が成立する。
 (4) 以上より、乙には建造物侵入罪、窃盗罪、事後強盗
   致死罪の共同正犯が成立しうるが、窃盗罪は事後強
   盗致死罪に吸収され、事後強盗致死罪と建造物侵入罪
   は目的、手段の関係にあるといえるので、牽連犯(54
   条1項後段)となる。
2 丙の罪責について
 (1) 丙が乙と共にBに暴行を加えた行為について、事後
   強盗致死罪の共同正犯が成立するか。丙は乙の窃盗
   行為には関与していないため、まず事後強盗罪の構造
   が問題となる。
   ア この点、事後強盗罪の構造を身分犯と解する見解
    がある。しかしこの見解では、事後強盗罪の既遂・
    未遂は暴行・脅迫の既遂・未遂で決せられることに
    なるが、これは事後強盗罪の罪質が財産犯であり、
    その既遂・未遂は先行する窃盗罪の既遂・未遂で決
    せられると解されていることと矛盾し妥当でない。
    よって、事後強盗罪の構造は、窃盗罪と暴行・脅迫
    罪の結合犯と解するのが妥当である。
   イ そうだとすれば、本問では丙は暴行にのみ関与し
    ているにすぎないので、丙の罪責については承継的
    共同正犯の成否が問題となる。
    (ア) そもそも、前述のような共犯の処罰根拠につ
      いての因果共犯論の見地からは、後行者は先行
      者の惹起した事実について因果性を及ぼし得な
      い以上、処罰根拠が認められない。
       よって、承継的共同正犯は認められない。
    (イ) よって、丙の当該行為について、事後強盗致
      死罪の共同正犯は認められない。
 (2) では、丙の当該行為について障害致死罪の共同正犯
   (60条、205条)が成立するか。本問では、Bの死亡結
   果が丙の関与前の乙の暴行によるものか、関与後の
   丙と乙の暴行によるものか不明であるため、障害致死
   罪に207条の適用が認められるか問題となる。
   ア そもそも、同条は誰かが「無実の罪」を負うことに
    なることを正面から肯定するものであり、その合理
    性は極めて疑問がある。よって、同条の適用範囲は
    なるべく限定的に解するのが妥当であり、法文上明
    示された傷害罪についてのみ適用があると解する。
    よって、障害致死罪に同条の適用は認められない。
   イ もっとも、同条は傷害罪には適用されると解する
    以上、本問では、丙の当該行為について傷害罪の共
    同正犯(60条、204条)が成立すると考える。確かに、
    207条の合理性には疑問があるものの、同条の適用
    を認めないと、意思の連絡がある場合とない場合と
    で不均衡が生じ妥当でないからである。
 (3) 以上より、丙は傷害罪の共同正犯の罪責を負う。
3 甲の罪責について
 (1) まず、甲が乙に対してA会社の倉庫に侵入するように
   唆した行為について、建造物侵入罪の教唆犯(61条1項、
   130条前段)が成立する。
 (2) では、乙に対し同所から金目の物を盗み出してこいと
   唆した行為について、窃盗罪の教唆犯(61条1項、235条
   )が成立するか。甲は同所には何も保管されていないと
   思っていたので、故意が認められないのではないのか、
   いわゆる未遂の教唆が問題となる。
   ア そもそも、前述のように共犯の処罰根拠について
    の因果共犯論の見地からは、故意が認められるため
    には正犯による既遂惹起の認識・予見が必要と解さ
    れる。よって、未遂の教唆は故意が認められず、不
    可罰と解する。
   イ よって、甲には故意が認められず、同罪は成立し
    ない。
 (3) 以上より、甲は建造物侵入罪の教唆犯の罪責を負う。
                        以上

平成15年刑法第一問

2005-03-21 15:44:28 | Weblog
 甲は,自宅で,知人Aと口論になり,激高してとっさ
に殺害することを決意し,部屋にあったクリスタルガラ
スの花瓶でAの後頭部を力任せに殴打した。Aは,頭蓋
骨を骨折する重傷を負い,その場にこん倒した。甲は,
ぐったりとして動かなくなったAの様子を見て,Aが死
亡したものと考えた。その直後,友人乙が甲方を訪ねて
きたので,甲は,事情を説明し,Aの死体を山中に埋め
ることに力を貸してもらいたいと頼み,乙もこれを承諾
した。そこで,甲及び乙は,甲の自動車の後部座席にA
を運び入れ,甲が運転し,乙がAの横に座り,山中に向
かった。その途中,Aが一度身動きをしたことから,乙
は,Aが生きていることに気付いたものの,日ごろから
Aを快く思っていなかったので,このまま生き埋めにし
て殺してやろうと考え,甲にはAが生きていることを伝
えなかった。そして,山中で,甲及び乙は,一緒に穴を
掘り,その中にAを投げ込み,土を掛けて埋めたため,
Aは,窒息して死亡した。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ。


1 乙の罪責について
 (1) Aが死亡した結果について、乙はいかなる罪責を
   負うか。
  ア まず、乙が甲と一緒に穴を掘り、その中にAを投
   げ込み、土を掛けて埋めたことによりAを窒息死さ
   せた行為は、殺人罪(199条)、過失致死罪(210条)等
   の共同正犯(60条)の構成要件に該当する。
  イ 次に、乙に故意が認められるか検討すると、乙に
   故意が認められる。
  ウ よって、当該行為について、殺人罪の共同正犯が
   成立する。
 (2) 以上より、乙は殺人罪の共同正犯の罪責を負う。
2 甲の罪責について
 (1) Aが死亡した結果について、甲はいかなる罪責を
   負うか。
  ア まず、甲が乙と一緒に穴を掘り、その中にAを投
   げ込み、土を掛けて埋めたことによりAを窒息死さ
   せた行為は、殺人罪(199条)、過失致死罪(210条)等
   の共同正犯(60条)の構成要件に該当する。
  イ 次に、甲に故意が認められるか検討すると、甲は
   Aが生きていることに気が付いていないため、故意
   は認められない。
    もっとも、甲に重過失は認められる。
  ウ よって、当該行為について、重過失致死罪(211条
   1項後段)の共同正犯が成立しうる。
  エ では、Aが死亡した結果について、甲が自宅でA
   の後頭部を殴打した行為まで遡及して、結果惹起責
   任を追求できないか。
   (ア) 思うに、刑法の謙抑性の原則からは、当該結
     果を支配した行為についてのみ結果惹起責任を
     追求することが妥当である。
      そして、結果を支配した行為とは、故意行為
     であると考えられる。
      よって、結果惹起責任は、故意行為者が負い、
     それ以前の行為については、(正犯としての)結
     果惹起責任を追及できないと解する(遡及禁止原
     理)。
   (イ) 本問では、Aの死亡結果と甲の当該行為との
     間に乙の故意行為が介在している。
   (ウ) よって、当該行為について、Aの死亡結果惹
     起の責任を追及できない。
 (2) もっとも、本問では、乙の介入以前に、Aが頭蓋
   骨を骨折する重傷を負った結果について、甲の当該
   殴打行為に殺人未遂罪(203条、199条)が成立しうる。
 (3) 以上より、甲には重過失致死罪の共同正犯、及び
   殺人未遂罪の成立が考えられるが、前者は後者に吸
   収される(包括一罪)と考える。
                    以上

平成16年刑法第二問

2005-03-17 15:09:31 | Weblog
 甲は,Aとの間で,自己の所有する自己名義の土地を
1000万円でAに売却する旨の契約を締結し,Aから
代金全額を受け取った。ところが,甲は,Aに対する所
有権移転登記手続前に,Bからその土地を1100万円
で買い受けたい旨の申入れを受けたことから気が変わり,
Bに売却してBに対する所有権移転登記手続をすること
とし,Bとの間で,Aに対する売却の事実を告げずに申
入れどおりの売買契約を締結し,Bから代金全額を受け
取った。しかし,甲A間の売買の事実を知ったBは,甲
に対し,所有権移転登記手続前に,甲との売買契約の解
除を申し入れ,甲は,これに応じて,Bに対し,受け取
った1100万円を返還した。その後,甲は,C銀行か
ら,その土地に抵当権を設定して200万円の融資を受
け,その旨の登記手続をし,さらに,これまでの上記事
情を知る乙との間で,その土地を800万円で乙に売却
する旨の契約を締結し,乙に対する所有権移転登記手続
をした。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ。


1 甲の罪責について
 (1) Aに対する罪責について
  ア 甲がBに本件土地を売却した行為につき、委託
   物横領罪(252条1項)が成立しないか。
   (ア) まず、横領罪における「占有」は、他人の
     物の処分可能性をいうと解され、本問におけ
     る甲は登記を有していることから、処分可能
     性が肯定でき、「占有」が認められる。
   (イ) また、本問において売主たる甲は、Aに対
     し登記移転義務等を負うため、委託関係も認
     められる。
   (ウ) さらに、本問では、Aとの売買契約の成立
     により所有権はAに移転しているため(民法1
     76条)、本件土地は「他人の物」といえる。
   (エ) では、「横領した」といえるか。
     あ そもそも、横領罪の保護法益は所有権で
      ある。よって、「横領した」といえるため
      には、所有権の侵害が確定的に認められる
      ことが必要と解するべきである。
     い 本問では、Bに対抗要件たる登記は備わ
      っていないことから、所有権の侵害が確定
      的に認められるとはいえない。
     う よって、本問では、「横領した」といえ
      ない。
   (オ) よって、当該行為について、委託物横領罪
     は成立しない。
  イ では、甲がCのために本件土地に抵当権を設定
   した行為について、委託物横領罪は成立しないか。
   (ア) まず、本問において、登記を有する甲は、
     「占有」しているといえる。
   (イ) では、委託関係は認められるか。
     あ 本問では、一旦Bに売却しているが、そ
      の後当該売買契約は解除されているため、
      甲のAに対する登記移転等の義務は存続し
      ているといえる。
     い よって、委託関係は認められる。
   (ウ) また、本問では、「他人の物を横領した」
     といえる。
   (エ) よって、当該行為につき、委託物横領罪が
     成立する。
  ウ では、甲が乙に対し本件土地を売却した行為に
   つき、委託物横領罪は成立するか。不可罰的事後
   行為の意義と関連して問題となる。
   (ア) そもそも、不可罰的事後行為が別途処罰対
     象とされない根拠は、両行為による法益侵害
     及び両行為の意思決定が一体のものと評価で
     きることにより、複数のものと評価できる場
     合よりも違法性及び責任が減少する点にある。
      そうだとすれば、不可罰的事後行為とは、
     両行為の法益侵害惹起の一体性、及び両行為
     の意思決定の一体性が認められる場合に認め
     られると解される。
   (ア) 本問では、本件土地につき、Cのために抵
     当権を設定した行為と、乙に売却した行為は、
     ともにAの所有権を侵害するもので、法益侵
     害惹起の一体性は肯定しうる。
      また、両行為の間にさほどの時間的隔たり
     等は認められないから、両行為の意思決定に
     ついても、一体性を肯定しうる。
   (イ) よって、当該行為は不可罰的事後行為と認
     められ、別途委託物横領罪は成立しない。
  エ なお、甲がAに本件土地を売却した行為につい
   て、本問では、この時点での甲に詐欺の故意が認
   められないため、詐欺罪(246条1項)は成立しない。
 (2) Bに対する罪責について
    甲がBに対し、本件土地をAに売却済みである
   ことを告知せずに売却した行為について、詐欺罪
   が成立しないか。
  ア 詐欺罪の要件としては、錯誤が認められること
   が必要である。
    では錯誤は認められるか、錯誤の意義と関連し
   て問題となる。
   (ア) そもそも、詐欺罪の保護法益は、当該財産
     の交換による目的達成にある。
      そうだとすれば、法益保護主義の見地から
     は、かかる目的が達成されなかった場合に錯
     誤が認められると解するのが妥当である(法益
     関係的錯誤説)。
   (イ) 本問では、Bは登記を備えれば本件土地の
     所有権をAに対抗しえたにもかかわらず、二
     重売買であることを知って本件土地の売買契
     約を解除していることからすると、Bの目的
     は達成されなかったといえる。
   (ウ) よって、本問で錯誤は認められる。
  イ また、詐欺罪は個別財産に対する罪と解される
   ため、本問でBは甲から代金の返還を受けている
   が、法益侵害は認められる。
  ウ よって、当該行為について、詐欺罪が成立する。
 (3) Cに対する罪責について
   甲がCのために本件土地に抵当権を設定すること
  で融資を受けた行為については、錯誤が認められず、
  詐欺罪は成立しない。
 (4) 以上より、甲はAに対する委託物横領罪、Bに
   対する詐欺罪の罪責を負い、両罪は併合罪(45条)
   となる。
2 乙の罪責について
 (1) 乙が上記の事情を知って甲から本件土地を買い
  受けた行為について、委託物横領罪の共同正犯(60
  条)が成立しないか。
  ア この点、民事法上、第二譲受人は背信的悪意者
   でない限り、先に登記を備えれば第一譲受人にも
   対抗できると解されている。
    そうだとすれば、刑法の謙抑性の見地からは、
   背信的悪意者でない限り、第二譲受人に刑事責任
   を問えないと解するべきである。
  イ 本問では、乙が背信的悪意者であるとの事情
   は認められないから、乙に刑事責任は問えない。
  ウ よって、当該行為につき委託物横領罪の共同正
   犯は成立しない。
 (2) 以上より、乙は何の罪責も負わない。
                   以上

答案に関して

2005-03-15 22:52:10 | Weblog
山口説で作成してみました。
理解が不十分な記述が多々あるかと思います。
広くコメントをいただけると幸いです。

平成16年刑法第一問

2005-03-15 22:45:46 | Weblog
 甲は交際していたAから,突然,甲の友人である乙と同
居している旨告げられて別れ話を持ち出され,裏切られた
と感じて激高し,Aに対して殺意を抱くに至った。そこで,
甲は,自宅マンションに帰るAを追尾し,A方玄関内にお
いて,Aに襲いかかり,あらかじめ用意していた出刃包丁
でAの腹部を1回突き刺した。しかし,甲は,Aの出血を
見て驚がくするとともに,大変なことをしてしまったと悔
悟して,タオルで止血しながら,携帯電話で119番通報
をしようとしたが,つながらなかった。刺されたAの悲鳴
を聞いて奥の部屋から玄関の様子をうかがっていた乙は,
日ごろからAを疎ましく思っていたため,Aが死んでしま
った方がよいと考え,玄関に出てきて,気が動転している
甲に対し,119番通報をしていないのに,「俺が119
番通報をしてやったから,後のことは任せろ。お前は逃げ
た方がいい。」と強く申し向けた。甲は,乙の言葉を信じ,
乙に対し,「くれぐれも,よろしく頼む。」と言って,そ
の場から逃げた。乙は,Aをその場に放置したまま,外に
出て行った。Aは,そのまま放置されれば失血死する状況
にあったが,その後しばらくして,隣室に居住するBに発
見されて救助されたため,命を取り留めた。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。


1 乙の罪責について
 (1) Aが重傷を負った結果について、乙はいかなる罪責
   を負うか。
   ア まず、当該結果は、殺人未遂罪(203条、199条)、
    傷害罪(204条)等の構成要件に該当する。
     では、乙がAをその場に放置した不作為行為は、
    当該構成要件に該当するか。不真正不作為行為の
    処罰の可否と関連して問題となる。
    (ア) そもそも、不作為も行為である以上、それを
      処罰することが罪刑法定主義に反するとは解さ
      れない。
       ただ、不作為犯の処罰は、自由主義原則の例
      外であることは否定できない。
       そこで、不作為行為の構成要件該当性が認め
      られるためには、因果関係が認められるだけで
      は足りず、自由主義原則の例外を基礎付ける事
      情、すなわち保障人的地位が必要と解される。
       また、不作為と結果惹起との関係を特定する
      ため、排他的支配が必要と解される。
    (イ) 本問では、乙が救助していれば、経験上Aの
      死亡の危険は消滅していたといえるため、乙の
      不作為行為と当該結果との因果関係は認められ
      る。
       また、乙は、Aを救助しようとする甲に対し、
      「後のことは任せろ」などと言って逃亡させて
      おり、いわゆる引き受け行為が認められ、保障
      人的地位にあるといえる。
       さらに、甲の逃亡後は、その場にいたのはA
      を除いて乙だけであるから、排他的支配も認め
      られる。
    (ウ) よって、乙がAをその場に放置した不作為行
      為は、当該構成要件に該当する。
   イ 次に、乙に故意が認められるか検討すると、故意
    は認められる。
   ウ よって、当該結果について、乙は殺人未遂罪の罪
    責を負う。
   エ では、中止未遂(43条後段)は成立するか。中止未
    遂における刑の必要的減免の根拠と関連して問題と
    なる。
    (ア) 思うに、中止未遂において刑が必要的に減免
      される根拠は、行為者が任意に既遂の危険を消
      滅させた場合に、かかる特典を与えることが、
      法益救助の見地から合理的であるという点にあ
      ると解される(政策説)。
       従って、中止未遂の成立要件としては、既遂
      の危険の消滅と因果関係のある中止行為と、そ
      れを任意になしたこと、が必要と解される。
    (イ) 本問では、Aが命を取り留めたのは、隣室に
      居住するBの行為によるものであるから、乙に
      中止行為は認められない。
   オ よって、乙に中止未遂は成立しない。
 (2) 以上より、Aが重傷を負った結果について、乙は殺
   人未遂罪の罪責を負う。
2 甲の罪責について
 (1) まず、Aの住居権を侵害した結果について、甲は住
   居侵入罪(130条前段)の罪責を負う。
 (2) では、Aが重傷を負った結果について、甲はいかな
   る罪責を負うか。
   ア この点、本問では、乙の故意行為が介在している
    ため、遡及禁止原理が妥当し、乙の介入以後の結果
    について甲に帰責することはできない。
     もっとも、本問では、乙の介入以前にAの重傷の
    結果は生じており、この結果およびこれを惹起した
    甲の行為は、殺人未遂罪、傷害罪等の構成要件に該
    当する。
   イ 次に、甲に故意が認めらるか検討すると、故意も
    認められる。
   ウ よって、(乙の介入以前に生じた)Aの重傷結果に
    ついて、甲は殺人未遂罪の罪責を負う。
   エ では、中止未遂は成立するか。
    (ア) 本問では、甲はAに重傷結果を負わせた後、
      タオルで止血したり、119番通報をしているが、
      いずれも既遂の危険と因果関係のある中止行為
      とは認められない。
    (イ) よって、中止未遂は成立しない。
 (3) 以上より、甲は住居侵入罪及び殺人未遂罪の罪責を
   負い、両罪は牽連犯(54条1項後段)の関係に立つ。
                        以上