晴れ、ときどき映画三昧

「手紙は憶えている」(15・カナダ/独) 80点


  ・ 認知症老人によるロードムービーは、一風変わったサスペンス。

    

  

 認知症で記憶障害のある老人が、ナチス親衛隊員への復讐するためのロードムービー・サスペンス。「白い沈黙」(14)のアトム・エヤゴン監督、「人生はビギナーズ」(10)のクリストファー・プラマー主演、「エド・ウッド」(94)のマーティン・ランドー共演。
   
 高齢者施設に暮らす90歳の老人セブ(C・ノーラン)は、妻に先立たれたことも覚えていない。妻の死後、彼には同じ施設に暮らすマックス(M・ランドー)との約束事があった。それは共に家族を皆殺しにされた元ナチス親衛隊員への復讐を果たすこと。

 身体が不自由なマックスに綿密な段取りを組んでもらったセブは、ルディ・コランダーという偽名の男4人のうち、本名オットー・ヴァリッシュを抹殺するための旅に出る。

 頼りはマックスに書いてもらった、移動手段や居場所・復讐の動機が書いてある手紙だった。

 本作は、従来エゴヤン作品にみられた複雑な回想シーンや遡る部分を排除して、現在進行のオーソドックスな展開。

 衝撃のラスト5分というキャッチフレーズに惑わされることなく、主人公セブのナチ・ハンターぶりを追いながら見入ることができた。

 偶然の出来事が多いという気もするが、脚本デビュー作であるベンジャミン・オーガストの巧みな構成力によってグイグイ惹き込まれて行く。

 C・プラマーは、セブを演じるために年を重ねてきたのでは?と思えるほどのハマリ役。古くは「サウンド・オブ・ミュージック」(65)の大佐役以来数々の出演作があるが、本作が代表作と言ってよい。

 ピアニスト志望だけあって、吹き替えなしでワーグナーの「トリスタンとインゾルデ」を鮮やかに弾くシーンは、衝撃シーンの前触れのひとつ。ちなみに旅の途中弾いたメンデルスゾーンはおぼつかなかった。

 4人のルディ・コランダーのうち3人は人違いだったり他界していたが、最後は探していたアウシュビッツのブロック長だった。「ヒトラー最後の12日間」(05)のブルーノ・ガンツが演じて納得の役柄。

 老人性認知症は、昔のことはよく覚えているという認識があったが、本作のように時と場合によって記憶がまだらになることがあるようだ。

 衝撃の5分間の前触れは前述のピアノのシーン以外にも幾つかあった。ユダヤ人以外にもアウシュビッツ被害者がいて2人目のルディは病床にいて囚人番号は同性愛者だった。セブの流した涙は人違いの涙ではなかったのだ。

 3人目は亡くなっていたが、ネオナチ信望者の息子(ディーン・ノリス)との意外な展開も前触れの一つ。

 アルメニア人虐殺の生き残り子孫である監督。ホロコーストという前代未聞の大虐殺は体験者だけでなく、子孫まで伝えて行くべきものと考えて本作に挑んでいる。

 日本でも広島・長崎の原爆被害は、長く語り継がれなければならないように。

 
 
 



 
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