・ ネット社会に蘇ったヒトラーの恐ろしさを描いたブラック・コメディ。
’45年死んだはずのヒトラーがタイム・スリップして現代のベルリンで蘇った。コスプレ男か?物まね芸人か?と勘違いされながら、クビになったTVディレクターに発見され出演した番組がキッカケで、一躍人気者になっていく。
ヒトラーを題材にした名作は「チャップリンの独裁者」(40)、「ヒトラー~最後の12日間~」(04)など幾つかあるが、難民移民問題を抱えた欧州にとってタイムリーなこのブラック・コメディは長く記憶に残るかもしれない。
原作はティムール・ベルメシュのベストセラーで一人称で綴られたユーモア溢れるベストセラー。監督のデヴィット・ヴェンドはTV・インターネットなどメディアを通して一般社会がどう捉えていくかを描いている。
一見荒唐無稽な設定は、作り方如何ではどうにもならない愚作になりかねないところ。本作は原作のもつ飄々としたユーモアを大事に残しながら、一般人へのインタビューをセミ・ドキュメンタリーのタッチで映像化していること。
「いま困っているモノは何か?」「この国の将来をどうしたのか?」というヒトラーのインタビュー撮影シーンは実に380時間に及び、その中から本人合意の上で編集されたのは真っ向から否定する常識派ももちろんあったが、なかには人間として親しみを感じて移民難民・若者の貧困・高齢者の失業・最低の出生率などドイツが抱える諸問題に不満をブチマケル者も。
実在の政治家やネオナチス党本部まで登場する危ないシーンも無難に編集され笑いに包まれるが、終始真面目に言動するヒトラーが「我々こそが人民だ!」と連呼し「ドイツ国民が私を選んだのだ」と叫ぶ、<大衆が選んだ独裁者>であることを今更ながら気付かされる。
チャップリンを演じたのは無名の実力舞台俳優のオリバー・マスッチ。素顔はヒトラーに似ていないが特殊メイクでなり切って、彼の一面でもあるソフトで包容力を持った父親のような人物像を演じて魅せた。
混沌とした社会に英雄待望論が潜んでいる現在は大国と言われる国々や日本も例外とは言えず、本作が過去の愚かな出来事として余裕をもって笑って観られる方向へと向かって行って欲しい。
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