お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 5

2021年10月28日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
 午後の授業は、さとみの得意技である「目を開けたまま寝る」で乗り切った。おかげで眠気は一掃した。
 廊下にはすでにアイが立って、さとみを待っていた。アイを見つけた麗子が、さとみよりも先に教室を出てアイと楽しそうに話をしている。時々互いに耳元で囁き合ってはくすくすと笑っている。……良かったぁ、二人とも仲良しに戻ってくれて。さとみはにまにましながら教科書をカバンに詰め込んでいる。
 詰め込みが終わって教室を出ようと廊下の二人を見たさとみの表情が変わった。それに気が付いたアイが教室に入って来た。
「姐さん! どうしたんですか?」アイが心配そうにさとみを見る。「何やら困り事のありそうなお顔ですけど……」
「え? いえ、そんなでも無い、けど……」
 さとみは開いてい教室のドアから廊下を見ながらつぶやいた。アイはさとみの視線を追う。麗子の隣に見慣れない娘が立っていて、じっとさとみを見ていた。
「何だぁ、あいつはぁ?」アイの表情が険しくなる。「姐さんにガン飛ばしてやがる……」
「あ、良いの!」
 拳を作って今にも襲いかかろうと体勢を取ろうとしたアイをさとみが止める。
「でも、姐さん……」
「お昼休みにアイと麗子との仲を取り持ってくれた娘よ。一年の中沢朱音ちゃん」
「ああ、あの娘か……」アイの拳が緩んだ。「姐さんに用でもあるんでしょうか?」
「そう、みたいね……」
「ここへ呼びましょうか?」
「う~ん……」さとみは唸ると手をおでこに持って行った。ぴしゃぴしゃと叩きはじめて、目を閉じる。「どうしようかなぁ……」
「先輩!」
 不意に大きな声がして、さとみはおでこに手を当てたまま目を開けた。アイの隣に朱音が立っていた。
「おでこぴしゃぴしゃは止めた方が良いって言ったじゃないですか!」朱音が少し怒った顔で言う。「そうじゃないと、笑っちゃいます!」
 朱音は笑うのを堪えるために怒った顔をしているようだ。
「おい、お前!」アイが朱音の肩を掴んで振り向かせる。「姐さんに何言ってやがるんだ!」
「だって、可笑しくって笑っちゃうじゃありませんかぁ!」朱音はアイの脅しに負けていない。「わたし、さとみ先輩にお話があるんです! アイ先輩!」
「アイ先輩だとぉ……」アイはむっとする。「わたしの世界じゃな、先輩なんてのは無いんだよ! あるのは姐さんか舎弟だ!」
「じゃあ、わたしは?」朱音が首を傾げてアイに言う。「わたしは、どうすれば良いんですか?」
「姐さんが舎弟と認めれば舎弟だ。そうなれば、わたしはお前にアイ姐さんと呼ばれる」
「何だか、この前テレビでやってた女極道の映画みたい……」朱音はそう言いながらも楽しそうだ。「じゃあ、さとみ先輩じゃなくって、さとみ姐さんって呼べば良いんですか?」
「だから、それは姐さん次第だ」アイはさとみを見る。「どうですか、姐さん?」
「え?」さとみは突然話を振られて戸惑った。アイと朱音がじっとさとみを見ている。「え~と、そのう…… あのう……」
「もう、どっちだって良いじゃない!」麗子が割って入って来た。むっとしている。「さとみ、あなた、いつまで待たせんのよう!」
「いや、でも……」さとみは口ごもる。アイと朱音の圧が半端ない。「決めなきゃいけないみたいで……」
「わたしはさとみを『さとみ』って呼ぶし、アイは『姐さん』って呼ぶわ。だったら、この娘が『先輩』って呼ぶのも有りなんじゃないの?」麗子は言って、アイを見る。「ね、アイ、それで良いでしょ?」
「まあ、麗子が言うんなら、良いか……」アイは不承不承な感じだ。「でもなぁ……」
「後で埋め合わせをしてあげるから……」麗子はアイに言って笑みを浮かべる。「うんとねっとりと濃厚なヤツを……」
「ば、馬鹿! 姐さんの前で、変な事を言うなよ!」アイが慌てる。麗子はくすくすと笑う。さとみは何の事か分からないと言った顔をしている。アイか頬を少し赤らめて咳払いをする。「……じゃあ、その埋め合わせで、勘弁してやるか」 
「それじゃ、わたしたちは先に帰るわ」麗子は言うとアイと腕を組む。それから朱音を見る。「ゆっくりと先輩とお話ししなさい、後輩ちゃん」
「はい、麗子先輩! ありがとうございます!」朱音はぺこりと頭を下げた。「お気をつけて!」
 アイと麗子が出て行った。他の生徒も居なくなっていた。がらんとした教室にさとみと朱音だけになった。


つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 霊感少女 さとみ 2  学校... | トップ | 霊感少女 さとみ 2  学校... »

コメントを投稿

霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪」カテゴリの最新記事