お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 1

2021年10月24日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
「さとみせ~んぱい!」
 どこからか声がする。
 さとみは、一瞬廊下の方を見た。でも良く考えたら、部活もやっていないさとみが呼ばれるわけが無い。同名異人だろう。
 貴重な昼休み、軽くうたた寝でもと考えいた。と言うのも、昨日夜遅くまで起きていたからだ。

 昨夜、さて、寝ようかなと思ったところに竜二がわんわん泣きながら現われた。竜二はチンピラ気取りの若い霊体だ。しかし本質は情けないダメ男だ。
 涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになった竜二の顔は、その辺の恨めし顔の霊体よりひどいと、さとみは思った。
「何なのよう!」自分の霊体を抜け出させたさとみは竜二に怒る。寝ようとしたのを邪魔されたのもそうだが、イチゴ柄のパジャマ姿を竜二に見られたのが腹立たしかった。「泣くんなら近所の公園でやってよね!」
「泣きに来たんじゃないよ、話を聞いてほしいんだよう!」
「でも、ここに湧いて出てから泣いてばかりじゃない!」
「人をボウフラみたいに言わないでくれよう……」
「あなた、霊体でしょ? いつまで人のつもりでいるのよ!」
「そんな事を言ったってよう……」
「じゃあ、用件を言いなさいよ! 簡潔に三十字以内でね」
「そんな冷たい事を言うなよう。オレとさとみちゃんの仲じゃないかよう」
「何を言い出すのよ! 馬鹿なの?」さとみは怒鳴る。「あなたとの仲って、何よ? それにね、わたしは寝たいの! さっさと言ってよ!」
 さとみは眠いと機嫌が悪い。それが竜二を相手にしている。さらに機嫌が悪くなっていた。
「……実はさ、すんごい美人を見つけたんだよ」
「そう、良かったわね。泣くほどすんごい美人の浮遊霊だったのね。おめでとう、じゃあ、そう言う事で」
「ちょっと、待ってくれよう! 話はこれからなんだからさ!」
 竜二は霊体を戻そうとするさとみにあわてて言う。
「何よう!」さとみはぷっと頬を膨らませる。「さっさと言いなさいよう!」
「それでさ、オレ、声をかけたんだ。『お嬢さん、良かったらオレとお茶しない?』ってさ」
「霊体がお茶なんか飲めるわけないじゃない!」
「でもさ、女の子を誘う言葉だろ?」
「知らないわよ!」
「そうやって声をかけたんだ。そうしたらさ、その娘、にっこり笑ってくれてさ……」
「何よ? 惚気に来たの? わたしが『きゃ~っ! 竜二さん、羨ましぃぃぃぃ!』って言うと思うの? わたしが死んだって言うわけ無いじゃない!」
「にっこり笑ってさ……」竜二はさとみの嫌味が耳に届いていないらしい。と言うより、自分の事でいっぱいのようだ。「答えてくれたんだよ。『あら、ありがとう、嬉しいわ』ってさ」
「やっぱり惚気じゃない!」
「そうじゃないよう! その声がさ、男のものだったんだよう! そいつ、男だったんだよう! 女に見えたんだけどさ、男だったんだ! 虎之助って名前でさあ……」
「それで泣いているの?」さとみが呆れる。「声をかけた自分が馬鹿みたいだって、嘆いているの?」
「そうじゃないんだ……」竜二は何かを察知したように周囲を見回し、小声で続ける。「オレさ、そいつに気に入られちゃってさぁ……」
「はあ?」
 さとみの口があんぐりと開く。しばしの沈黙が流れた。
「まあ! 竜二ちゃん! ここだったのねぇ!」
 突然、野太い声がした。そして、細身で赤の生地に金の刺繍がびっちりと施されたミニのチャイナ服を着て、肩まで伸びたサラサラの黒髪をふぁさっとなびかせた、すんごい美人が現れた。
「うわあ! 出たあ!」竜二が叫び、腰を抜かす。それから、必死の形相で両手を合わせた。「なんまんだぶ、なんまんだぶ……」 
「まあ、霊体同士なのに、ひどいじゃないのよう!」このすんごい美人が虎之助らしい。「でも、ここで逢ったが百年目よ。逃がさないわ」
「うわあああああっ!」
 迫ってくる虎之助に悲鳴を上げながら竜二は消えた。
「竜二ちゃん! どこへ行ったのよう!」虎之助は呆然と立っているさとみに、今気が付いたようだ。「ねえ、あんた、竜二ちゃんの知り合い? 彼、どこに行ったか知らない?」
「……多分、近所の公園だと思うわ……」
「あら、ありがとう!」
 虎之助も消えた。
 さとみは、馬鹿馬鹿しいやら、腹立たしいやら、可笑しいやらで、なかなか寝付かれなくなってしまったのだ。


つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 怪談 青井の井戸 41 FINAL | トップ | 霊感少女 さとみ 2  学校... »

コメントを投稿

霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪」カテゴリの最新記事