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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 3

2021年10月26日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
 この声は、さっきの…… さとみは両手を広げたままでその娘を見る。
「……あなた? さっき、わたしを呼んでいたの?」
「はい!」女生徒は元気良く返事をする。「わたし、一年の中沢朱音(あかね)と言います。聞いていただきたい事があって……」
「あなたもなのぉ!」さとみはうんざりした顔をする。「今、取り込み中なのよ。見て分かるでしょ?」
「そうだぜ!」アイが凄む。「後にしな……」
「そうね、その方が良いわ」麗子はうなずく。「明日にでもしてよ」
「さとみ先輩、これは先輩の取り合いですよ」朱音は平然とした顔で言う。「先輩が二人のうち、どっちが好きなのかって言う……」
「おい、余計な事を言うな!」
 アイが怒鳴る。しかし、顔が赤くなっている。
「そうよ! あなたには関係ないでしょ!」
 麗子も赤くなって言う。
「え? え?」さとみがアイと麗子を見る。「どう言う事なの、アイ?」
「……いえ、昨日なんですけど……」舎弟は姐さんには逆らえない。訊かれたら正直に応えなければならないとアイは思っている。「麗子とちょっと口喧嘩になりまして……」
「口喧嘩って?」
「その娘が言っていたような事で……」
「わたしが、二人のうちのどっちが好きかって事……?」
「ええ、まあ……」
 アイはそう答えると下を向く。さとみは麗子を見る。麗子はわざとらしくそっぽを向いた。二人はさとみの手を離した。
「やれやれ……」
 さとみはため息をつくと、ぴしゃぴしゃと自分のおでこを叩きはじめた。考えをまとめる時のさとみの癖だ。しばらくしてさとみの手が止まる。手を下ろしてアイと麗子を交互に見る。さとみのおでこは赤くなっていた。そのおでこを見て、一年の中沢朱音はくすっと笑う。
「わたしはアイも麗子も大好きよ。でも、喧嘩している二人だったら嫌いだわ」
「ええっ!」アイが泣きだしそうな顔になった。「そんなぁ、姐さん、きつい事を言わないでくださいよう……」
「そうよ、さとみ!」麗子がむっとした顔をして、さとみを押し退けてアイの隣に立つ。「アイを悲しませるようなことを言わないで!」
「麗子ぉ……」アイは麗子の胸に顔をうずめる。その背中を麗子は優しく撫でている。「やっぱり、麗子も好きだよぉ……」
「馬鹿ねぇ……」麗子が優しく微笑む。「わたしも好きよ」
 何なのよう! このやり取りはぁ! さとみは二人を見て混乱する。……でも、喧嘩は終わったみたいだから、良いのかな?
「あのさ……」さとみが二人に声をかける。「喧嘩はおしまい?」
 アイと麗子がさとみを見て、大きくうなずいた。アイの頬に涙の筋があった。
「喧嘩が終わったんなら、わたしは二人とも大好きよ」
「姐さん……」アイは言うと、手の甲で涙を拭い、頭を下げた。「ありがとうございます! この舎弟のアイ、二度と麗子とは喧嘩をしません!」
「そ、そう……」さとみはアイの迫力に圧倒される。「まあ、仲良しに戻れて良かったわ……」
「まあ、アイったら涙でぐちゃぐちゃになっちゃって……」麗子がアイを見て言う。「屋上で気分転換でもしない?」
「そうだな、そうしようか……」アイはまだ涙を拭っている。「姐さんにみっともない顔を晒すわけにはいかないからな」
 二人は腕を組んで教室を出て行った。じわじわと教室に皆が入り始める。
「さすが、さとみ先輩ですね」中沢朱音がにこにこしながら言う。「わたしも、先輩が好きになっちゃいそう」
「あのねぇ……」一難去ってまた一難だわ、さとみは思った。「わたし初めてあなたに会ったんだけど、何の用なの?」


つづく

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