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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第二章 骸骨標本の怪 4

2021年11月24日 | 霊感少女 さとみ 2 第二章 骸骨標本の怪
 さとみは重い足取りで登校している。
 いつの間にか心霊研究サークル「百合恵会」の会長になってしまったからだ。昨日、朱音としのぶはきゃあきゃあはしゃいでいたし、アイも「会長、会長」と楽しそうに言い続けるし、麗子は蒼い顔をしながらも退くに退けなくなっていたし、もう、どうしようもなかった。でも、本当はイヤだった。隅っこでちんまりしているのがさとみの理想だ。
 学校に近づくと、校門の前に松原先生が立っているのが見えた。さとみは物凄くイヤな顔をした。そのまま回れ右をして家に帰ろうかと思った。しかし、間に合わなかった。
「おおい、綾部!」松原先生の弾んだ声と駈けてくる足音が聞こえる。「どこへ行くんだ? 学校はこっちだぞ?」
「え? あ、はい……」さとみは松原先生に背を向けたまま答える。「知っています……」
「まあ、おとといの夜は大変だったな。でも、無事に解決できた」松原先生は嬉しそうに言う。「それと、一年の中沢と栗田から聞いたんだが、綾部、お前、会長に……」
「イヤです!」さとみはくるりと松原先生に向き直る。ぷっと頬を膨らませた顔で松原先生を見上げる。「わたし、会長なんか、イヤです!」
「何を言っているんだ? メンバーが五人集まって、サークルに昇格の可能性も出てきているんだぞ?」松原先生が呆れた顔をする。「それにだ、お前有りきのサークルなんだぞ。お前が居なきゃ、始まらない」
「じゃあ、始めなきゃ良いじゃないですかあ!」さとみは文句を言う。「それに、百合恵さんまで巻き込んじゃって」
「百合恵さんか……」松原先生は言うと、笑い出した。「ふっふっふ…… 実はな、昨日の夜、百合恵さんのいるお店に行ってきたのだよ」
「はあ?」
「北階段の一件の後、解散する前にな、お時間がある時にどうぞって、お店の名刺を渡されてさ」松原先生は嬉しそうに続ける。「それでさ、サークルの事を話そうと思って、出掛けたのだよ」
「そんな話、生徒にして良いんですか?」さとみは呆れる。「夜のお店の話ですよね?」
「別に、悪い事をしていたわけじゃないよ。ついでに、百合恵さんに特別顧問をお願いしようとも思ったしね」
「……百合恵さん、どう言ってました?」
「お前が会長ならやるって言ってくれた」松原先生は言うと、さとみの両肩を強く叩いた。「と言う訳だ! 顧問はオレがなる。さらに百合恵さんの特別顧問も決まった。メンバーも五人集まった。何が不満だ?」
「百合恵さん、サークルの名前に何か言っていませんでした?」
「『あら、わたしの名前を付けてくれるなんて嬉しいわ』って言ってたぞ」松原先生はぽうっとした顔をする。「……それにしても、百合恵さんって、綺麗な人だよなぁ。それでいて気取っていなくて。綾部だけじゃなくて、中沢や栗田の事も心配してくれてさ。本当、最高だよなぁ……」
 ……松原先生、百合恵さんに持って行かれちゃったようだわ。さとみは、にへら顔の松原先生を見て思う。それとともに、にやにやしている百合恵の顔も浮かぶ。……百合恵さん、絶対に楽しんでいるんだわ!
「さとみ会長!」
 突然声をかけられた。さとみが声の方を見ると、アイが朱音としのぶを引き連れて寄って来た。
「アイ、やめてよう!」さとみは文句を言う。「まだやるって言っていないわよう!」
「何を言ってんですか、会長!」アイは楽しそうだ。「姐さんが会長になるなんて、舎弟としちゃ嬉しい限りですよ!」
「でも、サークルの話よ」
「何だって良いんです。会長って響きが良い」
「そうですよ、さとみ会長!」しのぶがうなずく。「さとみ先輩以外に会長なんていません!」
「その通りです!」朱音もうなずく。「サークルの趣旨から考えれば、先輩しかいないんです!」
「おい、お前たち、先輩じゃねぇだろ?」アイがしのぶと朱音に言う。「さとみ会長、だ」
「は~い」二人は素直に答える。「さとみ会長!」
「よし、じゃあ、挨拶から仕切り直しだ」
 アイは言うと、自分の右にしのぶを左に朱音を立たせた。
「さとみ会長!」アイが大きな声で言う。その声にしのぶと朱音は背筋を伸ばし、直立不動の姿勢を取る。「おはようございます!」
 アイは言うと直角に上半身を折り曲げる。
「おはようございます!」
 しのぶと朱音もアイに倣う。三人ともその姿勢を続けている。
「……おい、綾部、返事をしてやれ」松原先生がさとみに言う。「そうじゃないと、三人ともずっとこのままだぞ」
「……」さとみはため息をつく。諦めたようだ。「……おはよう。これからよろしくね……」
 さとみの言葉に三人は顔を上げた。
「うわ~っ! 会長! 会長!」しのぶと朱音は会長コールをしながら、きゃいきゃいと飛び跳ねて喜んでいる。「会長! 会長!」
「姐さん…… いえ、会長……」アイは感極まったように涙ぐんでいる。「立派ですよ……」
「はいはい、分かった、分かった」さとみは言って手を叩く。「みんなが変な目で見ているわよ。それにそろそろ時間になるわ。学校に行きましょう!」
「二人とも聞いたか?」アイがしのぶと朱音に言う。「会長が言ってんだ。すぐに学校に向かうぜ」
 三人は駈け出そうとする。
「ねえ、アイ」さとみはアイに言う。「麗子は?」
「今日は調子が悪いとかで、休むそうです」
「そうなんだ……」……心霊研究サークルだもんね。麗子、今頃部屋でぶるぶる震えているかもね。可笑しいような可哀そうなような気持ちのさとみだった。「麗子、たぶん、幽霊部員みたくなると思うわ」
「そうですか? 昨日は、楽しみねぇ、なんて言ってましたけど」
 ……また無理しちゃったんだ。さとみは意地悪そうな笑みを浮かべ、唇を「弱虫麗子」と動かした。
「でも、心霊研究サークルに幽霊部員なんて、面白いわね」
 さとみがそう言うと、アイは笑った。 


つづく

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