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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第二章 骸骨標本の怪 9

2021年11月29日 | 霊感少女 さとみ 2 第二章 骸骨標本の怪
「だから、何で付いて来るのよう!」さとみは竜二に言う。「見てみなさいよ! みんなでわたしを見ているじゃない!」
 さとみは生身の自分を指差す。相変わらず、松原先生はさとみの顔の前で手を振っているし、朱音としのぶは「会長! 会長!」とコールしながら、さとみの周りを回っている。
「だからさ、みんなの役に立ちたいんだよ!」竜二は答える。「何でも言ってくれよ。オレ、やり遂げて見せるぜ!」
「まあ! なんて男らしい竜二ちゃん!」虎之助が感激して涙を流す。「好きよ、大好きよ! 竜二ちゃんとわたしとは、生まれる前から結ばれていたんだわ!」
「あのさあ、二人が結ばれているのは分かったから、どっか別のところで感激してくれないかしら?」
「そんな冷たい事を言うなよ、さとみちゃん」
 竜二は半泣き顔だ。さとみはうんざりする。
「そうよ、竜二ちゃんがやる気になっているのよ!」虎之助はぎゅっと竜二を抱きしめ、さとみを睨む。「信用したらどうなのよ?」
「今までが今までだから……」さとみはため息をつく。「豆蔵やみつさんたちからどこまで聞いたか分からないけど、とっても危険な感じなのよ。やる気だけじゃ難しいわ」
「そんな事言うなよう……」
「……そうよ、そうだわ、そうなのよ!」虎之助は名案を思いついたかのように、突然、ぱちんと手を叩く。「じゃあさ、わたしも竜二ちゃんと一緒にやるわ! それなら良いでしょ?」
「え~っ……」さとみは思い切りイヤな顔をする。「余計に心配だわ……」
「大丈夫よ!」虎之助は自信満々に答える。「わたしって、こう見えて、生きている時は、結構やんちゃだったのよ。多少の事では負けないわ」
 虎之助は言うと、右肘を曲げて見せた。チャイナ服から覗く剥き出しの細い二の腕に、もりっと力こぶが浮かんだ。
「喧嘩なら負けた事は無かったのよ。『浜の狂い虎』って呼ばれていたわ。……ふふふ、懐かしいわね」
「ふ~ん……」さとみは感心無さそうに答える。「とにかく、今はじっとしていて。からだに戻らないと、わたしが骸骨の隣に並べて飾られそうだから」
 さとみは言うと霊体を戻した。からだがふらふらっと揺れて、表情が戻る。
「わあっ! 会長! お帰りなさい!」朱音が言う。「また霊とお話し中だったんですね?」
「初めて見ました!」しのぶは感激している。「この前は真っ黒い霊を見て、今は幽体離脱を見て、このサークル、最高です!」
「まあ、オレも初めてだな」松原先生はうなずく。「とにかく、骸骨標本を観察する事にしよう」
 松原先生の言葉で、みんなは標本の前の机に陣取った。じっと骸骨を見続ける。壁の所には竜二と虎之助が並んで、同じようにしている。
 だが、骸骨標本は右肘を曲げた状態のままでぴくりともしない。
「……ダメだな」松原先生がつぶやき、腕時計を覗く。「そろそろ一時間だ。もう下校時間を大幅に過ぎている」
「良いじゃないですか、先生」しのぶが平然と言う。「このまま、ここに泊まっちゃえば」
「そうしたいところだがな、今夜はちょっと用があるんだよ」
「わあぁ、先生、まさか、彼女?」朱音が楽しそうに訊く。「……そう言えば、百合恵さんが、そんなような事を言っていましたねぇ」
「こらこら、教師をからかうんじゃない」松原先生が叱る。しかし、すぐにぽうっとした顔になる。「……それにしても、百合恵さんって綺麗な人だよなぁ……」
「あ~っ、先生、それって浮気ですよ!」朱音が笑う。しかし、すぐにぽうっとした顔になる。「……確かに、百合恵さんって、素敵……」
 しのぶとさとみは顔を見合わせて苦笑する。
「でも、確かに帰宅時間ね……」さとみが黒板のある壁の上部に設置されている時計を見る。「そうだ!」
 さとみは霊体を抜け出させた。竜二と虎之助の前に立つ。
「竜二、さっき、役に立ちたいって言ってたじゃない?」
「ああ、今だってそうだぜ」格好をつけて竜二が言う。「これからだってそうさ」
「まあ、頼もしい!」虎之助が竜二に抱きつく。「後で良い事、一杯してあげるわね」
 竜二はたちまち青い顔をする。さとみは良い事の意味が分からずぽうっとしている。
「まあ、とにかく……」さとみは軽く咳払いをする。「お願いがあるの。わたしたちは帰っちゃうけど、ここで、あの骸骨標本を見ていてほしいのよ。もし、動いたり喋ったりしたら、わたしに教えてほしいの」
「良いぜ、お安い御用だ!」竜二はどんと胸を叩いて見せた。「……でもさ、本当に動くのかい? どう見てもあの骸骨は作り物だぜ?」
「だから、それを確かめたいのよ。見たって言うのは先生なのよ」
「わたし、先生って信用できないな」虎之助が言う。「わたしが本当に悩んでいた時に、全然相談に乗ってくれなかったし、むしろ、避けられていたし……」
「それは、その時の先生がダメだったのよ。みんながみんなじゃないと思うわ」さとみは言って、虎之助を見る。「……で、どんな相談をしたの?」
「わたし、男のままが良いか女になった方が良いかって、高校時代に悩んでいたのよね。こんな事、親には言えないし、『浜の狂い虎』だったから友だちにも相談できないし。で、最後の頼みが先生だったのに、それもダメだったし……」
「……そうなんだ……」さとみはどう答えて良いのか分からない。「じゃあ、今のその姿は?」
「ふふふ…… 結局は自分で決めたのよ。格好だけでも女にしようって。でもね、その後、交通事故でね……」虎之助が自嘲的に笑う。「せっかく自分らしさを出せたばっかりだったんだけどね」
「そう……」さとみはちょっと同情する。「それはお気の毒だったわね……」
「まあ、でもそのお蔭で、お気に入りの姿になれたし」虎之助は言うと竜二に抱きついた。「素敵な恋人も出来たし、満足だわ!」
「良かったわね」さとみは言うと引きつった顔の竜二を見る。「竜二、じゃあ、頼んだわよ」 


つづく

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