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ロシアとの領土交渉、これが日本「完敗」の背景だ

2016-12-20 12:01:34 | 正論より
12月20日付    産経新聞【正論】より


ロシアとの領土交渉、これが日本「完敗」の背景だ 新潟県立大学教授・袴田茂樹氏


http://www.sankei.com/column/news/161220/clm1612200007-n1.html



 12月15日には、欧州連合(EU)がシリア情勢に関連して対露非難声明を採択し、ウクライナ問題以来の対露経済制裁を来年7月まで半年延長することで合意した。またオバマ米大統領は、露によるサイバー攻撃への報復意思を表明した。この日、安倍晋三首相はプーチン露大統領を「クリミア併合」以来、先進7カ国(G7)諸国としては初めて-しかもG7議長国として-公式的に招き、「ウラジーミル、君」と一方的に親密関係を演出し、欧米と日本の対露姿勢の差を浮き彫りにした。




≪明らかに後退した平和条約≫


 首脳会談の日本側の主たる目的は、日露の領土交渉を進展させること、そのための経済協力の具体化だった。結果は領土交渉の進展はゼロ、露が望む経済協力では8項目提案など政府、民間合わせて82件の成果文書を交わした。英紙フィナンシャル・タイムズも認めるように、露側の完勝である。

 露が1990年代に日本に求めた北方四島での共同経済活動が、平和条約締結の前提の如(ごと)き合意もなされた。しかし露側は、共同経済活動は首相の言う「特別な制度」下でなく、露の法律下でという立場を譲っておらず、合意の実施は困難で、新たなハードルを設けたも同然だ。さらにプーチン氏は日米安保条約への懸念も新たに表明した。平和条約交渉は一歩前進どころか、明らかに後退した。


 ただ、このことで野党は「領土交渉失敗」として安倍首相を非難できるか。安倍氏は、北方領土問題すなわち主権侵害問題を解決して平和条約を締結するために並々ならぬ情熱を傾けているが、この熱意自体は高く評価すべきだ。近年野党が政権についたときも、この問題に安倍氏ほど熱意をもって努力した政治家はいない。野党政治家の多くは、日本の国家主権や安全保障の問題に真剣な関心を向けていない。観念的な安保法制・憲法論議や沖縄米軍基地問題への対応が、そのことを示している。





≪情緒的で現実認識を欠いた≫


 では、今回の日本側「完敗」の背景は何か。最大の原因は、日本のメディアや多くのロシア専門家、政治家たちが、プーチンを含む露指導部の国家主権というものに対する厳しい論理と心理を-さらに広く国際社会における主権問題の厳しい本質を-リアルに認識していないことにある。

 換言すれば、「露は日本を必要としており、露側の要望に従って経済協力を進展させ、日本側の善意と信頼を示せば、また元島民の気持ちを伝えれば、プーチン氏も小さな島の3つ4つは、少なくとも面積僅か7%の色丹島、歯舞群島は譲歩する」と、ナイーブかつ楽天的に考えたことだ。つまり、わが国の対露政策はリアルな現実認識を欠いた性善説に基づく「お人よし」的で情緒的なものだったのである。これに対し、露側ははるかに冷徹かつ強(したた)かで、交渉術は日本側より数段上であった。


 ではなぜ安倍氏は、甘いロシア認識に傾いたのか。彼は日本の政治家の中では、国家主権の問題が戦争と同次元の厳しい事柄だということを最もよく理解していたリアリストのはずだ。その理由は恐らく、官邸やその周辺の政治家さらに経済省庁の関係者たちの大部分が、国家主権問題やプーチン氏に甘い認識を持っていたためだろう。プーチン氏は大変信頼できると公言する元首相もいる。それ故に平和条約締結後日本に色丹島、歯舞群島を引き渡すと合意した1956年の日ソ共同宣言を重視する、露側に好都合な政略に乗ったのではないか。




≪プーチン氏は豹変していない≫


 プーチン氏は2005年9月以後、「四島は第二次世界大戦の結果露領になり、国際法的にも認められている」との強硬姿勢を貫いている。それ以前は彼も1993年の「四島の帰属問題(〈日本への帰属〉ではなく中立的表現)を解決して平和条約を締結する」と合意した東京宣言を、つまり未解決の領土問題の存在を、認めていた。しかし、2005年に前言を翻した。ウクライナ問題を見ても、彼を本当に信頼できるのか。


 12年3月にプーチン氏は「ヒキワケ」発言をして日本側の期待値を高めた。しかし、それを大きく報じたわが国のメディアは、彼が同時に述べた「56年宣言には、2島の引き渡し後両島の主権がどちらの国のものになるか書かれていない」という、驚くべき強硬発言を報じなかった。これは領土問題の存在を否定する論に繋(つな)がる。その後も、プーチン氏はこの強硬論を幾度も繰り返したが、わが国のメディアも専門家も無視した。つまり、プーチン氏は最近強硬姿勢に豹変(ひょうへん)したのでも、親露的なトランプ氏の米大統領選当選が彼の対日姿勢を強硬化したのでもない。


 今後の対露政策だが、当然、東京宣言が「四島一括返還」の原理論ではないことをしっかり説いて認めさせ、G7諸国との関係も調整しながら、粘り強く領土交渉と経済協力を並行的に進めるべきである。領土交渉を脇に置いた経済協力だけの「前のめり」はやめるべきだ。それで困るのは日本側ではない。(新潟県立大学教授・袴田茂樹 はかまだしげき)











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