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東西両端の半島に起こった「さざ波」が「世界大乱」につながる予感

2016-12-13 10:27:46 | 正論より
12月13日付    産経新聞【正論】より


東西両端の半島に起こった「さざ波」が「世界大乱」につながる予感 京都大学名誉教授・中西輝政氏


http://www.sankei.com/column/news/161213/clm1612130007-n1.html



 2016年の世界はいくつもの「かつてない大変動」を重ねた年として暮れようとしている。アメリカの大統領選挙でのトランプ氏の勝利やイギリスの国民投票における欧州連合(EU)離脱の選択は人々を驚かせたが、その余波といえる潮流はさらに多くの波及を伴って来年へと持ち越されることになり、世界と日本を一層揺さぶることになるだろう。




≪東西で起きた秩序の地殻変動≫


 現に東西2つの半島国家で起きた出来事は、ともに世界秩序の地殻変動を明瞭に示すものである。

 1つは12月4日のイタリアでの国民投票の結果である。争点だった憲法改正はイタリア経済の一層の「グローバル化」推進のための構造改革を進めやすくするため、議会制度に手をつけようとするものであったが、大差で否決されたため、今や「古い(グローバリズムの)改革派」とされた若いレンツィ首相は辞表を提出した。

 他方、共通通貨ユーロからのイタリアの脱退を訴えるポピュリズム政党「五つ星運動」が勢いを増しているが、この結果は直ちに2つの危機をもたらすだろう。


 1つはかねて膨大な不良債権の存在が指摘されていたイタリアの銀行危機が浮上し、欧州さらにはグローバルな金融システムのリスクにつながる懸念であり、もう1つはこの結果が来年予定されているフランスの大統領選やドイツの国政選挙に及ぼす影響である。ユーラシア大陸の西端に生じた今回の波動が全欧州あるいは世界に波及することになるかもしれない。


 もう1つ別の「半島危機」は言うまでもなく韓国のいわゆる“朴槿恵危機”である。今の大きな流れは野党の一層の勢力増大と韓国政治の“再左傾化”であろう。その結果、半島の安全保障やこの間の日米韓の連携強化の流れに大きく水を差す、あるいは頓挫させかねない事態ともなりうる。そうなれば脅威を増す北朝鮮情勢の深刻化が再び懸念されるとともに、昨年12月の「日韓慰安婦合意」が存在意義を失うことになる。

 わずか1年前、「安保問題をより重視し日米韓の連携強化のため」との理由で、慰安婦問題をめぐる従来の安倍晋三政権の主張を大幅に譲歩してまで結んだ「あの日韓合意は一体、何のためだったのか」ということになる。





≪歴史や領土で安易に妥協するな≫


 こういうことになるから、本来100年(ないしそれ以上の)単位で考え対処しなければならない歴史問題を、猫の目のように変わる政策問題や政局的考慮から、いじくってはならないのである。


 この点で、間近に控えたプーチン露大統領訪日の際の歴史問題としての北方領土問題交渉や、年末に予定される首相の真珠湾訪問で日本側が国家としての原則的な姿勢をとることの大切さについて、特に注意を喚起しておきたい。

 いずれにせよ、東西2つの半島国家の激震は、より大きな世界秩序の変動の余波、または予兆としてみる視点も失ってはならないだろう。イタリア半島(あるいはバルカン半島)に発する政治変動は、しばしばアルプスやドナウ川を越えて中欧すなわちドイツを経て東ヨーロッパ諸国にまで波及する(ヒトラーもビスマルクもイタリアからの波及によって浮上し、全欧州の覇権に手を伸ばした)。

 現在、既に生じているEUの大きな揺らぎの中で、今やロシアの影が欧州大陸により大きく及んできたが、アメリカのトランプ次期政権が言われているように「米露接近」という誤った外交戦略をとれば、欧州でのロシアの優位が一層際立ち、EUだけでなく北大西洋条約機構(NATO)の結束にも深刻な影響を及ぼすだろう。




≪せり出すランドパワーの脅威≫


 他方、韓国を襲っている今回の激震は、いずれにしても中国の朝鮮半島への影響力をより大きなものとしよう。すでにトランプ氏による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの脱退宣言によって、アジアの貿易圏をめぐる主導権だけではなく安保・国際政治においても中国の影が大きく東アジアに及ぼされようとしている。


 半島の変動は、古くマッキンダー以来の地政学の理論を引くまでもなく、しばしばランドパワーつまり中露というユーラシア大陸の中心部を押さえる勢力が外へとせり出すきっかけをもたらすことになる。それゆえ、ユーラシア大陸の東西両端の半島に起こる「さざ波」が“世界大乱”的な、一層のグローバルな秩序変動へとつながってくるのである。

 このユーラシア・ランドパワーの「うごめき」に対処しうるはずの海洋(シー)パワー・アメリカの行方が気になるところだが、トランプ次期政権の関係者から聞こえてくるのは、「アメリカ(の安全が)第一」の発想から唱えられる中東での「対(過激)イスラムの戦い」のための大規模な軍事介入の話ばかりである。それは必ず、すでに進行している「世界の多極化」の流れを加速させることになる。

 21世紀の必然ともいえるこの世界秩序の多極化の中で、2017年の日本はいよいよ正念場を迎えることになろう。(京都大学名誉教授・中西輝政 なかにしてるまさ)







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