しまなみニュース順風

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公立みつぎ総合病院取材記 ③

2005-01-16 12:50:45 | 健康福祉
三者が一体となって地域包括ケアを形成する

 前回は、公立みつぎ総合病院の原点に迫り、その原点とは、寝たきりゼロ作戦だったことを明らかにしている。山口先生はこの作戦の本質が「家庭での病気に対する対応の仕方、考え方の革新」にあるとして、図2の「在宅ケアのネットワーク(連携)」と書かれた模式図を私に見せてくれた。
 この図は、行政、家庭・ケア付住宅、保険・医療・福祉の専門家、地域住民(企業)がネットワークでそれそぞれ繋がっていることを示している。山口先生は、この図を示しながら、
「地域住民は、保険・医療・福祉関係者とボランティア活動等を通してつながっているんですが、これは単なるマンパワーの確保だけという意味ではないんです。これまでの我が国の地域というものは、行政なら行政、保険・医療・福祉ならその関係者のみ、地域住民は地域住民だけのつながりといったように、それぞれがバラバラに孤立していたんです。
 例えば、医療なら霎病気のことは医者に任せろ霑とここまではいいんです。しかし、霎何も言わないで黙って付いてこい霑というのではダメなんです。地域の各関係組織がそれぞれ連携してこその医療・保険・福祉なんです。一番大切なことは、地域住民の声を保険・医療・福祉に反映させていくことなんです」と言われる。
 しかし、山口先生は、現在公立みつぎ総合病院で実施されている地域包括ケアシステムは「寝たきりゼロ作戦」を実施に移した初期から完成されていたものではなかったと説明する。そこにはもう一つの大きな課題、行政の持つ福祉制度という壁が横たわっていたという。
「当時、福祉は行政が措置権を全て握っていました。私はここの院長をしていましたが、福祉に関してはまったく何の権限もなかったんですよ。措置制度があったからです。だから、介護については役場の課長さんにお願いするしかない。そこで、私どものやっている医療の出前と福祉を一緒にしよう。そうすれば、利用される患者さんや家族の方にとってはものすごくいい事なのではないかと思ったわけです」
 山口先生は、「寝たきりゼロ作戦」の課題となっていた行政の持っている福祉と医療を連携させるための機構改革に乗り出すことになる。そのため、昭和五四年から病院に専任の訪問看護師として病院保険師をおいていたものと役場の厚生課の保健師を合わせ、行政の持っている福祉と医療をドッキングさせることに成功していく。この結果、これまで住民の要望する半分しか実現できていなかった在宅ケアのネットワークが完成していくことになる。
 山口先生は、この説明をされているとき、こんな質問を私に投げかけてきた。
「現在、御調町は人口八〇〇〇人ほどの町で、保健師が一八人いるんです。因島には何人いらっしゃいます?」
(* 保健師=「保健師助産師看護師法」という法律において、厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて“保健指導に従事することを業とする者をいう。地域で生活する個人や家族・集団を対象に、健康の保持増進、疾病予防、療養上の相談、健康相談、健康教育、社会復帰のための援助等を行っている。一般的に保健所・市町村保健センター・市町村福祉部門・病院・診療所・訪問看護ステーション・介護保険関係施設・企業・学校などで活動している。)
 私は、この質問に答えることが出来なかった。平成一四年度版因島市統計要覧によれば、現在因島市に在籍する保健師は九名。山口先生は、この質問に続けて、こんな事を言われていた。
「昭和五八年、ちょうど今から二〇年前、役場の住民課と厚生課を一緒にして統合して霎健康管理センター(*注=現在は保健福祉センター)霑というものを作ったんです。これは、行政の機能を病院内に持ち込むというもので私が健康管理センターの所長になりました。住民の健康維持管理に必要な保健師の存在がそれほど大きかったからです。当然、そんなにたくさんの保健師を雇えるだけの財源は行政にありません。そこで、一八人の保健師の内、一四人についてはこの病院から給料を出しているんです。そうすると、今度はヘルパーさんに対しても派遣命令が出せるようになった。これは全国でも初めてのことなんです」
 ここには、前回山口先生が言われていた「けっして、箱モノを作ってからスタートしたのではないんです。ソフトに応じて、徐々に必要な箱モノ、設備を増設していった」という基本的なコンセプト(考え方)が見えてくる。その結果、従来の福祉に関する問題も短期間で解決できるようになり、徐々に病院としても保健・福祉に関する施設郡を増設していったそうだ。
 山口先生は、「御調町における地域包括ケアシステム ― 寝たきりゼロ作戦と保険・医療・福祉の連携 ―」のなかで、
「保健・医療・福祉の連携は単なる連絡会議では効果の半分しか達成できない(要約)」と書かれている。さらには、
「保健・医療・福祉の窓口の一元化が必要であり、このような総合窓口の設置が今後の高齢化社会では不可欠なものとなってくるだろう(要約)」と書かれている。
 山口先生は、再び「在宅ケアのネットワーク(連携)」と書かれた模式図を私に見せながら、
「大事なことは、行政と専門職、保健医療福祉関係者、これは施設も含めて、そして住民、この三者のネットワークが必要なんです。このネットワークがあれば、在宅で療養されている方に働きかけていくことが出来る。こうしたネットワークが各地で出来れば、これは住民にとっては心強いんですよ。この住民は、企業も含めて、一言でも二言でもいいから意見を出していく。これが私は大事なことだろうと思うんです」と意見を述べられていた。
 これは、後で「地域包括ケアシステムの問題点」の所でも触れることになるが、山口先生は、こうした事業が成功した理由について、行政のトップの力量の差、決断力の違いだと次のように指摘する。
「やっぱり行政の長なんですよ。私なんか若干三〇そこそこでこの病院に赴任してきた当時、こうした考え方を町長に話したところ、霎私には医療のことも福祉のことも分からない。君に任せるから全部やってくれ霑と言われ、大変助かったんです。この町長は、健康管理センターを始めた頃、次の町長となって私と苦楽を共にすることになる、苦楽と言っても苦ばかりだったんですが、組織機構の改革を手伝ってくれることになる優秀な行政マンさえ付けてくれたんです。現町長はこの次の町長の下で助役をしていた方です。こうして、地域包括ケアシステムが完成していくことになるんです」
 山口先生は、感謝の思いで当時の町長から受けた激励を思い出すと言われる。

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