津城寛文の徒然草 Shiloh's Blog

時事問題や世間話その他に関して雑感を記し、著書その他の宣伝、関係者への連絡も載せています。

「悪循環」「負の連鎖」の反対を

2017年07月06日 | 日記
 教養課程(今は死語になりました)の学生のころ、心理学の翻訳書を読んでいて、「害悪圏」ということばに遭遇しました。

 聞きなれないことばで、原語はなんだろうとしばらく悩んでいると、害悪はvice、圏はcircleではないか、であればこれは、「悪循環」と訳すべきことばだろう、と思いつきました。調べてみると、まさにそのとおり、これは模範的な(?)誤訳でした。

 viceの反対はvirtue、したがって、悪循環の反対語は、「好循環virtuous circle」です。デフレスパイラルは悪循環で、これを抜け出して、何らかの好循環に導こうと、乏しい知恵を絞って、しばしば猿知恵を分泌してしまっているのが、現在の先進国の経済指導者たちのようです。

 さて、悪循環と似たことばに、「負の連鎖negative chain」というのがあります。この反対語は、ちょっと思いつかず、調べてみても、出てきません。「正の連鎖」という日本語は、そもそも耳慣れません。ことばの使用頻度の少なさ、それ以前に、ことばの不在が、これが意識化されにくい、気づかれにくい、それ以前に稀な現象であることがわかります。

 最近国内では、法人の許認可や補助金、優遇をめぐって、「政権の圧力によって、官庁の行政が歪められた」という意見があり、「そのような圧力はまったくなかった」という反対意見があり、外野からは、「官庁も監督業界に圧力をかけているではないか」という意見もありました。

 細かい事実関係に私は関心はありませんが、歴史や社会の一般法則からいえば、権力のある者や集団は、その権力を行使する場合に、合法的かどうか、合法性の基準がはっきりしない場合は職業倫理に沿っているかどうか、を反省する必要があり、われわれ人間は、反省力のない者が多いので、しばしば、実定法からみても、まして永遠の法からみれば、良からぬ権力を行使します。悪例は歴史に夥しいというか、悪例ばかりでしょう。

 「悪循環」「負の連鎖」という言葉がよく使われるのは、そのような現象が多いからです。政権が官庁に圧力を加えて行政を歪める、ということは起こりがちです。そして官庁が業界に圧力を加えて業務を歪める、ということは、これは監督官庁という定義上、むしろ常態ですが、やはりよからぬ圧力になっていることもあるでしょう。私自身が身をおいている大学に関していえば、監督官庁のさまざまな「合法的」指導によって、研究が歪められるような圧力にさらされている気が、確実にします。

 悪循環や負の連鎖は、中心に位置する者たちの「邪悪さ」というより、その「未熟さ」「愚鈍さ」「蒙昧さ」から起こっているので、これを好循環、正の連鎖に転じるには、大小の圏域circleの中心に立とうとする者が、成熟した、利発な、英明な精神を養う必要があります。こうしてよい指導者は、よい弟子を育てます。そして徳が順送りされれます。

 南アフリカで大きな仕事を果たされたマンデラ氏は、そのために、何十年という研鑽を刑務所で積む機会を(否応もなく)与えられました。幕末の井伊大老は、長い部屋住みに腐ることなく、文武両道の研鑽を積まれました。根っからの邪悪な人間は、稀です。ただ、未熟で、愚鈍で、蒙昧な人は多いので、私たち一般人はともかく、少なくとも指導者たらんとする者は、これらにならって魂を磨き、自己の私財はもとより、身心、命までを、世界全体のために犠牲にする覚悟をもたなければなりません。


 

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