漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 



「横浜駅SF」 柞刈湯葉著

カドカワBOOKS 角川書店刊

を読む。

 1915年の開業以来、常に構内のどこかが工事中であることから、横浜駅は「日本のサグラダ・ファミリア」という例え方をされることがあるらしい。確かに、横浜駅はこれまで数えきれないほど利用してきたけれど、いつ行っても工事中だという印象がある。サグラダ・ファミリアは、完成が見えてきたというが、横浜駅の工事が終わることは、おそらくないのではないか。そもそも最終的な完成形があるわけでもなく、ただ新たに生まれつづける工事計画に沿って姿を変え続けている横浜駅は、永遠の未完成建築であろう。この小説は、そこから着想を得た、一種の奇想小説。
 舞台は、近未来の日本。小説の中で、横浜駅は人の手を借りることもなく自己増殖をする、一種のナノマシーンのような存在と化している。その結果、日本は、なんと本州の99%までが横浜駅の構内に成り果ててしまっている。なんと、富士山の頂上までエスカレーターで行けるのだ(いや、それどころではなく、増殖する横浜駅のせいで標高が年々高くなってきている)。横浜駅が海を超えられないという性質に助けられて、北海道と九州が、レジスタンスとして懸命の抵抗をしている(四国は横浜駅の侵入を許し、無政府状態になっている)。横浜駅は、もはや本来の電車の停車場としての役割はなく(そもそも電車なんてもう走ってない)、国土そのものといったほうが正しい構造物である。横浜駅の構内は、「エキナカ」と呼ばれ、中で生まれた人々は、六歳までに脳に「suika」と呼ばれるチップを埋め込まれ、それによって管理されている。「suika」を持たない人間は、「自動改札」によって、強制的に横浜駅構内より排除される。この時代、もはや日本政府は存在せず、横浜駅が国家そのものとなっている。
 けれども、横浜駅の外で暮らす人々も、数こそ少ないが、存在する。三浦半島の九十九段下の住民である主人公のヒロトはその一人で、あるとき、横浜駅から追放された一人の男から、5日間だけ構内を自由に行動できるという古代の遺物「18きっぷ」を渡され、ある使命を頼まれる。ヒロトは切符を手に、単身横浜駅に侵入する……というようなストーリー。
 もともと、投稿サイト「カクヨム」で連載されていた作品の書籍化。人気があって、書籍化されたわけだから、もちろん面白いのだが、その反面、もう少し面白くなったんじゃないかなという気もする。このアイデアが、こんなにあっさりした形で終わってしまうのは、なんだか勿体ない。ぼくとしては、異様な構造物になった横浜駅の描写をもっと読みたかった。

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 いろいろと忙しくて、書くのが今になってしまったけれど、先日(5/7日)、「奇妙な世界の片隅で」のkazuouさんと文学フリマへ出かけてきた。規模としては、もちろんコミケなんかとは比べものにはならないけれど、すっかり定着してきたイベントで、今年はなかなかの盛況だったらしい。ぼくはまだ秋葉原でやっていた頃から時々参加してきたけれど、右肩上がりに規模が大きくなってきたという印象まではないものの、ぼくのようにブッキッシュな人にとってはちょうどいい感じの規模の、居心地のよいイベントに成長したなという印象がある。また、文学フリマは、会場を全国各地に持つイベントになってきている。基本的に東京でしか行われないコミケとも、あるいは各地で持ち回りのSF大会とも違う、新しいやりかたである。それでは集客力が分散するのではないかとも思うのだが、そうでもないらしい。文学は、巨大なお祭り的なイベントとはやや異なるようだ。このあたりも、コミケなどとは違う独自性なのだろう。
 ぼくは、文学フリマを覗いてもあまり本を買わない方なので、参加者としてはやや失格なのだろうが、文学フリマは初めてだというkazuouさんは随分と買っていた。
 ぼくが買ったのは、結局、二冊だけ。
 一冊は、蝸牛文庫から出ている、幻想哲学小説「創造者」(ミュノーナ著)。これは、最初から買うつもりだった。
 もう一冊はキダサユリさんの小冊子「よるべのない物語」。プロではない方の作品だが、本人の筆による絵が気になって、購入した。
 文学フリマのブースを覗いていて、いいなと思うのは、やり方は違っても、ここにいる人々がみんな、本というものを好きだと感じることができることだ。それは、それぞれの作家がブースに並べている本を眺めているだけでも、ひしひしと伝わってくる。作家が、自分の書いた作品を、今できるせいいっぱいの力で、飾った造本をする。これを、本という小宇宙への愛と呼ばずして、なんと呼ぶのだろう。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (kazuou)
2017-05-14 21:19:09
先日はありがとうございました。こういうイベントは初めてでしたが、本に対する熱気が伝わってくるような、いいイベントだと思いました。次回以降も、また参加してみたいです。

ミュノーナ『創造者』、読みましたが、「夢」とか「創造力」で現実を作り変えるというテーマの作品で面白かったです。
 
 
 
kazuouさんへ (shigeyuki)
2017-05-14 22:36:00
こちらこそ、ありがとうございました。
また、ご一緒したいですね。
あの日、かなり遅めのランチを食べたインドカレーの店、最初は「とんでもないとこに入ってしまったかなあ」とも思ったのですが、結果としてかなりゆっくりできたし、雰囲気の現地感がなかなか貴重で、結果としてよかったですね。(笑)妙に印象に残ってしまいました。
「創造者」、ぼくはまだ読んでません。面白かったということで、読むのが楽しみです。
 
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