漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 



「いろいろのはなし」  グリゴリー・オステル 著 / 毛利公美訳
はじめて出逢う世界のおはなし―ロシア編 東宣出版刊

を読む。

 閉園後の遊園地で、眠りにつく前の回転木馬たちがいつものように園長さんに寝物語をねだるところから物語は始まる。ところが、園長さんは「もう話す物語はたったひとつしかないから、これが最後の物語だよ」と木馬たちに言ってから、物語を話しはじめる。最後の物語と聞いて、いつもお話を楽しみにしていた木馬たちは、少しでも長く聞いていたいと、その物語が終わる前に口を出す。「ところで、そのおまわりさんとおばあさん、友達になったんでしょう?それから、いろいろあったんじゃない?」こうして、サイドストーリーがサイドストーリーを生みながら、物語は大きく膨れ上がってゆき、最終的には42話にまでなって、大団円を迎える――という物語。
 解説によると、「ロシア初のハイパーテクスト物語」とも呼ばれているらしいこの本は、けれどもそんな難しい肩書はなくとも、子供にも十分に楽しめる(いや、もともと子供向けの作品なのだろう)、荒唐無稽だけれども、ところどころに深い洞察を垣間見せる、おもちゃ箱のような楽しい童話に仕上がっている。登場人物(人じゃないことも多いんだけど)たちはすべて愛すべきキャラクターたちである。子供がいたなら、実際に寝物語に、この本を読んであげるのも、きっといいんじゃないかと思う。
 ところでこの「はじめて出逢う世界のおはなし」というシリーズ、あまり話題にもなっていないようだけど、なかなか興味深いラインナップが並んでいる。ディーノ・ブッツァーティの長編が入っているのもさることながら、なんと、かつて妖精文庫から出ていたイルゼ・アイヒンガーの「より大きな希望」が新訳で入っているのは驚いた。妖精文庫版「より大きな希望」は、ぼくにはとても大切な小説の一つで、こうした形ででも復刊されるのは嬉しい。第二次大戦下の、ユダヤ人とのハーフの少女の物語で、「詩的ではあるが暗くて救いのない小説」かもしれないけれども、こちらの姿勢を正させるような、真摯な力に貫かれている。新訳になってどう変わったのか、いずれ読んでみたいと思う。


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