漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 




「天夢航海」 谷山由紀著
ソノラマ文庫 朝日ソノラマ刊

を読む。

 ついこの前、嵯峨景子さんの「コバルト文庫で辿る少女小説変遷史」(彩流社)を読んだのだが、その中で、自分が影響を受けた本として取り上げられていた一冊。作家名も作品名も初めて聞いたのだが、なんとその直後に、古書店の百円均一棚に並んでいるのをたまたま発見。これは縁だなと思い、購入して、読んだ。
 連作短編集だが、最後に大団円らしきものを迎えるので、長編としても読める。あとがきによると、もともとはL'espritというイギリスのニューエイジグループの「天夢航海/far journey」というアルバムタイトルにインスパイアされて冒頭の「ここよりほかの場所」を書き、評判がよかったので、連作にしたということらしい。L'espritというグループは初めて聞いたので、音源がないかとちょっと調べてみたが、なかなか見つからず、かろうじてhttps://www.youtube.com/watch?v=46q6xfBqiLQnoの1分08秒あたりから、多分アルバムタイトル作の「far journey」の断片が入っているのがみつかっただけである。一聴した限りでは、まあ、よくあるヒーリング・ミュージックというやつだと思って間違いなさそうだ。著者の谷山さんは、このアルバムの曲にインスパイアされたとは書いておらず、ジャケットの東逸子さんの絵に惹かれて買い、せっかく買った以上はもとをとろうと思って、そのタイトルからイメージを膨らませて小説を書いたということだから、もしかしたら音そのものにはあまり感心しなかったのかもしれない(ぼく個人としては、ヒーリング・ミュージックはちょっと聴く分には部屋の空気が透明に変わる感じがしてそれなりに悪くないのだけれど、ずっとかかっていると逆にイライラしてくるので、もしそうだとしても、不思議には思わない)。
 物語の大枠は、こういうものだ。
 物語の主人公たちは、誰もが「自分のいるべき場所はここじゃない」と感じている少女たち。さらに言うならば、彼女たちにとって自分のいるべき場所とは、この現実世界のどこにもない、全く別の世界。その街の小さな書店にそっと置かれた小冊子『天夢界紀行』に出てくる世界がそれで、彼女たちは、その場所に「還る」ことを望む。だが、それは決して単なる夢物語では終わらない。その世界に「還る」ためには、冊子にそっと挟み込まれたチケットが必要なのだが、彼女たちにはそれぞれ、そのチケットを手にする機会が実際に訪れるのだ。そうして、チケットを手にした彼女たちの前に巨大な飛行船が現れるのだが――
 ネタバレになってしまうのだけれど、少女たちは結局、誰も天夢界には旅立たない。物語中で、たったひとりだけ、天夢界に旅立ってしまう人物が出てくるのだが、それは主人公の少女たちではない。天夢界とは、何なのか。それは、読めばすぐに理解できる。
 小説は、結構面白かった。アマゾンのレビューを見ても、非常に評価が高い。もちろん少女向けのヤング・アダルト小説だし、「フーン」という感じで読み飛ばそうと思えば軽く読み飛ばせてしまうことも確かなので、老若男女を問わず誰にでも十分読むに耐える作品とまで言うつもりはないけれど、少なくとも多感な十代の少女が読んだなら、ツボに入るかもしれない小説だとは思った。特にラストの清々しい力強さが、同じように悶々とした日々を送っている少女たちに、強いメッセージを残すかもしれない。

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