漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 



「レベッカ」(上・下) デュ・モーリア著 大久保康雄訳
新潮文庫 新潮社刊

を読む。

 ヒッチコックの映画でも有名な古典的サスペンス小説だが、20世紀になって突如狂い咲いた、ゴシック・ロマンスの金字塔としても知られている。ぼくはこの作品を読むのは初めてだし、映画も見たことがないので、内容は全く知らないまま読んだが、楽しめた。正直、上巻の三分の二ほどはかなり冗長で、ここで挫折してしまっても不思議ではなかったのだが、そこを乗り切ると、物語は一気に加速し、後は一息で読み終えてしまった。なるほど、「レベッカ」というのはこういう話だったのか。
 この小説で特徴的なのは、物語が主人公の独白めいた回想として語られること。そのため、物語全体がどこか淡いセピア色の色彩を帯びて感じられてくる。これが、内容的にはなかなかハードなこの物語を、どこか懐かしく、幻想的なものにしている。ちなみにレベッカというのは、主人公が結婚したマキシムの死んだ前妻の名前であり、小説の中に直接現れて活躍するわけではないが、その強烈な存在は、死してなおあらゆるところに影を落とし、支配している。一言で言えば、「レベッカ」という物語は、貧しい生まれの主人公が、由緒ある家柄の男性に見初められ、結婚し、その嫁ぎ先の屋敷を支配する前妻レベッカの幻と対峙するという物語である。そうして読みながら、読者の心の中にも、決して物語の表舞台には出てこないレベッカという稀代の悪女の強烈な幻が焼き付くようになっている。
 もともとこの本は、結婚したとき、妻が持ってきた蔵書の中に含まれていた。もう二十数年前のことである。それで、大久保訳というわけである。今は新訳が普及しているようで、確かに大久保訳には、多少古さが気になるところがないでもない。お菓子の名前とか、違和感は相当ある。だけど、書店でちょっと新訳版を見てみたところ、逆にずいぶんと読み易すぎて、この小説のゴシックな雰囲気をあまり伝えていないのではないかという気もしなくはないから、大久保訳で読んでよかった気がする。
 話が横に逸れた。で、当初から妻は面白いよと言っていたのだが、ぼくはずっと手にとっていなかった。それを、ゴシック小説の末裔として有名だからと、ちょっと読んで見ようと思った訳である。読み終えて、確かに面白くて、人気があるのはわかったけれども、多分これは、どちらかといえば女性に人気のある作品だろうとも思った。女性は、いずれ結婚すれば相手の家に入ることになるということを、ずっとどこかで考えながら成長するのだろうから、そこに一つの恐怖が入り込む場所があるわけである。男性には、それはないから、こうした、結婚相手の家で直面する怖さとその時に感じる心理というのも、想像はもちろんできるけれども、切実さが女性とはやや違う気もする。デンヴァーズ夫人やレベッカに対する感じ方も、きっと多少違ってくるのではないだろうか。この小説を読んで、ゴシック・ロマンスのロマンスたる所以が、やっと腑に落ちた気がする。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« ローリー・ウ...   
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。
数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。
 
この記事のトラックバック Ping-URL
 


ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません
 
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。