眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

手紙と切りそろえられた前髪

2012-06-04 | 
少女が口笛を吹いて僕は目をつむった
 風が緑の草原を走り
  僕らは黙ってアルコールを摂取した
   僕は古い友人の面影を想い
    何度もおどけて乾杯の挨拶をする
     長すぎる前髪を悪戯して
      遥か彼方の約束の地平を望んだ

      拒まれた優しさ
       虚像を捏造する工場の煙突の様に  
        想いは地上を徘徊する
         日常の愚鈍さに呆れ
          僕らは酩酊の時間を優雅にすごす
           コークにマイヤーズラムを入れ
            見慣れない評論家を無視し
             ただ永遠を想った

              ただ永遠を想った

              ね、
               歌って。

               少女が口笛を吹いた
                僕はその哀しいメロディーに詩をのせた
                 愚かしい正義の微笑
                  愛すべき地団太の孤独
                   僕らはふしだらなこの世界を愛した
                    何万回も愛した
                     死んで生まれ変わり
                      カルマの螺旋に乗り
                       君と僕は出会ったのだ

                       決して偶然等ではなく

                       近隣の郵便局から
                      一通の手紙が届いた
                     差出人は不明だったが
                    その字体の書き方で
                   すぐに君だと分かった
                  古い友人
                 いつか離れ離れで暮らす日常



            「やあ。元気かい?
           僕は元気にやっている。君もそうだと嬉しい。
          長い時間が経ったね。
         今でも僕は僕を許せないんだ。
        たぶん君と同じ様にね。
       ところで、
      ところでそっちの世界はどうだい?
     相も変わらず愚鈍な輩がトランプを切っているのかい。
    でも君は安心していいよ。
   何故なら
  ジョーカーのカードは僕がこっちに持ってきたからね。
 奴等は永遠に上がれない。
永遠にゲームは続くのさ。」

  くすくす微笑む君の表情を想った
   だとしたら。
    だとしたら僕らのゲームも永遠に終わらないんだね。
     くすくす、と君が微笑む
      僕らは狭い部屋で
       ハルシオンの錠剤をジャクダニエルで飲み干した
        すぐに酩酊した意識の範疇で
         世界の尺度を分析した
          君は物理と天体に詳しかったから
           この世界について永遠に喋り続けた
            僕は黙って君の声を聴いた
             どんな音楽よりも優美な音色を

              君が去った寒い冬が行き去り
               何度も暑い夏の幻想が訪れた
                何度も何度も夏が訪れた
                 僕の時間は永遠に真夏の炎天下の下なのだ

                 僕らはアルコールを飲み続けた
                  現実界隈の人込みに塗れ
                   呆れたゴシップと
                    現実特有の気だるい疲れの中

                    緑の草原
                   少女が語りかける
  
                  あなた
     
                 前髪が長すぎるのよ

               そんなんじゃ前が見えないわ

             前?

            どうして前を見なくちゃならないんだい?

           少女がくすくすと微笑んだ

          約束なのよ。この世界にあなたがいる為の。

         目をつむってお酒でも飲んでて。
        すぐに終わるから。

       僕が目をつむると
      はさみで前髪が切り落とされてゆく

     君さ、
    何で髪切ってんのさ?

   なんだっていいじゃない、切れ味が問題なのよ。

  ちょきちょき

 終わったわ。ジ・エンデ。

  目を開けると青すぎる青さの空が見えた

   眩しすぎる日差し

    駄目だよ、僕にはこの世界は眩しすぎる。

     また前髪を伸ばすことにするよ。

      そうしたら、

       また前髪を切ってあげるわ。

        簡単なことよ。

         少女が優しく語りかける

          くすくす

           緑の草原の中

            少女が口笛を吹く

             哀しき口笛

              僕は酔いのまどろみに

               永遠のまどろみに





 
               手紙と切りそろえられた前髪

















             
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風邪

2012-05-25 | 
あなたの中の
 なにかに似ているの

そう云って、少女は古びた小説や誰もが忘れた、ぜんまい式の時計を僕に自慢げに見せる。僕は肌寒い冷気にあたりすぎて毛布をあたまからかぶっていた。ひんやりとした空気が、少しだけ上昇した体温をなぐさめてくれる。咳き込みながら煙草を吸うと、いいかげんにしなさい、と少女が煙草をとりあげた。

 風邪をひいた時は暖かいものを飲むべきよ。
  たとえば?
   僕が云うと彼女は変な顔をした。声がでないのだ。
  あなた、熱があがっちゃったんじゃないの?
そう云って僕の額にあてた手のひらはひんやりとして心地よかった。

  たとえば?
   暖かいミルクとか、紅茶とか。
  牛乳きらい。ワインじゃ駄目かな?
 呆れた表情で彼女は僕のボトルを奪い取った。

部屋の灯りがぼんやりと世界を浮かび上がらせる、そうして、とても寒くて静かな夜だった。散々飲んだ、昨日の晩の余韻は、重苦しい熱と倦怠感だった。僕は毛布に包まって、少女の入れてくれた紅茶を飲んだ。
ちょっとだけね。そう云って彼女は秘蔵のコニャクを紅茶の琥珀にまぜてくれた。
僕はすこし疲れたようだ。

  ねえ。
   こころの風邪には何が効くの?
 こころにも風邪があるの?彼女ははっか煙草をくわえて火を点けた。
   からだの風邪があるんだから、こころも風邪をひくさ。きっと。
    それより、なんで君だけ煙草すってるのさ、いんちきだ
   癖よ。ただの
 いんちき、とうるさい僕の口に彼女は吸いかけの煙草をつっこんだ。
風邪、ひどくなるわよ、きっと。
 ひとくちだけよ。そして煙草を取り上げた。

  ね、こころの風邪には何が効くの?
 
黙って、少女は一枚のレコードを、そうっと再生機にのせた。ピアノの音が優しく僕らを包み込む。その旋律は、いつかどこかで聴いたことのある懐かしいメロディーだった。
  
   素敵な音だね。
  昔の音楽よ、街の店で見つけたの。あなたと同じ。古臭いの。
   でもね、

少女ははっか煙草を揉み消しながら微笑んだ。

   でもね、きっとこころの風邪にいちばん効くの
      たぶんね

静かに夜が通りすぎる。追いつけないほどの記憶が呼吸を始めた。ひそやかな音楽が僕を眠りに誘った。

   朝になれば
    きっと治ってるわよ。風邪。

  忘れないでね。この音楽。

    眠りの淵で、少女の言葉が優しかった。



  
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砂時計

2012-05-20 | 
その頃僕は不必要なものだけを集めた
 なるべく意味の見当たらない壊れた部品や
  ワインの空き瓶
   古臭い音楽
    使い道の分らない道具
     鳴らないオルゴール
      インクの切れた万年筆
       時を刻まない時計
        受信しないラジオ
         茶色く変色した文庫本
          届くはずの無い手紙

          そんな類だ

         そうして
        その中でも特にお気に入りだったのは
       骨董屋で雨の日に手に入れた
      小さな砂時計だった
     僕は深夜2時に青い月明かりの窓で
    飽きもせず砂が零れ落ちる情景を眺めた
   砂が失くなってしまうと
  砂時計を逆さにしてまた砂が落ちてゆくのを眺め続け
 ワインやらウイスキーやらを舐めた
雨の夜には部屋に蝋燭を灯し
 煙草を吸いながらただぼんやりとしていた
  その当時の僕の存在がそうであった様に
   ただぼんやりとしていた

    零れ落ちる砂は音を立てなかった
     それで僕は
      時間には音が無いんだ
       と奇妙に納得した
        世界は音も無く消失される
         そして誰かが砂時計をひっくり返す
          そうやって時間が永遠に失われ続けた
           そんなことをぼんやりと考えていた

           くるり

           時間というのは
          深海に降り注ぐプランクトンの死骸の様に
         だんだんと積み重なり
        地盤の様に幾重にも層を成し
       そこで鳥の化石が眠っているものだと想っていた
      古い井戸の底に記憶が安置されているのだと信じていたのだ
     でもそれは全くの思い込みだった
    時間は永遠に失われ続けるのだ
   膨大な記憶はやがて磨耗され
  次の瞬間僕の存在やあらゆる事象が消えてゆく
 きれいさっぱり消されるのだ
まるで授業中に描いた落書きが
 新しい消しゴムで消される様に
  跡形も無く存在を消去される
   必要なものにも不必要なものにも
    大して意味など無かった
     万物は永遠に零れ落ちるのだ

     僕は砂時計の零れ落ちる砂を
      ただ眺めていた

     そこには奇妙な優しさと哀しみがあった
    僕はその優しさと哀しみを感じながら
   飽きもせず煙草を吹かし酒を舐めた
  静かな時代だった
 仲間がたむろする店のドアを開け
自分の部屋に帰ると
 僕は独りでぼんやりと酔いの回った頭で
  砂時計を眺めた
   そうしてぼんやりとした自分の存在に関して
    ぼんやりと考えた
     部屋の中は不必要なもので溢れかえっていた
      思い出したように
       白いノートに言葉を紡いだ

       そこには意味など見当たらなかった
      そうして今だって僕にはあらゆる意味が見当たらない
     いつだって時間は音も無く
    永遠に零れ落ちる

   誰かの悲しみや苦しみや切なさや

  暖かい記憶や懺悔や感謝の祈りも

 全てが

音も無く零れ落ちるのだ


  永遠に 








            
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清潔な夜

2012-05-15 | 
もう君との連絡網も途絶えてしまった清潔な夜
 どんなに大切な物でもいつかは消えてなくなってしまうよ
  気をつけるように
   ハルシオンの忠告を僕はもっと真剣に聴くべきだったのだ
    事象はやがて磨耗され記憶の残渣となり
     やがて現実界隈のそこいらに散布される
      まるでDDTの白い粉の様に
       全てが消毒を余儀なくされた世界では
        いつだって僕等は君を失ってしまうのだ
         そしてその事が
          哀しい出来事であったことですら
           優しい粉雪の下に化石のように埋没されゆく
            あたりまえだった筈の日常
             あたりまえだった筈の君の言葉
              全ては封印されるのだ
               なんの前触れも無く
                なんの約束すらも無く

                僕等の日常
               珈琲を淹れ
              マグカップで大事そうに飲む君は
             寒さに打ち震え毛布に包まり夢を見る
            見果てぬ地平
           決して僕が到達出来ぬ領域
          ね
         彼等は何処に消え去ってしまったんだい?
        僕の問いに黒猫が答える
       
       あんたのやり方は流行らないんだよ
      今時モールス信号なんてね

     それでも僕は努力した
    決して忘れないように記憶を暗号化し
   短い手紙にしたためて
  ジェリービーンズの空き瓶に入れて大切にしたんだよ

 あんたは
あんたはその記憶の飲み物の残りを
 全て飲み干しちゃったんだ
  もう何も残っちゃいない
   その空き瓶には何も残っちゃいないんだ
    哀しいかもしれないけれど
     失われたんだ
      永遠に
       だからもう失う心配はしなくていいんだ
        だってもう全ては永遠に失われたんだからね

        どうして?
         なにがいけなかったのさ
          僕はただ君の声が聴きたかっただけなのに

          僕はウィンストンの空箱を握り締めた
         黒猫のハルシオンは
        憐れむ様に指を鳴らした

       ぱちん

      世界が闇に覆われた
     誰かの匂いがする
    わずかな残り香だけが頼りの推理劇
   手探りで辺りを徘徊しても何処にも触れられなかった
  地団太の孤独
 広げられた世界地図に
僕の国は存在しなかった
 僕は呆然と旅を続けるのだ
  だめだ
   君を消し去ることなど出来るはずも無い
    虚構で構築された世界の果てで
     もはや失われた大切な物を想い
      僕はやがてうずくまる
       もう疲れ果てたのだ
        この世界や僕自身の存在の証明に
         ありふれた言葉で粉飾したかった
          ね
           君の国は全体何処なんだい?

           浜辺で拾った空き瓶には
          あの時の字体で僕のサインが署名されている
         誰もいない浜辺で波の音だけが鳴り響いた
        為にならない落書きは
       修正液で綺麗に消されていた
      
      無駄だよ
     何回書き記したって消えてなくなる
    あんたはあんたの国の地図は描けないんだ
   もうあんたは国には戻れない
  
  ハルシオンの声がそう呟いた
 それでも僕は何万回も地図を描いた
次の瞬間永遠に消毒され行く世界の中で
 ただひたすら言葉を紡いだ
  記憶の匂い
   夕暮れ時だ
    君の影がながく伸びた
     くすくす
      と小人たちが僕を笑い物にした
       緑の小人がバニラエセンスを振り撒き
        僕の行く手の邪魔をする
         光が射した
          突然に


          タクシーが止まった
         扉が開き運転手が退屈そうに云う

        お客さん、乗るなら早くしてくれよ
       そうでなくても此処には長く止められないのに

      僕は手を上げたのだろうか
     記憶が混乱している
    
    最近は取締りが厳しいのさ
   やたらに車を止めることは出来ないんだ
  
  夜はとても寒かった
 僕は耐え切れずに無言でタクシーに乗り込んだ

それでお客さん、行く先は?

 運転手がごくあたりまえの言葉を口にする
  だがしかし
   僕には僕自身の行く先など解る筈も無かった
    煙草を取り出し
     昔馴染みの友人から届けられたライターで灯をつけた

      波止場まで

       僕はそう答えた

        波止場?
         何処の波止場のことだい?

          何処でもいいんだ
     
           何処でも



       もう君との連絡網も途絶えてしまった



         清潔な世界の清潔な夜










       
             
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遊園地

2012-05-13 | 
子供達の声が聴こえた
 少年がボールを追いかけ
  夕映えのグランドに伸びる影を
   校舎の二階の窓から
    小説のページをめくりながら少女が眺める
     夏が去り秋がやって来る
      全てが過ぎ去る
       記憶という表層に
        万年筆で傷を付けるのだ
         無垢な子供達の
          想いは砕け散る

          砕けちった破片を眺めて
         僕は公園の付近を歩いていた
        小さな石を見つけ
       そっとポケットに忍ばせた
      まるで壊れやすい想いの様に
     古びた廃墟の様な遊園地には
    傷ついたメリーゴーランドがあって
   僕はベンチに腰かけはっか煙草に火をつけた
  ぼんやりと煙が風に流された

 ペンキの剥がれかかった白い馬
壊れた腐敗臭をたなびかせるかぼちゃの馬車
 鏡館の不可思議な虚像
  誰も乗らない車の玩具に百円玉を三枚入れたが
   やはり車は動かない
    断裂した記憶は決して動かないのだ
     缶珈琲の空き缶に吸殻を入れ
      僕はこの限りなく虚無を感じさせる
       壊れかけた世界をぐるりと眺めた

       遊園地のの中央には観覧車があった

      かき集めたコインを入れると
     観覧車が音を立ててゆっくり回り始める

    ぎぎぎ

   さびついた扉を開け
  僕は観覧車に乗り込んだ
 音を立てながら世界がゆっくりと流転する
僕は黙って視界の下の風景に別れを告げた
 こうして見ると
  こうして見ると遠ざかる風景は
   まるで記憶の断層の様だった
    沢山の想いや君やかつての少年少女達が遠くに見えた
     それ等は記憶の国だった
      遠ざかる世界にはなにもかもが或る様な気がした
       其処に大切な何かを置き忘れたような気がした
        僕が持っている物は
         煙草とライターと拾い上げた小石だけだった
          
         子供達の声が聴こえた

         僕はぼんやりとこう想った
        今この瞬間は
       あの時校舎の二階で少女が読んでいた
      誰かの小説の類じゃないのだろうか?
     僕等が呼ぶ世界の記号は
    黒板に白墨で描かれた記号暗号のの公式ではなかったのか?
   蝶が蜜を探して花の無い花壇を飛んでいる
  今は届かない想いを探す僕の様に
   無意味に散策する庭に於いて
    僕は虚無に煙草の煙を送り続ける
     誰にも届かない瓶詰めの手紙には
      世界の構成要素の成分が書き記されている
       そうやって時間が流れた

       子供達の声が聴こえた

       
        記憶の国から


       グランドに長く伸びた影


      誰かが影踏みをして遊んでいた






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たゆたう

2012-05-04 | 
この世界から零れ落ちる僕を
 表層の意識の分泌物がたおやかに証明し
  判決は下された
   存在
    かような現象は認められない
     とがめる群集の声が
      次第に大きくなり
       それはやがて
        飛来する戦闘機の爆音の様に
         君のかすかな歌を永遠に消し去る
          僕はおんぼろのギターを抱えてうずくまる
           歌声が聴こえない
            か細い君のファルセットヴォイスが聴こえない

            いつかの昼下がり
             僕は美術館へ向かった
              同行した黒猫のハルシオンが不思議そうに尋ねた
    
               あんたがさ、
                美術館に行くなんて何年ぶりだい?
                 最後に行ったのはあの街の美術館だね、
                  もう十年の歳月が過ぎるよ。
            
                  そう。
                 十年前には僕は途方にくれ
                まるで救いを求めるかの様に
               チケットを買って
              常設展示室に足を運んだ
             外は真夏で蒸し暑く
            冷房の効いた美術館はまるで天国みたいだった
           
           僕はいつも古賀春江の絵の前で立ちすくみ
          しばらくしてから絵の前を離れ
         美術館が大金をはたいて購入した
        サルバドール・ダリの作品を無視して公園に出て
       ちいさなワゴン車の親父さんから
      ホットドックを買って一人きりで齧った
     それが一週間の決まりだった
    それだけが僕の唯一の決まりだった

   ね、
  どういう風の吹き回しだい?
 いまさら美術館へ行きたいだなんて。

ハルシオンが皮肉に赤い舌で髭先を整える

 僕はずうっと黙り込んで美術館へてくてくと歩いた

  美術館の前に来ると僕は黒猫に云った

   ここからは君は入れない。
    決まりなんだ、悪いけど。

    猫は不服そうに鼻を鳴らし
     フィリップモーリスに火をつけた

      ふん。嫌な世の中だよ、全くもってね。

       その意見には同感だった
        僕は黒猫を残し建物の中へ足を踏み入れた
         一人の女性が展示室で受付をしていた
          
          どうもありがとう。ゆっくりしていって下さいね。

           女性に会釈して
            僕は彼女の作品達を眺めた
             モノトーンに近い色使いで
              大きな作品
               中くらいの作品
                小さな作品
                 それらをぼんやり眺めていた
                  近くで見たり遠くから眺めたり
                   それ等の作品たちを見ていると
                    動き出すことが出来なくなっていた

                    「生と死の境界線」
                   ぼんやりと岩井寛の本の題名が  
                  頭の中を駆け巡った
                 完全な静けさが展示室を
                息つける場所に変貌させていた
               僕には芸術のことはよく分からないけれど
              この女性の作品には自分でも不思議なくらい
             惹きこまれていった
            僕はあの暑い夏を想い出していた
           たくさん汗をかいて飛び起きた真夏の日

          急に黒猫のハルシオンの事が気になった
         立ち去ろうとする僕に
        彼女は
       丁寧に見てくれてありがとう。
      と云った

    黒猫は車のボンネットの上に乗っかっていた

   それで、
  それで知覚の扉は見つかったのかい?

 僕がうなずくと猫は満足げにあくびをした

  そいつはよかった。

   僕はこの女性の芸術家とだんだんとお友達になった
    女性はまるで植物の種類のひとつの様に
     穏やかで優しい口調でユニークな言葉を使った
      とても素敵な方だ

       ある日女性のギターに模様が装飾されていた
        すごく素敵なデザインだった

         そのデザインがいつまでたっても脳裏をよぎった
          僕は意を決して彼女に
           僕のギターに絵を描いてくれませんか?
            と無理なお願いをした
             彼女は微笑んでお願いをきいてくれた

             そのギターは
            ずうっと昔にフェンダーのベースを売って手に入れた
           初めて手にしたギターだった
          この子とはいつも一緒だった
         深夜二時の公園のベンチや
        皆が寝静まったキャンパス
       酔いが回りすぎた夜も
      誰かと出会ったり分かれたりした時
     病院の中庭でグリーン・スリーブスを弾いた時だって
    いつだってそばにいてくれた
   僕は音楽とこのギターに何度も救われた

  出来ましたよ。

 と、しばらくして連絡が届いた。

ギターケースから楽器を取り出すと
 ボディに植物のモチーフの素敵なデザインが施されていた
  僕の部屋に飾られたギターに装飾されたデザインは
   想った以上に部屋の雰囲気をアットホームな空間にしてくれている
    僕はそのギターを優しく弾きながら
     そうっと歌を歌った
      この世界の悪意のある音の中でもまだ歌える
       そう想った
        嬉しかった


        美わしき悦びに満てる真の魂は穢れること無し


 
          ありがとう。

























                         
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虚飾鏡

2012-04-29 | 
世界の中心点で愛して
 狂おおしい刹那の波動で
  やがて花が咲き枯れる様に
   枯渇した井戸の底に
    僕等は魂の寝床を封印した
     壊れゆく沈黙と
      打算の無い地団駄の孤独
       消え去るのなら
        ねえ
         お願い
          消え去るのならいっそ

          誇り高き野良猫の黒が
         優雅にあくびをする
        魔法を操れる民の如く
       彼の瞳が流れた
      氷が溶けるんだ
     容赦ない人々の群れに闇を眺む
    辛辣なる太陽の日差しが
   彼にピストルを持たせた
  弾丸は入っていないよ
 くすくす笑って
君は銃口をこめかみに突きつけた

 太陽が溶け
  月が消え行く
   世界はまるで磨耗された白黒フィルム
    ねえ
     あのネガは何処に消えたのさ
      きっと其処に
       僕らの真実が詰まっているんだ
        愚らない現実のオブラートに包まれていない
         怠惰で神秘的な愚弄が
          
          僕等はかつて僕らだった
           信じられるかい
            僕等は僕ら以外の何者をも必要としなかった
             
            ご覧よ
           少年が呟く
          あの小鳥は病室の窓ガラスにぶつかって
         ちからなく堕ちたのだ
        眼鏡の縁を悪戯しながら先生が微笑んだ
       ICUに入れようかな?
      
      ねえ、先生。

     なに?

    ここは一体何処なんですか?

  難解な質問ね。

 髪の長い女性は僕の瞳を覗き込んだ

いつかの風景
 いつかの想い
  いつかの声
   風の鳴る音
    風鈴の声
     君が君でいられた世界
      君が蔑んだ日常
       君が望んだ世界
        空気の澄んだ深緑の草原

        あなたは本当に忘れたの?

       描写された幻影が紅い唇で口ずさむ歌

      忘れてはいけない歌

     忘却の彼方の地平で少女が歌った歌

    僕らは約束したのだ

   やがて花が咲き枯れる頃

  見せてよ

 オブラートに包まれていない現存在を

枯渇した意識の深い井戸の底に仕舞っている夢の名残を

 波止場で宿泊した夜

  フロントで鳴らした呼び鈴の残響音

   本当に此処が何処か忘れてしまったの?

    少女が哀しげに指をさす

     扉だ


     向こう側だ




      行こう




     生きている


    愚かさに塗れていても



    粉飾された


    
    虚飾鏡 







     








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空の話

2012-04-19 | 
  
    「空の話」

    空の話をしよう  
    とても綺麗で
    こわれやすくて

    空の話をしよう
    なくした記憶の  
    いちばんすみっこにある
    小さなお話

    君が街を歩いているから
    僕は嬉しくて
    何かに感謝する

    君がいてくれて
    嬉しい だから
    空の話をしよう
    小さなお話

    永遠があるなら
    君といっしょに
    いたかった

    少年は路上に落ちてる
    石を眺めて
    同じと思った

    君が
    しあわせになれるなら
    僕は僕の石を 
    君にあげる

    君がしあわせになれるなら
    僕は僕の意思を
    君にあげる


    そうして
    そして
    あの空の話をしよう

    夢見たものは
    うそか本当かわからないけど
    あの気持ちは
    たしかに 残った

    君がそばに
    いてくれるといいな

    空の話をしよう
    小さなお話





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音階

2012-04-08 | 
あの人さ、行っちゃったじゃない?

 つまんなさそうに鉛筆をくるくるしながら少女が呟く
  僕はあいも変わらず煙草を咥えて
   最近手に入れた6弦ベースを悪戯していた

   君さ
    あの人のこと好きじゃなかったんじゃないの?

    少女は古めかしい鉛筆削り機に2Bの鉛筆を突き刺して
     影も形もなくなるくらいまで鉛筆を削った
      まるで鰹節みたく

     あたしはあの人のことなんて好きでも嫌いでもないわよ

     少女は煙たそうに僕の煙草の煙に目を細めて
      僕の口からシガレットを奪い取り
       苦々しそうに一服した

      そう?
       君はあの人がいるときいつも皮肉っぽかったじゃない?

       どうでもいいのよ。

        そう云って彼女は少しばかり眩しくなった陽光に手をかざした

         陽光が部屋の水槽の水をきらきらと泳いだ

          僕はコントラバスギターの調弦に四苦八苦していた
           12フレットの音がかなりずれている
            たぶんネックが反っているのだ
             僕は不安定なハーモニクスを出して
              楽器の弦を緩めケースに仕舞いこんだ

              ね
             あの人の楽器はどうなったの?

            少女が灰皿ではっか煙草を揉み消しながら
           上目使いで僕を覗いた
        少女の視神経には僕は魚眼レンズの類として読み取られたのだろうか? 
       壁に立てかけた六本の楽器のケースの横に
      僕はあたらしい茶色のケースをかたずけた

     君さ。

    なによ。

   君がこの世界を離れなくちゃならないとき誰に君の楽器を預けるつもり?

  少女は有田焼のカップでレモネードをごくり、と飲み干した

 誰にも預けない、この子はあたしの一部なんだから。

臆病そうな表情で一瞬目を伏せながら
 彼女は古臭いシュタウファーを抱きしめた
  そうして僕に珈琲を淹れろと命令した

   卑怯よ、そんな質問。

    濃ゆめのマンデリンにウイスキーを零しながら
     少女の機嫌は最高潮に悪かった

      でもさ、
       そういう瞬間ってふいに訪れるよ。
        どうしようもなくつらい事柄だけれど。

        あなたにはそんな経験あるの?

       少女は僕を皮肉に見つめた

      あるよ。

     僕は壁に並んだ六本の楽器を眺めながら珈琲を飲んだ

    そうしてあれからまだ一度も開けていない楽器のケースを遊覧した
   少女はその視線の先に気付いて不思議そうに尋ねた

  そういえばあのケース開いたことないわよね?

 小さな水槽の中で魚が泳ぐ
眩しい斜陽に青い魚たちが躍っていた
 くるりくるりと

  あのケースの中には何が入っているの?

   少女はお酒でまどろみながら僕に尋ねた

    記憶さ。

     記憶?

      そう。遠い記憶。

       

       あの時あの人は僕に一本の楽器を託したのだ
        それがあの人の夢だったのか抵抗だったのか遺言だったのか
         今となっては解らない
          ただ今の僕にはそれらは遠い記憶なのだ

           僕は21歳で魂の行方を知らなかった
          あの人の意思と無関係に音楽を無造作に扱い
         戯言と虚偽の記載で現実を粉飾していたのだ
        あの時こんな瞬間が訪れるなんて想像も出来なかった
       遠い記憶なのだ

      ぱしゃり
     と魚が水面の表面を微笑むように撫でた

        

    ね
   君、音楽好きかい?

  怪訝そうな表情で少女は僕の意思を値踏みした

 あたりまえじゃない。
音楽がなかったらどうにかなっちゃうわ。

 僕は微笑んだ

  たぶんさ
   たぶんそういう人に預けるんだと思うよ。楽器。

    少女は不服そうに僕に何かを云いかけ
     そっと黙り込んで緑色のソファーに横たわった
      眠いのだ

       たぶん

        たぶんあの人もそんな風に想って
         楽器を手放したんだよ

          少女が軽い寝息を立てた

           僕はその呼吸音を聴きながら
            まだ開けられない楽器のケースを眺め
             そっと煙草に灯を点けた


              今はいない


              君を想って



             陽光がさんざめく


            きらきら


           きらきら



          無数の音階が世界を満たした







 

 
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幻影

2012-04-07 | 
壊れかけた錆びた愛車で
 煙草を口に咥えている
  沈み行く夕日の光の加減で
   煙が紫色に染まった
    アクセルを踏み込んだ瞬間
     まるで君が歩いている幻覚を見た
      僕は驚いて振り向いたけれど
       君の後姿がバックミラーの端から消えた
        やりきれない想いで僕は深いため息をつく
         デジャ・ヴィウ
          記憶の階層が螺旋状で
           いつまでたっても
            星空には近ずけない
             
            もし目が見えなくなり
             耳が聴こえなくなったとして
              五感が永遠に失われるなら
               僕は世界に遮断されひとりぼっちで
                サンドウィッチを齧らなければならない
                 孤独とは
                  午前三時に飲むスコッチに似ている
               
              大切なひとから突然連絡が途絶える
             僕はため息をつき
            煙草に灯を点ける
           いつか伝えようとした言葉を
          云わせてくれる隙も与えず
         僕の五感は閉ざされ
        永遠にひとりで緑の森の迷路で迷子になる
       哀しくて
      精神は崩壊するのだろうか?
     僕は君と一緒にいたかっただけなのに
    ただそれだけだったのに
   世界の果て
  樹海の森で限りなく孤独になるのだ

 世界の果ての森はひとりぼっちには辛すぎる
僕は何度も路に迷い
 魔法使いに路を尋ねる
  何度も路に迷う僕に呆れて魔法使いの家の扉は
   いくら叩いても返事がない
    
 神様の使いだという天使がにやにやしながら僕の前に立っていた
  君さ、誰かを探しているのかい?

   大切な存在を探しているんです。

    サヨナラは云ったのかい?

    さよなら?

    魔法の言葉だよ。さよならを云うと
     大抵の人たちは永遠に再会できない。二度と会えないんだ。
      この世界の決まりなんだ、悪いとは想うけど。
       それで。君はさよなら、と云ったのかい?

       僕はひとしきり考えて答えた

        さよならは云わなかった。

        そう。

       天使は嬉しそうにワインのボトルを取り出した
      ならいつか会えるはずだよ。
     君が忘れず誰かが君の存在を憶えているならね。
    グラスに赤いワインがそそがれた
   待てばいいんだよ、ただそれだけ。人生は比較的単純に構成されている。
  それに。煙草もワインもたっぷり用意してきたんだ。
 天使でもお酒と煙草を飲むの?
天使はふくれ面をして少し怒って見せた
 お酒と煙草が嫌いな天使なんてきめつけないでよ。
  人間の創った勝手な常識なんて迷惑してるんだ。
   挙句に天使なんていない、なんて決め付ける。散々な扱いだ。
    云っとくけどさ、くだらない常識なんて捨てちまえばいいと想うよ。
     世界にはいろんな意見はあるけどサ。
      お酒と煙草が好きな天使がいたって誰にも迷惑かけてないのに。
       それに。おいらはあんたのことを救いに着たんだよ。
        救いに?
         そう。

        僕らは煙草を吹かしながらお酒を飲んだ

       ね。僕を救いに着たんでしょう?

      まあね。
     天使は上機嫌で鼻歌でビートルズの「FOR NO ONE」を口ずさんでいる
    だいぶ酔っ払っている様子だ
   ひとつ質問があるんだけど。
  いいよ、なんでも聴きな。

 世界はいったいな何で創られているの?

天使が一瞬真面目な顔になった

  夢さ

   夢?

   そう。世界は夢で構成されているんだ。

    いいよ、信じなくても。

     天使がワインの空き瓶を振り回しながらふて腐れる
      まるで反抗期の子供だ

       でもね、世界は夢で出来ているんだ。

        僕は煙草の煙を深く吸い込んだ


       幻影の君は真っ直ぐに前を向いて歩いていた
         あれはたしかに君の影
        会いたくて会えない虚無の憂い
         
         苦しいよ

        お願いだ君に会いたい


         
         夢





             
        
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