眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

猫の宙空

2017-06-27 | 
哀しみの曖昧さが世界の境界線を指し示す頃
 僕は縁側で煙草を咥えてワインをマグカップで飲んだ
  静かな世界ではのんびりと小鳥が囀る
   身体と精神をアルコールで弛緩させ
    酔いの怠惰な惰眠を貪った
     過剰な情報も辛らつな皮肉も其処では無縁だった
      僕はのんびりあくびをした

       あんたさ、
        どうしてお酒を飲むのにおいらに声をかけないんだい?

         黒猫が不満そうに僕を叩き起こした
        
         いや、だって朝の8時だろ?
          君を起こすのを悪いと想ったんだよ。

           あんたはこんな素敵な天気の日に
            おいらを無視して自分だけワインを舐めていたんだね?

             黒猫の怒りは最高潮に達していた

              ごめん。
               だからさ、これをあげるよ。

               僕は黒猫にとっておきの葉巻を手渡した
                猫は其れを受け取りひとしきり香りを確かめて
                 手慣れた手つきで吸い口をカットした
                  それからライターで火を点け
                   美味そうに煙を嗜んだ

                   キューバ産のパルタガスだね。いい葉巻だ。

                   そう云って黒猫は濃ゆい紫色の煙を深々と吐き出した
                    煙が早朝の庭にもくもくと立ち込めた
                     ワイングラスに赤を注いで
                      彼は一息で飲み干した

                      ねえハルシオン。

                      僕は黒猫に尋ねた

                     朝の8時から縁側でワインを飲んで葉巻を燻らせるのって反社会的な行動なのかな?

                    ハルシオンはくだらなさそうに僕を一瞥して2杯目のグラスを空けた

                   紳士の嗜みだよ。それに
                  それに世界の最果てでは今は深夜だよ。
                 何の問題もない。
                反社会的な動議が喫煙と飲酒だとしたら
               おいらは喜んで反体制の乾杯を挙げるね。

              僕等は朝8時にワインで乾杯をした
             すっかり機嫌が良くなった黒猫に僕はほっと胸を撫で下ろした

            弾かないのかい?

           なにを?

          楽器さ。

         ハルシオンはギターを指さした
        僕は黒いケースから古ぼけたギターを引っ張り出し調弦した
       それからフェルディナンド・ソルの月光を弾いた

      ハルシオンはつまらなさそうにワインを空けて鼻を鳴らした

     あんたの曲を弾きなよ。
    誰彼の曲なんて聴き飽きた。
   それにそんな曲誰だって弾けるさ。
  あんたにしか弾けないあんた自身の曲がお酒のつまみにはちょうどいいよ。

 僕は咥えた煙草を灰皿でもみ消して適当なコード進行に旋律を乗せた
それから途方に暮れてワインを飲んだ

 どうしたのさ?

  丁寧に葉巻の灰を落としながらハルシオンが呟いた

   自分の曲が出来ないんだ。
    長いこと曲を創っていなかったからね。

     ふ~ん。
      調弦はどうなっているの?

       ハルシオンが尋ねた

        EADGBE
         レギュラーチューニングだよ。

          DADGADに変えてごらん。

           僕はハルシオンの云われるがままに調弦した
            音を出すと不思議な広がりのある和音がした

             カポタストを2フレットにしてごらん。

              ハルシオンはそう云ってワインを飲んだ
               カポタストを嵌めると不思議な音が流れた

                それで弾いてごらん。

                 僕はゆっくり確かめながら音を紡いだ
                  いつもの運指なのに意図しない旋律が浮かび上がった
                   僕はゆっくりギターを弾いた

                   あんたは変則調弦は嫌いだったのかい?

                    別段そういうこともないんだけれどね。

                    ギターで遊びながら僕はそう答えた

                     皆ね、調弦が唯一つのものだとおもいこんでいるのさ。
                      調弦を変えることで現れる世界もあるんだけどね。
                       あんたの演奏、いいよ。
                        アルコールのつまみにしては上出来だ。

                        僕とハルシオンはギターを弾きワインを飲んで煙草を吹かした

                        世界がいつまでもこんな幸せであればいいのに。

                         黒猫は酔いのまどろみに宙空を見つめた 
                          僕には彼が何を想っているのか皆目見当がつかなかった
                           だから想いを込めて楽器を弾いた


                            世界がこんな幸せであればいいのに。

        
                            宙空を眺める黒猫の呟きが木霊する


                           祈りを込めて


                          僕等は今日を生きている



                         生きている


























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眼鏡屋

2017-06-19 | 
不穏な空気に誰もが身を潜めた
 雨の雫がぽとりと落ち
  やがて灰色の空から激しい豪雨が地上に降り注いだ
   家路を急ぐ傘の群れが
    足早に交差する
     街角には誰一人存在しなくなった
      まるで誰かの涙のように雨が降り注いだ
       
      彼等には帰れる場所があるんだよ

      眼鏡屋の軒下で雨宿りをしていた僕に
       店から出てきた老人が声をかけた
        僕はぼんやりと意識を取り戻した
         そう、雨なのだ

      あんたには帰る場所は無いのかい?

     老人に云われるまで
    僕は自分に帰る場所が無いことに気付かなかった

   お入り、
  珈琲くらい淹れてあげるから。

 僕は云われるまま眼鏡屋の中に足を踏み入れた
老人は眼鏡屋の店主らしい
 古ぼけた陳列棚には眼鏡のフレームが並べられていた
  そのどれもが奇妙なデザインをしている
   あるフレームの柄は螺旋状にぐるぐる巻きになっていたし
    あるフレームにはレンズをはめる場所が三箇所もあった
     時計が付いているフレームを眺めていると
      年老いた店主が語りかけてきた
      
      私は酸味がある奴が嫌いでね
       
     店主が淹れてくれた珈琲はとても温かかった
    僕はカップに口をつけ
   それから珈琲の黒の中を見つめていた

  何処から来たのか聞いても答えないんだろうね?
 あんたはこの店に入ってから一言も喋らない
だが珈琲の味の感想くらい聞きたいもんだ。

 僕は自分がとても失礼な訪問者であることに少し恥ずかしくなった

  美味しいです、珈琲。

  やっと言葉に出来たのはそれだけだった
   それでも店主は満足げに頷いて紙煙草を取り出すと
    それに灯をつけて美味そうに煙を吸い込んだ
     そうして僕にも一本薦めた
      両切りのピースは
       久しぶりに煙草を口にする僕には
        若干へヴィーな代物だった
         すぐに頭がくらくらして目が回った
          店主はそんな僕を面白そうに眺めながら
           新しい煙草にマッチで火をつけた

           どうして
          どうしてあなたは僕を店に入れてくださったんですか?

         僕が尋ねると
        店主は面白そうに微笑んで
       静かに語りかけた

      外はご覧の様に雨だししばらく止みそうにも無い
     君は店の前で雨宿りをしていたし
    珈琲で一服する相手にはふさわしかった
   それに
  私は楽器が好きなんだ
 もちろん楽器を演奏する演奏者には少しばかり好みもあるがね

店主は僕のぼろぼろになって傷だらけの黒いギターケースを指差した

 この眼鏡たちはどうして変わった形をしているんですか?

  僕の質問に店主は答えた

   私がデザインして造ったものばかりなんだ
    変わった形に見えるかい?
     私は変わった物や壊れ物が好きなのさ
      だからこの眼鏡たちには全て致命的な欠陥がある

      趣味だから何とも云えないのですが、それは売り物になるんですか?

     年に一回くらいの確立で売れるんだ。
    物好きな人間はこの世界には案外と多いらしい。

   店主はとても可笑しそうに微笑んで三本目の煙草をつまんだ

  あんたに雰囲気がよく似ているよ。

 がらくたの玩具の様な眼鏡のフレームに手を伸ばした僕に店主は呟いた

 壊れ物。私は嫌いじゃないけれどね。
珈琲のおかわりはいるかい?

 僕等はとても濃いマンデリンを飲みながら煙草をふかした

  楽器を見せてもらってもかまわないかね?

  僕は雨に濡れたケースからギターを出して店主に手渡した
   慣れた手つきで彼は愛おおしそうにギターを扱った
    職人特有の繊細さで楽器をひととおり観察して彼は僕にギターを返した

    古い楽器だね、ずいぶんと。
     だが状態がすこぶる良いね、いい持ち主に恵まれてきたんだね。
      大切に扱われているのがわかるよ。
       何か弾いてくれないかい?
        私もできるなら音楽を弾いてみたいんだがね。

        店主は残念そうに呟いて左手をかざした
         左手には小指と薬指が無かった

        僕はギターを手にして何を弾こうか迷った
       それから昔の映画音楽を弾いた
      店主は煙草をふかしながら目を閉じている

     演奏が終わると彼は満足そうに微笑んだ

    懐かしい曲だね。若い頃にその映画を観た事があるよ。

   
   
   年を重ねるというのはどんな気持ちなんですか?

  
  まだ少年だった僕は迷いながら質問した

 どうだろう?
 良いことも半分。そうでないことも半分。
  世界はそのように構築されている気がするね。
   これは私の私見だが。

   やがて雨が止んだ
   
   僕は珈琲と雨宿りの礼を云って店を出ようとした

    これをプレゼントするよ。

    そう云って店主は別れ際に僕に丸眼鏡を手渡した

    昔、こういう眼鏡をかけて素敵な音楽を創った音楽家がいたんだ。
     いろんなことを云う人々がいたが私はわりと好きだった。


    僕は礼を云って眼鏡屋を去った


   それから長い間


  僕は店主からもらった丸眼鏡をかけていた



 雨が上がった空は



 奇妙に空気が澄んでいて


  
  なんだか世界が近くに見えた
















      
 
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修理

2017-06-05 | 
車庫から車を出した瞬間
 お隣さんの家の壁に突っ込んだ
  激しい衝撃にふらふらになりながら
   ドアを開けて外に出た
    愛車は見るも無残に変わり果てた姿になっていた
     ボンネットから
      白い蒸気がゆらゆら立ち込める
       近所の子供達がたくさん集まってきて
        ものめずらしそうに僕の車を鑑定し始めた
         
         ねえ、この車壊れたの?

        少年少女たちが容赦なく質問を浴びせかける
       見ればわかるじゃないか、
      と大人気なく呟いた僕は
     いたたまれなくなって煙草をポケットから引っ張り出した
    子供達は実に楽しそうにバンパーやら
   破損したライトやらを解体し始めた
  危ないから止めなさいと大人たちの怒声が舞う
 僕は地面にしゃがみこみ
青い過ぎる空を眺めて煙草を吸った
 愛車に悪いことしたな、と想った
  溜息しかでてきやしない

   修理工場の昔馴染みは呆れた顔をした

    先輩、派手にやっちゃいましたね。

     癒るの?

     エンジンはかかりますよ。

      ぶるるる、と車が声を上げた

       ちょっと時間かかりますけど家で預かります。
        この状態だと今日持って帰るの無理なんで
         明日の朝レッカーします。
          それにしても、
           それにしても先輩相変わらずですね。

            迷惑かけるね。

            慣れてますよ。

           僕等は車庫の前で一服した
          青い空の真下で


        後輩が置いていった代車を使わせてもらう事にした
       エンジンをかけると
      カーステレオから音楽が鳴り響いた
     ミシェルガンやらハイロウズや矢沢栄吉やらイースタン・ユースが
    爆音で流れた
   後輩の音楽センスが変わらない事になんだか嬉しかった
  ロックンロール
 そうして僕の夏が始まりを告げた
  咥え煙草で運転した
   いつもと同じ路がなんだか違う風景に見えた
    ぶるるる、とエンジンが音を立てる
     僕はゆっくりアクセルを踏んだ

      長い坂道を登る頃
       カーステレオから歌声が流れた
        僕はその声に聴き入った
         あいつの声だった
          忘れもしないしゃがれた濁声だった
           ノイジーなギターのリフに刻まれ
            激しく声が叫んでいる

            或いはただ声質が似ていただけなのかも知れない
           それでも僕は
          もう長い間会った事も無い仲間の声を想った
         魂の限界まで叫び倒す歌声
        あんた、まだ歌ってたんだ
       僕はそっと呟いた
      煙草の灰がジーンズに落ちた
     まるで燃え尽きた記憶の残骸の様に

    そのバンドには洒落たテンションコードも無ければ
   饒舌で技巧的なギターソロも存在しなかった
  ただただロッックンロールだった
 やけにロックンロールだった
まるでやけくその様なノイズだった
 どうしてこのご時世にデビュー出来たのか
  皆目見当のつかない音楽だった
   僕は何度も何度もその歌を聴いた
    仕事に向かう時
     疲れきった夕方
      少し風の出てきた夜
       僕は車を走らせた
        公園のベンチや海沿いのテトラポットに座り込み
         煙草を吸いながら
          何時かの風景を想った
           それは断絶された筈の世界だった
            奇跡のように
             しゃがれた歌声が僕に勇気の成分をくれた
              まだやれる
               握り拳を握った


              二週間後に愛車が戻ってきた
             後輩は代車は禁煙なの常識でしょう、と
            ぶつぶつ云っていた

           ねえ。

          なんです?

         いや。なんでもない。ありがとね。

       僕は結局あの曲が誰の曲なのか確かめなかった
      あの歌声が古い友人だったのか訊かなかった
     それでも僕の中で
    彼は歌っていた
   あの忘れもしない独特のしゃがれた声で

  戻ってきた愛車はまるで余所行きの洋服を着させられている様だった
 清潔な新品の部品の匂いとオイルの匂いがした
僕はすぐに煙草を吹かせて匂いをつけた
 懐かしい匂い
  愛車の中では
   修理に出す前に聴いていた
    スティングの曲が流れていた

     ジョン・ダウランドの曲

      古い歌だ


      「流れよ、我が涙」





      僕の夏が始まった







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緑の庭園

2017-05-22 | 
緑の庭園
 宙空に漂う密やかな場所
  僕等が暮らした有象無象の夢の在りか
   凝固した記憶の楽園
    世界の在り様が時間を超越した
    
     古びた茶色に変色したポスター
      もう
       決して訪れない音楽会の案内文には
        君が不遜な態度でアジテーㇳした論文が掲載されていた筈だ
         珈琲の黒の中
          夢見ている
           夢見ている

           フェアリーテイル
            緑の刻印
             少女のお茶会に呼ばれ
              僕はオレンジ色の着色された明かりの下
               煙草を咥えてギターを弾いた

                チムチムチェリー
                 ロンドンデリー
                  哀しみの礼拝堂

                   誰かが
                    壊れかけたピアノを弾く
                     グリーンスリーブスが流れ
                      僕等はくすくす微笑んで紅茶を嗜む
                  
                      あの頃の僕たちは
                       ただ楽しくて
                        終わりが来るなんて
                         誰も想わない

                         緑の庭園
                          緑の楽園
                     
                           大好きな人に
                            あの花を贈れたら
                             失った記憶も
                              安寧の寝床に辿り着けるのだろうか
  
                              眠れない夜が
                               幾つも通り過ぎる
                                消えない傷跡
                                 笑わない傷口

                                 不遜な態度で
                                  侮蔑した存在に
                                   何時しかかような価値が付与されうる
                                    だがしかし
                                     ねえ
                                      僕はまだ楽器を抱えているよ
                                       可笑しいね
                                        まだ詩を歌っているんだよ

                                         眠れない夜
                                          眠れない夜

                                          くすくす

                                         くすくす

                                        記憶の君が微笑む
                                       あの理科の準備室で
                                      煙草に灯を付け
                                     存在の在りかを模索し
                                    丹念に黒板に落書きした

                                   緑の庭園
                                  其の地図を描こうと
                                 仲間達は航海に出た
                                辿り着けぬ果てに
                               彼等彼女等は大人になり
                              僕だけが
                             記憶の最果ての国を目指したのだ

                            庭園には緑の薔薇が咲いている
                           庭園の中央には
                          温室の蝶園があって
                         不思議な蝶達が舞っているのだ

                        ウバでいいの?
  
                       少女が紅茶の葉を吟味している

                   僕はクッキーを齧り頷いた
                     少女がカップとポットを暖める
                    そうして僕等のお茶会が始まった

                   我々は静かにお茶を飲んだ

                  あなたには帰る場所はないの?

                 突然少女が呟いた
                僕は途方に暮れて煙草に灯を点けた

               考えた事ともなかったよ

              ねえ
             あなたは何処に行きたいの?

            最果ての国

           最果ての国?

          少女が不思議そうに聴き返す

         そう
        いつか
       此の現世の肉体がきれいさっぱり消えてしまえば
      きっと辿り着けると想うんだ

     其処で誰かが待っているの?

    どうだろう?
   もう記憶が曖昧で
  大切な友人の面影も想い出せないんだけれどね

でもあなたは行くのね
 最果ての国に

僕は黙り込んで少しだけ頷いた
   少女は優しい瞳で僕を見つめた

    あなたはどうして眠れない夜に詩を描くの?

     誰かに

      誰かに伝えたいんだ

       君の事を忘れない

        決して忘れない

         風鈴の音が聴こえる

          幻聴だろうか

           風の通り道

             緑の記憶

              緑の庭園


               君を

                大好きだよ


                 大好きだよ

                 
                  深夜3時に呟いた

                   少しく

                                    
                      
                 ねえ




                      愛しているよ






























































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17歳

2017-05-14 | 
やがて風に舞うだろう
 桜が満開した石畳の坂道で
  花びらに邪魔されながら写真を撮った
   マリア像は不思議な微笑を湛え 
    思春期の僕らはただ夢を追いかけた
     17歳の春
      戻れない過去
       今でも呼吸する記憶たち

        長い石畳の坂道に慣れるには
         余りにも脆弱な精神だったはずだ
          僕らは寮の屋根に上って
           煙草を吹かし
            永遠に喋り続けた
             まるで熱病のように
   
             砕け散る破片
            それを記憶と名付けるのなら 
           指向性のハンドルマイクの如く
          注意して録音に望まなければならない
         かつて少年と呼ばれた
        君の饒舌なアナウンス
       昼休みにマイク・オールドフィールドを流した君は
      赤い舌を出した
     消えないで
    どうかお願いだ

   画面がちらつく視野
  薄れ行く記憶
 魚たちの世界
井戸の中の化石

 封印された刻印
  散髪屋で同じ髪型にされた
   春が来る
    同じように17歳の時間が
     国会で民主的に可決された
      「異議なし」
        深夜ラジオを毎晩聴いた
         電気信号が遊覧される
          気紛れな君の所作
           造作も無い事
            僕は空き部屋で
             ただひたすらに油絵を描いた
              どうして17歳だったのだろう?

               僕らは音楽だけを信じた

              ジャニス・ジョプリン
             シド・バレット
            キング・クリムゾン
           レッド・ツェッペリン

          そうして
         あなたの名前
        ジョン・レノン
       僕らは世界を手中に収めた
      「グレープフルーツ」と「スイミー」を読んだ
      君はだらしなく制服をはおり
     僕はヒトラーの「我が闘争」を暇つぶしにした
    ルドルフ・シュタイナーに傾倒した10代は
   入学と同時に保護者との対面を余儀なくされる
  
  どうして
 17歳だったのだろう?
 永遠を信じた

やがて

 やがて桜の花びらが舞うだろう

  祝福された

   懺悔のように

    木魂する

     一片の詩

      「呼吸しなさい」

       僕らは

        17歳だった




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赤い花

2017-05-08 | 
凝縮させた記憶の場所に
 赤い花が咲いた
  如雨露で水をかけ
   しばらくぼんやりと煙草をふかした
    庭園は世界の果て
     懺悔した我々の密やかなる夢 
      君が残し
       僕が受け継いだ意思の下
        誰にも聴こえない歌を歌った今日と昨日と明日
         古臭いギターケースから楽器を出して
          哀しいけれど少し歌った
           ラムネの甘ったるい記憶
            風鈴がちりんと鳴った

            赤い花
         
           君はあの時代そう呼ばれ
          ふてくされた表情ではっか煙草を咥え
         つまらなさそうにギターを弾いた
        僕はグラスのウイスキーを舐めながら
       こんな時間が永遠に続くといいと想った
      このままが
     このままが
    真夏の昼下がり
   風鈴の歌

  ねえ
 僕らは十年後にどうしているだろうね?

ぼんやりと酔いのまわった頭で僕は彼女に尋ねてみた
  
 赤い花は珍しく優しい声で答えた
 
  あたしは赤い花のままだわ。

   いつまでもね。

    僕は?

     あなたはたぶん名前を忘れるわ。

      そしてあたしの顔も髪型も影の形も忘れるの。

       どうして?
        君のこと忘れるはずが無いよ。
         それに僕は君のそばにずっといるんだよ。

         赤い花は可哀想に僕を見つめた

          あたしはこの場所に残るわ。
           あなたは此処から旅立っていくの。

            僕だって何処にも行きはしない。
             この場所に残るよ。

             決まりなの。
              あなたの十年後はこの場所ではないのよ。

               風鈴が哀しくささやいた

                ちりん

               哀しい時には歌って。

              それで哀しみを分かち合えるわ。

             僕は残ったウイスキーを飲み続けた

            永遠はいつまでたっても訪れなかった

           時代が変わり世界が通りすぎ僕は縁側でビールを飲んでいる

          スピーカーから戸川純の歌が流れた
   
         「蘇洲夜曲」

         泣きたくなる青い空の下

        赤い花が綺麗に咲いた













 
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青のシグナル

2017-05-05 | 
優しい哀しみが嘘でないなら
 じっと黙って海を見ている
  重く垂れ込めた雲の下
   深い青を見つめている
    僕は煙草に火をつけ
     少女は水筒に入った珈琲を飲んでいる
      青は青のままで
       だから僕たちは永遠の青の住人だった
        全てが哀しみの憂いを帯びた青の世界だった

         絶望と希望の成分が一緒なんだ

          君は厳かにそう告げ
           祭壇に捧げる様にグラスの葡萄酒の赤をかざした

            古びた教会のステンドグラスの窓から
             微力な光が差し込んでいる
              今にも霧散する大気の中
               僕らの魂もまた無力だった

               君の故郷の海は綺麗なんだろうね

                僕は黙りこくって葡萄酒を飲み干した

                 忘れたよ、そんな昔のこと

                  君は僕の返事に満足して微笑んだ

                   きっと綺麗な青のはずだよ

                    そう云って
                     手のひらに十字架を握った

                    ね

                   祈ろう

                  何をさ?

                 世界が永遠に青である様に。

                だがしかし
               僕の手のひらには何も存在しなかった
              哀しいけれど僕は何ひとつも持てなかった
             古ぼけたラジオから流れる音楽だけが
            僕に魂のありかを教えてくれた
           君は僕に魂の無限を伝えようとし
          僕は君にルーリードの詩を伝えようとした
         教会の静けさの中
        僕らはただ葡萄酒が無くなるまで
       永遠について考察した

      永遠

     優しい哀しさのことをそう呼ぶんだよ

    君はそう云って存在を現象から乖離させようとした
   そして僕は君の魔法を信じていたのだ
  緩やかな螺旋
 魂の邂逅
その儀式の為
 僕らは葡萄酒を飲み続けた
  ラジオからヴェルヴェト・アンダーグラウンドの曲が流れた
   
   哀しみ

    君のいない世界を羅列する夜

     僕には捧げるものが何も無かった
      
      だから深夜三時にバーボン三杯分祈るのだ

       少女がギターで「哀しみの礼拝堂」を弾いた

        哀しみ

         優しく密やかな熟れた果実のたくらみ

          試行錯誤する夜が

           夜が青であるといい

            青い世界が永遠に続く様

             祈るのだ

              ウイスキー三杯分の祈り

               決して届かぬ想い達

                

                青の緩衝




                優しく哀しい青
















    

        
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しゃぼん玉

2017-04-17 | 
君の琥珀に触れた時
 君の為にしてあげられることが
  なにひとつ無かった真夏の午後
   炎天下の日差しの中で僕はただ
    哀しみを咀嚼していた
     口の中で苦い記憶がこびりついて取れない
      ポケットウィスキーの瓶でうがいをした
       虚脱した僕の存在
        いつかの少年の時間
         君の為にしてあげられることが
          なにひとつ無かった

          僕は馬鹿で冷淡で皮肉屋で無知だった
           
          レストランのステーキのソースが美味しかった
         君はゆっくりと肉を咀嚼し嚥下する
        僕は夢を咀嚼しワインで飲み干した
       店を出て
      僕らは路面電車に乗り込んだ
     石畳の街並みに電車は各駅停車した
    その度に
   僕らは旅を降りるべきか考察し
  結局街の何処にも降りることは無かった
 路面電車の中には乗客が居なかった
夜が知覚され用意周到に僕等は最果ての国に到着した

 握った手を離さないで と君が囁く
  街の中では握った手は離しちゃいけないの
   手を離すと貴方は迷子になって
    永遠に会えなくなるの。

    永遠?

     そう。永遠。

      僕は永遠を見た事がないよ
       それに永遠よりはプラネタリウムの星空が好きだよ。

       好き嫌いではどうしようもないのよ。
        好むと好まざるにかかわらず
         貴方は永遠を知るのよ。

        でも、僕は牛乳が飲めないしチーズも嫌いなんだ、
         たぶん「永遠」もあまり好きじゃない。

         皮肉屋の僕の言葉を無視して
          君はもう一度云った

         人はすぐに消えるわ。
          手を離すと貴方は迷子になる。
           そうして私達は永遠に会えなくなるの。

           人はそんなに簡単に消えるのかい?
            僕ははっか煙草に灯をつけた

            そう、まるでしゃぼん玉のようにね。

            君がそっと歌った

           しゃぼん玉とんだ
          屋根までとんだ
         屋根までとんで
        壊れて消えた

       それが僕らだった

      まだ少年の頃

     僕には君にしてあげられることがなにひとつ無かった

    握った手を離さないで

   耳元で君の声が木霊する

  いまでも





         
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輪曲

2017-04-13 | 
たぶん君への打電で通じるはずだ
 深夜の物悲しい物語
  何時かの少年の時間は
   決してついえること無かった記憶の暗号
    飛べない鳥が呼吸をする午前零時
     記憶の井戸の底に君たちは眠っている
      
     大学のキャンパスの広場のベンチで
      君は煙草を咥え
       大事そうにギターを抱えている
        適当なアルペジオで和音を奏で
         つまらなさそうに空を眺めた
          僕は君の側に座り
           紙コップの珈琲を飲んだ
            幾人かの学生達が僕らの前を通り過ぎてゆく
             その影は
              まるで黒白フィルムの在り様だった

              物言わぬ惰性で
               スピーカーから狂乱が訪れる
                アジテートする彼等の騒音に
                 不規則に空気が振動した七時頃
                  遊覧飛行する僕らの意識は
                   常に飛べない籠の鳥だった

                   終焉を待つテレパシー
                    空虚な想いは
                     常に優劣をつけない
                      打電した暗号
                       其れだけが真実だ

                       珈琲を飲み終えると
                      僕は眠そうな君の身体を抱えて
                     いつものバーに運んだ
                    紫の煙に巻かれた店で
                   オイルサーディンとクラッカーをつまみに
                  バーボンを胃袋に流し込んだ
                 静かなカウンターで
                君は楽器を抱えて幸せそうに眠った
               レコードから
              優しくボブ・ディランが歌った

             全体君の事を僕はどれだけ憶えているのだろう
            記憶の螺旋を辿るには
           バームクーヘンの層は
          奇妙に分断され細く繋がっている
         君の前髪を想い
        ただ煙草に灯を点けた

       様相は乖離された意識の分別
      頼りない小鳥を抱く
     不手際な優しさで
    君は歌を歌い
   僕は僕自身を消失した
  
  君は歌うとき意外言葉を発しなかった
 言葉は君には辛すぎて
僕には言葉は余りにも饒舌すぎた
 それで君が言葉のトレーニングをしている病院の外来で
  僕はヘッドフォンで音楽を聴き
   紙コップの珈琲を飲んだ
    昼の三時を回る頃
     君はにこにこしながら診察室の扉を開けた
      僕は受付で会計を行い
       自動販売機の珈琲を買い
        君と大学病院の中庭で静かに飲んだ
         湿度が高く
          空はどんよりと重く垂れ込めていた

           打電される暗号だけが真実だ
            飛べない鳥は
             地上を這う幻影なのだから
              
              或る日の出来事だった
               教授先生が家族会に向けてメセージを届けた

               「変化する為の努力
                 変化しないものを受け入れる勇気」

                僕はその言葉をノートにしたためて
                 大切に保管した
                  それから三日後
                   君は君の国に帰った
                    取り残された僕は
                     大学病院の中庭で
                      紙コップの珈琲を飲みながら
                       煙草を咥え
                        ノートのメセージを読み返した

                        僕の前を
                       何人かの学生が通り過ぎてゆく
                      僕は
                     出す宛ての無い手紙を書いた
                    たとえば
                   たとえば君の最後の言葉は何だったのだろう
                  言葉を飲み込んだ沈黙で
                 誰にも聴こえない歌を
                君は確かに歌った
               遠い夜明けにふと想い出す
              聴こえるはず無い君の歌声
             深夜零時に僕は僕を失った
            薄明かりの白い三日月
           微量な電磁波の陽光で
          安易に希望を持たなかった僕ら
         誰それの界隈の雑音を遮断し
        ただ優しい歌を口ずさんだ
       
       15年ぶりに訪れた大学の中庭は
      白々しい空虚さで僕を向かえ
     君の記憶は薄明の中
    幾人かの学生の影が通り過ぎる
   夕刻
  僕は泣けない者の為に泣いた
 白夜の輪曲
蝉の声が止まない

 









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呼吸と舞踊

2017-04-10 | 
時が流れる

 どくんどくん

  心拍数が上がる

   ね

    忘れないで

     少年少女が呟く

      刹那の階層

       記憶の螺旋

        ね

         憶えていて


          忘れないで

     
           空腹と酩酊の夜に

       
            踊り続ける道化

        
             愛している


              白塗りと酔いどれの赤鼻


               ね







































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