ゴッド・セイブ・ザ・クィーン 浪速の女王陛下万歳!

2016年12月08日 | 若気の至り
 季節外れの、怖い話をひとつ。

 昔は日本人が怖いものといえば「地震、雷、火事、親父」といったものだが、最初の3つはともかく、現代では親父よりも圧倒的に「女」のほうが怖いのではないか。

 そのことを感じさせてくれたのは、中学時代のクラスメートであったユウコちゃんだが、そのキャラクターは一言でいえば女王様。

 気が強くて、勉強もできて、見た目こそ地味だったが、その存在感は十分なもの。一言でいえばオラオラ系だ(ただしヤンキーではない)。

 なんといっても、男子といえばたいていが女子を呼び捨てなのに、彼女だけはかならず「テヅカさん」と「さん付け」だったのだから、その威圧感もわかろうというもの。

 事件が起こったのは、中学3年生1学期の期末テストのことだった。 

 中3といえば、大変なのは高校受験である。となると大事なのは定期テストの成績だが、ひとつ問題というか、気にかかる教科があった。

 当時、理科を担当していたスミヨシ先生というのが少し変わった人で、テストを作るときいつも副読本の問題集から7割くらい、そっくりそのまま出題してくるのだ。

 問題集には模範解答もついていたから、それを丸暗記すれば、どんな勉強ができない子でも6、70点は確実に取れることになる。

 今考えても、めちゃくちゃにゆるいテストであって、ほとんど合法カンニングというか、ともかくも理系科目が苦手だった私にとっては実にありがたいことであった。

 そんな素晴らしきスミヨシ先生のテストだったが、ここに立ち上がったのが、なにをかくそうユウコちゃんであった。

 期末テストが近づくある日、出題範囲を言おうとしたスミヨシ先生に、ユウコちゃんはすっくと立ち上がって、こうぶち上げたのである。

 「先生、問題集からそのままじゃなくて、ちゃんとオリジナルの問題作って出してください」

 楽に70点は保証されるサービス問題に、まさかのクレーム。

 虚をつかれ、なぜかと聞き返すスミヨシ先生に、彼女はその長い髪をさっとかき上げると、こう言い放ったのだ。

 「だって今のままじゃあ、あたしたちとバカとの差がつかないじゃないですか」

 その瞬間、クラスの空気が凍った。いや、凍ったどころではない、地球温暖化もはだしで逃げ出すブリザードが吹き荒れたのであった。

 ひえええ、なんちゅうこと言うんや、この女は!

 さすがは女王様。すごいこと言うなあ。「バカ」って言い切りましたよ。

 その「バカ」に「なんだと、テメエ!」と怒られるとか考えないんだろうか。

 考えないんだろうなあ。怖くもなんともないんだろう。相手は「バカ」だから。

 もちろん、だれもつっこめません。唖然呆然。

 スミヨシ先生からすると、内申点に不安のある生徒のため、なるたけ「努力点」をあげるべく(なんたって、理系なのに丸暗記でOKなのだ)そういうテストにしているのだ。

 ちょっと極端なやり方かもしれないけど、我々に損はないから、みんな黙認している。

 そこを「バカと差がつかないからやめてくれ」。女王様のアッパーカット、炸裂しまくりです。

 まあ、そんな温情がなくてもいい点を取れる彼女からしたら、ライバル、それこそ私のような、理科を苦手とする生徒の点数が楽して上がるのは損なわけだ。

 内申点というのは人と比較しての「相対評価」だから、そこはわからなくもないけど、それにしてもストレートである。

 スミヨシ先生は苦笑いし「考えておきましょう」と答えたが、その後もテストはまったく内容は変わらなかった。

 これに対して、その後も「バカがいい点とるのはゆるせない」と激おこだった彼女だが、それ以上は言っても聞かれることはなかった。ユウコちゃん無念である。

 まあ、先生からしたら「救済」でやっているのに、その助けるべき「バカ」を蹴落とせというのだから、そもそも通じるわけもないか。共産党に「完全歩合制」を要求するようなものだ。

 ただ、意見は通らなかったが、この事件によって我がクラスは、ますます「テヅカさんおそるべし」という空気で満たされることになり、その意味ではデモンストレーションの効果はあった。

 いやあ、あんなこと言える人には、だれも逆らえませんわ、と。

 このように、納得はできなかったものの、その存在感をまざまざと見せつけることとなったユウコちゃん。

 まあ、クラスの中では地味な存在であった私にはあまり接点はなかったので、彼女の「炎上」はほぼ他人事だと高をくくっていたのだが、あにはからんや。

 ひょんなことから今度は私が、教室内で彼女と直接対決に見舞われることになったのである。

 これがまさに、尿をちびるほどの恐怖体験であったのだ。

 

 (続く→こちら



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