将軍サマは爆笑コント王? 宮嶋茂樹『不肖・宮嶋 金正日を狙え!』

2017年05月14日 | 
 宮嶋茂樹『不肖・宮嶋 金正日を狙え!』を読む。

 金正日といえば、今でこそ偉大なる首領様とか、主体思想とか、悪の枢軸とか、ならず者国家とか、おそるべき独裁者としてニュースなどをにぎわしていたが、ちょっと前までは写真の一枚も流出しなかった、謎のベールで包まれた人物であった。

 その北の将軍サマを日本ではじめてスクープしたのが、「不肖・宮嶋」こと、カメラマンの宮嶋茂樹氏。あの有名な、「東京拘置所の麻原彰晃」を撮った男だ。

 モスクワを訪問することとなった将軍様を追いかけて、ロシアの大地をにしひがし。カメラかついでかけずりまわり、まだ知られざる独裁者の姿を激写し続けた。本書はその突撃の記録である。

 ロシア警察や北朝鮮SPとやりあい、特殊部隊の照準をかいくぐり、シャッターを切る不肖・宮嶋の姿はまるで映画『スターリングラード』における凄腕スナイパーの戦いのよう。

 と書くと、なにやらずいぶんハードな内容のようで、硬派なドキュメンタリーのようだが、どっこい読みどころがそこだけではないところが、本書のキモである。

 この本は、そんなスパイ映画のようなヒリヒリした追跡劇であると同時に、これが全編、かの喜劇王チャップリンも裸足で逃げ出す大爆笑の記録になっているのだから、二重にたまらないのだ。

 そうなってしまった原因は、ひとつに宮嶋氏のガテンでスピード感あふれる文体のおかげだが、やはりもう1人の主役である金正日総書記の存在にある。
 
 我らが偉大なる将軍様といえば、アジアの独裁者、悪の枢軸と並んで表されるそのキャラといえば、「独裁者界最強のオタク」でもある。

 元々映画好きで知られており、日本の作品も大好き。果ては自らがメガホンを取り、ゴジラ役者である薩摩剣八郎を招いて怪獣映画を撮るというオタクぶり。

 これはもう、どう見ても悪の独裁者というか、全体的に見て大槻ケンヂさんの『グミ・チョコレート・パイン』に出てきそうなボンクラ男子。まちがいなく、『映画秘宝』読んでることだろう。

 「人としてボンクラ教」の教祖を自認する私としては、「独裁者兼センスが高校の映研」という彼の生き様には、非常なる興味を覚える。でもって、この本に出てくる将軍サマは、いい感じでボンクラなんだなあ。

 将軍サマのおとぼけぶりはといえば、まず飛行機が怖いため移動はすべて列車。

 大韓航空機爆破事件のトラウマという説があるが、もうひとつ「ただの鉄道マニア」という説もある。

 ホンマかどうかわからないが、こういう説が出ること自体がいいキャラである。

 その専用列車も、将軍サマの快適な乗り心地を重視したノロノロ運転をするもんだから、ダイヤが乱れまくってロシア人大迷惑。

 それだけならまだしも、美術館をいきなり「貸し切りにせよ」などと命令する。

 おお、貸し切り、これぞビッグマンの象徴である。世界のVIPといえば貸し切り。

 マイケル・ジャクソンがアニメイトやディズニーランドを一人で貸しきったようなものか。そういえば、マイケルもわれわれがあがめるべき「偉大なるボンクラ」だ。

 が、世界のマイコーならともかく、北の将軍サマではそれは通じないようで、せっかくおとずれたロシア人の客が大激怒(そらそうだ)。

 「だれや! 勝手に閉めたヤツ!」

 と怒りまくり、警察が

 「我慢せえ、北朝鮮から来た金正日や」

 となだめても、

 「キムジョンイル? そんなオッサンしらんわ! ただのチビやんけ!」

 なんて、北朝鮮の人民が聞いたら卒倒しそうなセリフが飛びかう。

 核を持ち、アジアでもっとも危険な男が、ロシア人からしたら「ただの知らんオッサン」とは、実にざんない話である。ロシアといえば、数少ない友好国だというのに、このあつかい。

 また、その騒ぎを自分に対する歓迎だと勘違いして、「お出迎えご苦労」と、ブチギレしている人々に笑顔で手を振る将軍サマがいい味である。見事な天然っぷりだ。

 騒ぎはそれだけで収まらず、場当たり的に「あっち行きたい」「いや、こっちがええなあ」とスケジュールを変え、各所で混乱を誘発し、無名戦士の墓ではマナーも守らず(というか知らなかったらしい)周囲をあきれさせる。

 もちろん「喜び組」のオネーチャンも呼びよせ、好き勝手しまくり。ロシアの警官に「なんでこんなヤツ、警護せなあかんねん」と、深い、深い、ため息をつかせる。お仕事、ご苦労様です。

 とどめには、インターコンチネンタルホテルに予約なしで泊まろうとして断られ、一般客の列(!)に並ばされてオレ様ご立腹などなど

 「どんな、ようできたコントや!」

 とつっこみたくなる将軍サマ。絶対、台本あるだろ。ナイスすぎるではないか。

 一番すごかったのが、ロイヤルバレエを観劇する場面。

 ロシアのバレエは基本的には撮影禁止らしい。著作権の問題もあるが、下手にフラッシュをたくと演技の邪魔になるし、オーケストラも楽譜が白く光って見えなくなるためだとか。

 「人間のクズ」と呼ばれたこともあるという不肖・宮嶋でさえも

 「勝負は幕間の休憩や」

 とカメラをしまっていたが(ちなみに将軍サマが「勝手に」カメラ持ちこみ規制をかけ「勝手に」金属探知器を用意したが、それが壊れていて意味がなかったというお間抜けなエピソードまである)、幕が開くと同時にバッシバッシとフラッシュの音が。

 出所はもちろん将軍サマの二階席。北朝鮮SPがカメラでもって撮影しまくり。おいおい、著作権は? 観劇のマナーは?

 そんなことは、偉大なる将軍サマの前には風の前のチリに同じである。苦しゅうないぞ。余は満足じゃ。

 とどめには、36ミリフィルムまでが登場し、舞台を録画しはじめるではないか。

 チャイコフスキーも指揮棒を振るったバレエの聖地で、カメラがガラガラガラガラと盛大に音を立て、世界最高の劇場の雰囲気を、場末の映画館へと変貌させる。

 とどめは舞台が終わったあと。将軍サマのわがままにめげず舞台をやり遂げ、笑顔でカーテンコールをする演者たちの前に、ドーンとバカでかい花輪が届けられたのだ。

 金ぴかに縁取られたそれは、どう見てもバレエというよりは「新装開店」といった様相を呈しており、ほとんど『笑っていいとも』のテレフォンショッキング。

 ここまでくると、ワザとやっているとしか思えない。バレリーナたちの笑顔は引きつるばかりなのだった。

 とまあ万事がこの調子でもう爆笑につぐ爆笑。いやもう、すばらしすぎる将軍サマのパフォーマンス。

 やはり、「人としてボンクラ教」には、欠かせない戦力である。こういうのをリスペクトというのだろう。

 本書を読むと、あの偉大なる独裁者も私と同じア……もとい人間なんだなあと、なんだか存在がぐっと身近に感じられる。

 これで北朝鮮人民の塗炭の苦しみさえなければ、もっと楽しく読めたのに。そこが残念といえば残念だ。




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