角建逸『詰将棋探検隊』と、「詰将棋」=「ミステリ」+「SF」説について

2016年11月17日 | 将棋・囲碁・ゲーム
 角建逸『詰将棋探検隊』を読む。

 前回(→こちら)、江戸時代の名人によって創られた図式集『将棋無双』に大感動してしまった話を書いた。

 その神業としか言いようのない出来のすばらしさあまねきのため、恥ずかしいことに手順を追いながら(解けるだけの棋力はない)ボロボロと泣いてしまった。

 世間は恋人が死んだりする小説や、自分を信じてと歌う歌詞で泣いているというのに、江戸時代の将棋パズルで号泣するって我ながらどうなのと、冷静に一言つっこみを入れたいところではある。

 しかーし! この詰将棋というジャンルは深く知れば知るほど深淵で、かつ芸術的な側面があるのだ。

 たかが詰将棋で芸術なんておこがましいというなかれ。駒の動かし方を知っていて、パズルや数学が好きな人は一度詰将棋専門誌『詰将棋パラダイス』(略称詰パラ)を開いてみてほしい。

 私の興奮が一発でわかるはずだ。

 それにしても不思議なのは、あんな神がかり的な作品が山のように詰まっている江戸時代の詰将棋が、同時代のことについて書かれている本なんかでも、まったくといっていいほど紹介されていないこと。

 日本人には一部「江戸時代萌え」な層があって、その手の資料は数あるのだが、歌舞伎や相撲などといったメジャーどころと比べて、将棋、ましてや詰将棋はほとんど無視である。
 
 こんなにすごいのに。

 なまじの仏像や建築物なんかよりも、よっぽど国宝の名にふさわしいものなのに。なんか、すごく納得いかないぞ。

 冗談でもなんでもなく、国宝にでも申請するべきではなかろうか。「江戸しぐさ」なんていう嘘八百のバッタもんを教えるくらいなら、「詰むや詰まざるや」を教科書にのせんかい!

 そんなグチをぶつぶつともらしながらも、今日もすばらしい詰将棋を求めて『詰将棋探検隊』を手に取ったわけだが、これがまたあきれかえるくらいにハイレベルな一冊であった。

 詰将棋は単に相手の王様を詰ます(逃げ道のない状態に追いこむ)だけでなく、そこには様々な仕掛けがほどこされることがある。

 「打歩詰打開」や「中合」といった基本的な手筋から、最長手数である1525手詰めの作品「ミクロコスモス」 、「龍鋸」「馬鋸」といったアクロバティックな仕掛け。

 果ては、盤上にすべての駒が配置されたところからスタートするにもかかわらず、それが1枚ずつ消えていって、最後には必要最小限の駒しか残さない「煙詰め」とか、詰めあがり(正解図)に文字が浮かぶ「あぶりだし」とか、まあ色んな趣向が凝らしてあったりするのだ。

 作家によっては、そういったケレン味を嫌う人もいるが、私のような素人からすると、これら中国雑技団的な作品の方が、わかりやすいといえばわかりやすい。

 とりあえず、図面だけ見てわかるような作品としては、たとえばこんなのとか。


                       


           
              
 こんなんとか。



                      



 こんなんとか。


                       


 こんなんとか。


                      










 どうです。頭がおかしくなりそうな配置でしょう。

 しかも、まともに考えていたら詰みそうにないこれらの図が、しっかりと詰むだけでも驚きなのに、それがなんと正解が一通りしかなく、それ以外の手順では絶対に詰まないというのだから恐ろしすぎる。

 どんな頭脳をしているのか。これはもう、あらゆる知的遊戯や創作にまつわる人に共通するが、その人間離れした能力を、もっと社会貢献に流用できないものか。

 「その能力、もっと役に立つことに使えよ!」

 嗚呼、このつっこみこそが、芸術にたずさわるものにとっての、最高のほめ言葉かも知れないなあ。

 最高級の才能を、まったく金にならないことや、世間で知られていないことにつぎこむ。

 あえてこの言葉を使うなら、才能の無駄使い。これはもう世界で一番、贅沢で優雅で粋な生き方かも。

 カッコいいなあ。

 個人的に思う詰将棋の魅力というのは、本格ミステリとSFのそれを、合わせ持っているということかも知れない。

 私は読書が好きで、本読みというのはそれがエンタメに関しては、ざっくりいえばミステリ派とSF派に分けられる。

 私はどっちも好きな早川創元育ちだが、ミステリの本質といえば、

 「惹きつけられる不可思議な謎の提示」

 それと、

 「その論理的な解決」

 である。またSFはそこに「奇想」というか、

 「ようそんな発想、思いつきますなあ」

 と、あきれかえるようなアイデアにある。

 『ソード・ワールドRPG』をはじめとするTRPGや『モンコレ』など、幾多のボードゲームやカードゲームを世に送り出してきたグループSNEのボス安田均さんは、

 「海外のボードゲームとかカードゲームで遊んでると、《どこからこんなん思いついたん?》っていいたなるような、すごいアイデアがごろごろ出てくるんです。そこには、昔のSF短編を読んだときと同じようなおどろきがあるんですよ」

 と、おっしゃっておられたが、詰将棋もまったく同じなのだ。

 魅力的な謎の提示と論理的解決。そこに「ようそんな」とあきれかえる奇想のスパイス。

 まさにミステリでありSFではないですか。


 (団鬼六先生の詰将棋小説編に続く→こちら






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