トム・スタンデージ『謎のチェス指し人形「ターク」』から、驚異の将棋ソフトとシャーロックが生まれた その2

2016年10月28日 | 
 前回(→こちら)に続いて、トム・スタンデージ『謎のチェス指し人形「ターク」』を読む。

 宮廷の上級官吏ヴォルフガング・フォン・ケンペレンが作った「ターク」という機械人形は、玄人はだしのチェスの達人だった。

 果たして「彼」は、本当に奇蹟の機械なのか、それとも大いなるイカサマにすぎないのか。

 その結末は本を読んでいただくとして、実のところ興味深いのは、この「チェス指し機械」の残した大きな足跡が、当時のスキャンダラスな話題性だけではないこと。

 一時期話題になった電王戦やアルファ碁の衝撃などなど、

 「機械が人間にチェス(などの盤上ゲーム)で勝つ」

 という、そもそものテーゼの出発点が、この「ターク」の存在だったのだから。

 これは象徴的な意味ではなく、実際問題として18世紀と現代をつなぐ話。

 ジョン・フォン・ノイマンやアラン・チューリングといった、プログラムや人工知能の先駆者らがチェスを指すコンピュータプログラムの制作を提唱したのは、

 「人の手によって、人工の知性は生み出せるのか」

 という命題の突破口として、「知性の象徴」とされているチェスを選んだからだ。

 そこをスタートとし、挑戦者たちは様々な試行錯誤の末に、1997年のディープ・ブルーによるカスパロフ撃破によって、ひとつの大きな成果を収めるわけだが、彼らにさかのぼることそのさらに前、これに挑んでいたのが「コンピューターの先駆者」と呼ばれたチャールズ・バベッジ。

 そのバベッジが、原始的な演算装置を備えたコンピューター(パンチカード式のもの)にチェスを指させるというとほうもない発想の元となったのが、なにを隠そう「ターク」に触発されたからだというのだ。

 彼ら天才たちは、「ターク」のホラ話めいた逸話を聴いて、

 「やっぱ、人工知能といえばチェスやで!」

 となったわけだ。

 そう、現在チェスが凌駕され、電王戦やアルファ碁戦でもコンピューターに負け越し「人間終了か」と大騒ぎになったのも、この詐欺にしか見えないからくり人形に行き着くのだから、古典というのはあなどれない。

 学生のころ、世界史の授業で「マホメットなくしてシャルルマーニュなし」という言葉を習った記憶があるが、まさに「うさんくさいカラクリ人形なくして、ponanzaや技巧、アルファ碁もなし」。

 囲碁将棋ファンとしては、なかなかに感慨深いものがあるが、歴史というのは紙一重で、もしあのとき「ターク」がチェスではなく他のゲームや競技をプレーしていたらどうなっていただろう。

 「彼」の特技が「しりとり」とか「謎かけ」とか「じゃんけんキスゲーム」とかだったら、今とまったく違う展開になっていたかもしれない。バタフライ効果おそるべしである。

 そう考えると、人の進化というのは偉大なようでいて案外にいい加減な気もして、そこがなんとも、おもしろいではないか。

 そしてまた、この「ターク」はもうひとつ、現在の我々にもなじみがある文芸ジャンルの出発点にもなったのだから、まさにブラジルの蝶の羽ばたきがテキサス、のたとえ通り。

 理系文系両ジャンルで大きな竜巻を引き起こすのだから、「うさんくさい」が人を魅了する力というのは、想像以上にすごいものなのかもしれない。


 (続く→こちら








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